第6話
「はははっエリザベスは面白いね。僕は君みたいに元気な子は好ましいと思うよ」
「本当ですか~?エリザベス嬉しい~!」
ロイド第三王子とエリザベスは話が弾んでいる。
それよりも!目の前にある色とりどりのお菓子から甘い匂いが⋯⋯って、食べてもいいのよね?そうよね?その為に用意されているのだから。いま食べておかないと次に食べられる機会が何時になるか分からないものね⋯⋯うん、食べよう。
今ならエリザベスも話に夢中になっている。私のことなんて存在も忘れているだろう。
よし!そ~と手を伸ばして手前にあったクッキーをお皿に一つだけ乗せた。⋯⋯まだ気づかれていない。今だ!
「まあ!お異母姉様ったら!ダメですわよ!」
え?バレていた?
「別にいいじゃないか」
そ、そうですよね~
ありがとう!顔も知らない王子様!
ではいただきま~す。
「お異母姉様はアレルギーで甘いものは食べてはダメなんです。そうですよね?お異母姉様?」
くっ、ここで知らないフリして食べると告げ口されて⋯⋯その先は想像がつく。
「では仕方がない。君は食べない方がいい」
「⋯⋯はい」
「でも、しっかりしているエリザベスの方がお姉さんみたいだね」
ええ!エリザベスが異母姉ですからね!
「うふふっよく言われるんですぅ~ロイド様って
賢いのですねぇ~」
いや、誰が見てもエリザベスの方が年上に見えるはずよ。毎日栄養のある物を食べているものね!
せめて甘い香りだけでも堪能しよう。それでお腹がいっぱいにならないかな?
⋯⋯ダメだ。余計にお腹が空いた。朝から⋯⋯いえ、昨日から何も食べさせてもらっていない。それを訴えるように私のお腹はくぅ~くぅ~と小さな悲鳴を上げている。
その間にエリザベスと第三王子の距離はどんどん近づいているのが会話から察せられる。
はぁ、もう帰りたい。
それからの時間は空腹に耐え忍び、やっとお茶会が終わった。
最後に王妃様から声も掛けられたが空腹で何も考えられず適当に「はい」と応えて解散になった。
帰りの馬車の中ではご機嫌なエリザベスの声がずっと聞こえていたが父親からは殺気を向けられていることに気づいた。
私とエリザベスが第三王子と別のテーブルにいた時間に王妃様との間で何かあったのだろうか?
父親の殺気に気づかないフリをして邸に着くまでずっと窓の外を眺めていた。
邸に着くと何か言われる前にと、急いで部屋に戻り使用人用の服に着替えた。
仕事を始める前に何か一口でもつまめないか調理場に向かう途中で父親の私を呼ぶ怒鳴り声が聞こえた。
クソっ!溜め息を吐くのは許して欲しい。
私のこの汚い言葉使いは使用人たちの会話を聞いて覚えた。
そう、その程度の使用人しか今この邸にいないってことだ。
声のする方に向かうと、驚いたことに父親はまだエントランスにいた。鬼のような形相でね。
「お前のせいで⋯⋯」
叩かれる!と身構える前に頬に痛みが⋯⋯12歳のガリガリの子供が男の力に耐えることもできず、勢いよく転がった。
「立て!」
バシッ!
バシッ!
バシッ!
立ち上がる度に手を振り下ろされる。
少し立ち上がるのが遅れると今度は蹴られる。
いつまで続くんだ⋯⋯
もうこのまま殺されるのではないかと死を覚悟した。
バシッ
今日何度目かも分からない痛みに頬を押える。
蹴られたお腹も背中も痣だらけだろう。
「この邸から出て行け!」
ああ、やっぱり貴方は私を捨てるのですね。
「今をもってお前は私の娘ではない」
何を今さら⋯⋯
「二度と顔を見せるな!」
ええ、私だって二度と会いたくないわ。
「さっさと出て行け!」
そう言って骨と皮しかない私の腕を折れそうなほど強く握って玄関まで引きずって行く。
そのまま執事に扉を開けさせ地面に叩きつけられた。
「何処へでも行け!そして野垂れ死ね!お前の死亡届は出しておいてやる!」
叩かれた頬は熱くきっと腫れているだろう。まだ前回叩かれた時の腫れも引いていないというのに⋯⋯
それに地面に叩きつけられたせいで手と足にできた擦り傷からも血が出ている。
立ち上がって「⋯⋯お世話になりました」と頭を下げた。それをしないと今までの経験から次は蹴られることを知っていたから。
「さあ、早く出て行きなさい」
ニヤニヤと私を見下ろす女。
お母様亡き後にしっかり後妻に収まった義母。
先妻の娘の私が疎ましかったのだろう。私を最初に使用人扱いをするように命じたのはこの女だ。
派手な化粧に常に胸元が開いているゴテゴテしたドレスを好んでいるようだが、はっきり言って下品。
「お異母姉様ぁ、お可哀想~」
何がお異母姉様だ⋯⋯同じ歳でも彼女の方が数ヶ月早く生まれている。
憐れむようにお可哀想って言っているが本心ではないことは顔を見ればわかる。
お母様が私を妊娠する前に、父親が愛人との間に作った娘。
顔は義母似。髪色は父親と同じ金髪。瞳の色も父親と同じ薄い水色。
⋯⋯この3人が並ぶとまさに親子だ。
私は顔立ちも髪色もお母様から受け継いだ。
瞳の色はどちらとも違う⋯⋯アメジストのような紫色だ。
父親に似ているところが一つもない。
⋯⋯よかった。
この先、鏡を見る度にこの男を思い出すことは無いだろう。
死亡届を出すと言ったわね。
そうでしょうとも、12歳の子供が着の身着のままお金もなく家から追い出されて生きていける訳がないものね。
でも、このままこの家にいたら何れにせよ虐待か栄養失調で命を落とすことは目に見えている。
もうここに戻って来ることは二度とないだろう。
それこそ本望だ。
そのまま『さようなら』っと、心の中で呟いて元家族に背を向けて門を潜った。
歩き出しても父親の怒鳴り声と義母と異母姉の嘲笑う声が暫く聞こえていた。
でも、やっとここから解放される。
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