第25話 楽しかったデートと……

 俺が火憐をエスコートしながら様々な場所を見て回っていると館内アナウンスが鳴る。


『本日、午後3時よりイルカショーを行います。是非お立ち寄りください』


「イルカショーだって。これは見に行くしかないよね!! 」


 楽しそうにしている火憐を見て、断る訳にはいかない。それに、俺も楽しみだしな。


「俺も丁度そう思っていたところだ」


「ふふ…楽しみだね響也? 」


 どうやら顔に出てしまっていたらしい。火憐がニヤニヤしながらこちらを見ている。


「ああ、イルカショーなんて久しぶりだからな。とても楽しみだ」


 そうして、俺達はイルカショーが開かれる場所へと移動した。午後3時と言っていたからもう少し時間があるな…。この際だもっと火憐のことを知ろう。


「火憐はあの時引っ越してからどうだったんだ? 」


「うーん…普通だったと思うよ。あ! でもね…響也に会えなかったから寂しかったなー」


 火憐の急な発言に俺は顔を赤くしてしまった。


「響也ってば、顔を赤くしてどうしたの? 」


 こいつわかっているくせに、白々しい反応をしやがる。そういうところも可愛いんだけどな。


「じゃあさ…私からも質問していい? 」


「別に構わないよ」


「わかった。じゃあ聞くね…。響也はさ…好きな人いる…? 」


 俺はその質問に呆気を取られた。だって、なんて答えればいいのかわからないからだ。今、俺が仲良くしている女子は3人いる。碧、火憐、零この3人にはそれぞれの魅力がある。

 彼女たちが俺に向ける好意のことはわかっている。わかっているつもりだ。まぁ…零に関しては直接言われたわけじゃないし、俺の勘違いかもしれないけどね。


 そんな中から選ぶのは今の俺にはできない。だから俺は何も答えなかった。


「そっか…じゃあまだチャンスはあるわけだね。でもね、もし響也が望むのならハーレムでもいいと思うよ」


「……って何を言っているんだお前は!! 」


「ほら黙って、もうイルカショー始まっちゃうよ」


「誰のせいだと思っているんだ…」


「はいはいーごめんねー」


 俺は火憐に呆れながらも、イルカショーが始まるのを待っていた。




 ◇




 それからイルカショーが終わるのはあっという間だった。柄にもないけれど俺は魅入ってしまった。

 イルカ達の頑張っている姿を見て俺も勇気づけられた。あれは努力の結果だろう。何回も何回も練習してきた。そんなふうに見える。


 俺の目指すべきはあそこなのかもしれない。努力して努力して努力し続ける。まさに俺の求めていた理想そのものだ。


 火憐も俺と理由は違えど、イルカショーに魅入っていた。喜んでもらえたようで何よりだ。


「めっちゃすごかった!! 私、イルカショーって初めてだったけどあんなにすごいんだね。感動しちゃったよ」


「俺もそう思うよ。イルカ達の努力は無駄じゃない。だって、こうやって人を楽しませられているんだからね」


「うんうんそうだよね。イルカさん達の努力もめっちゃ伝わってきたよ!! 」


 火憐はイルカショーが始まる前よりも興奮している。こうして見ると子供みたいだな…。幼くて可愛い子供みたいだ。


「そういえば、もう結構見て回ったけど火憐どうする? 」

 

「えーそれは響也が決めてよ。エスコートしてくれるんでしょ? 」


 時刻はもう午後4時を目前としている。どうしたものか? そうだ! お土産だ。お土産を買いに行けばいい。葉月や姉さんにもちゃんと買っていってあげよう。


「じゃあさ、お土産コーナーに行こうよ」


「お、それいいねー。私も初めての水族館の記念に何か買いたかったし」


 そうして、俺達はお土産コーナーへと向かった。俺も火憐も特に選ぶのに悩まなかったので、時間はそれほどかからなかった。


 俺達の買い物もおわったので、帰ることにした。




 ◇




 俺達が駅についた頃にはもう午後6時を過ぎていた。この時間に女子を1人で帰らせるわけにも行かないので俺は家の近くまで送っていくことに決めた。


「響也…今日はありがとね。私のわがままに付き合ってくれて…」


「別にいいよ。俺だってやりたくてやったわけだしさ。でも、次があるならもうちょっと考える時間が欲しいな。考える時間も無くて無難な水族館を選んでしまったわけだし…」


「うん! わかったよ。次からはそうするね。でもさ、楽しかったよ? 見るもの全てが新鮮でさ。響也にもっと考える時間をあげてたら今日のことはなかったかもしれないんだよ? だからさ、響也は気にする必要ないよ」


「ありがとう…そう言ってくれるだけでもうれしいよ」


「初めてのデートが響也と一緒でよかったよ」


 火憐は恥ずかしいことを何事もないように言ってくる。けれど、そんな楽しい時間にも終わりはやってくる。火憐の家に着いたらしい。


「送ってくれてありがとね」


「男として当然のことをしたまでだよ」


「それでもだよ! 私ね嬉しかったの。無理やりとはいえ響也が私とデートしてくれたことが、本当に嬉しかったの。響也は自分のどこがいいのか? って思っているかもしれないけどね響也には響也にしかない良さがあるの…私はそこを好きになった。あの子達だってきっとそう」


「……」


「改めて言うね…私、宮野火憐は村雨響也――あなたのことが大好きです。」


 俺は何も答えられない。そんな俺を見て、火憐は近づいてくる。これでもかっていうくらい近づいてくる。


「ちょっとしゃがんで…」


 その言葉を聞いて俺はしゃがむ。それと同時に火憐によって俺の唇は奪われた。その瞬間、俺の頭はショートする。何が起きているのか全くわからなかった。ほんの数秒のだけだったけど、俺には忘れられない記憶として刻まれた。


「それじゃあ、またね」


 そう言って、帰っていく火憐の背中を俺はただただ棒立ちで見ているしかなかった。






 ―――あとがき―――

 どうもにんじんさんです。

 これにて第1章完結です。第1章で出てきたヒロインは3人にはでしたね。もう少し登場させたかったんですけどね。まぁ、安心してください。第2章からもちゃんとヒロインを追加していきますのでね。第2章はもっとラブコメ要素を詰め込んでいこうと思っています。

 今後も頑張りますのでもし面白いと感じたらフォローや☆、感想を書いてくれるとモチベに繋がります。

 至らぬ点などがありましたら、その報告もしてくれるとありがたいです。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る