第7話

やっと、やっと忌々しいあの女の子供を追い出せた。


せっかく使用人として使えるところまで置いてやったのに、王家から婚約者候補の打診がアイツに来たせいで予定が狂った。

いつか金持ちのジジイか、我が家の利益になる家に嫁がせようと思っていたが今日の王妃は俺と妻に非難と軽蔑の目を向けていた。

このままアイツをここには置いておけない。


王妃とアイツに面識があったのは予想外だ。

あの王妃は次はアイツだけを王宮に呼ぶだろう。

ここでの扱いを知られるわけにはいかない。

その前にアイツを始末しないと⋯⋯


アイツを殴ろうが蹴ろうが罪悪感は一度も感じたことはなかった。

だが、自分の手で息の根を止めるのは流石に躊躇してしまった。

あれだけ痛めつけたら私がトドメを刺さなくても何処かで野垂れ死んでくれるだろう。


「お父様ぁ~ロイド様の婚約者にわたくしが選ばれるわよね?」


「ああ、お前とロイド殿下は相性が良さそうだったしな。きっと選ばれるだろう」


そうだ、私には可愛い娘エリザベスがいる。

このままエリザベスが王子の婚約者になれば王家とも繋がりができる。


我が娘が王子妃か⋯⋯さすがに第三王子では国王になることはないだろうが我が家は安泰だ。


「あなたぁ~王家からいつ婚約の申し込みがくるか分からないから新しくドレスを作りましょうよ!」


「それがいいわ!お父様ぁ~いいでしょう?」


「はははっ、そうだないいぞ~」


疫病神は追い出した。

エリザベスは我が家の幸運の女神だ。

私にも運が向いてきた!最高だ!





♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「ロイド、今日の素直な感想を聞かせてくれるかしら」


「はい!僕はエリザベスと婚約したいです!」


「⋯⋯どうして?」


「だってエリザベスはとても可愛かったですし、とても優しい子でしたから」


「どう優しいの?」


「はい!異母姉がお菓子を食べようとしていたのをアレルギーだからと止めてあげていました。まるで異母妹のエリザベスの方が姉のようでしたよ」


「⋯⋯そう。本当にエリザベスでいいのね」


「はい!僕の婚約者はエリザベスに決めました」


「わかったわ。下がりなさい」


「はい!」


ふぅ~末っ子だからとロイドを甘やかし過ぎたのね。

見極める力が足りない。

今からでも再教育は間に合うかしら?

いえ、王族を名乗るなら今のままではダメね。


フローラのあの姿を見て分からないなんて⋯⋯プロフィールは教えたはずなのに。

ガリガリに痩せて腫れた頬を隠すための厚化粧。

最後まで伏せられた目。

フローラより先に生まれたクセに妹のフリをする異母姉のエリザベス。

それを否定もしない両親。


ぴょんぴょんとウサギのように駆け回っていた笑顔の可愛い子だったのに⋯⋯

ごめんなさい。シルフィーナ。

こんなになるまで気づかなかったなんて⋯⋯


「可愛いウサギちゃんだったのに面影もありませんでしたね。ロイドには婚約は早すぎたのではありませんか?」


「キースクリフ、見ていたの?」


「はい、あれは誰が見ても虐げられている子だと気づくと思いますよ」


「フローラは俺の婚約者にします!」


「フェリクス⋯⋯分かっているでしょう?同じ家から王家には嫁げないと⋯⋯それに貴方には婚約者がいるでしょう?」


「⋯⋯俺は、俺の婚約は国の結び付きの為で俺の気持ちは⋯⋯」


フェリクスごめんなさい。

王族の婚姻に個人の気持ちを押し殺さなければならないこともあると頭では分かっていても悔しいわよね。


「でも!俺ならあの子を、フローラを大切にします。もうあの家にフローラを置いてはおけません!俺の婚約を解消して下さい!一日も早くフローラをあの家から助け出して下さい」


「ダメよ。たとえ王家でも他家の内情に口出しは出来ないわ」


「フェリクス、今は諦めろ」


「クソっ!」


口は悪くても穏やかな子なのに⋯⋯


この時のわたくしの判断とすぐに動かなかったことが原因でフェリクスの心に大きな傷を残すことになるなんて⋯⋯思いもしなかったの。





♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





もう何時間歩いているんだろう?

目的地まで道は真っ直ぐだから間違えてはいないはずだ。

もう日は沈んでしまったけれど貴族の邸宅街だからか街灯に照らされて夜道でも明るい。

変な人に声を掛けられることもなく歩き続けているけれど、もう足が鉛のように重たい。

あとどれくらい歩けばいいのだろう。もう無理かもしれない⋯⋯心が折れそうだ。

このままあの男の言った通り野垂れ死ぬなんて悔しいし嫌だ。

まだ歩ける。まだ諦めない。

心を強く持て!一歩一歩前に進め!





ガラガラと馬車が近づく音が聞こえる。


⋯⋯もう無理⋯意識が⋯⋯誰か⋯⋯助けて⋯⋯


意識を失う瞬間、温かい何かに包まれた気がした。

もう、目覚めることはないんだろうな。

私、頑張ったんだよ。


「お、お母様⋯⋯」


天国に行ったらお母様に会えるかな⋯⋯

頑張ったねって褒めてくれるかな⋯⋯


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