第3話 王子様?

 俺はあまりにも恥ずかしいことを言われ勢い良く頭を上げ起きた。やはり俺の前にいたのは夕凪碧ゆうなぎあおいだった。


 俺は彼女と目が合う。そして、彼女は顔を真っ赤にして目をそらす。


 俺には何が何だか分からない。皆がいなくなるのを待っていたら、目の前に絶世の美少女である夕凪碧が目の前にいて、俺の事をなんて言っているのだ。俺はそんな呼び名を付けられる覚えは無い。しかもこんな可愛い子に。


 この気まずい空気をどうにかしなければと思い俺は


「あのぉ……夕凪さんどうかしました? 」

 

 と問いかけてみる。


 すると彼女は


「い…いえ、なんでもありましぇん」

 

 と言った。


 今、彼女対噛んだよね。こんな珍しい夕凪さんを見るのは初めてだ。可愛いかよ。

 そんなことを思っていると、恥ずかしさからか彼女かさらに赤くなっていた。


 会話は続かずまたしても、気まずい空気が流れたのだが、次に話を切り出したのは彼女だった。


「あの…村雨くん。もしかしてだけどさっきのやつ聞こえてたかしら? 」


 さっきのやつというのは俺が王子様なんだの言っていた話だろうか…? まぁ、多分それぐらいしかないだろうけど。

 そんなことより今俺のこと村雨くんって呼んだのか? 名前を覚えててくれたのか? いや最高だな。そんなことを思いつつ目をそらしながら答える。


「うん…そうだね。聞こえてたよ」


 彼女はより一層赤くなった。これ以上赤くなったら茹でダコにでもなりそうだなどと考えながら彼女を見る。

 

 こんなに至近距離で見るのは初めてだったからか余計可愛く見える。

 いくら彼女を見てても飽きることはない。彼女は見つめられていることを感じたのかさらに赤くなる。もう茹でダコじゃんね。


「それでさ…ってなんのこと? 」


 と俺は彼女に問う。いつまでも黙ってはいられない。何故、王子様と呼んでいるのかも知りたいからね。


 少し沈黙が続いたあと彼女は口を開けて言った。


「私ね、昔村雨くんに助けてもらったことがあるの。村雨くんは覚えてないかもしれないけどね。私は嬉しかった。その時に村雨くんは私のだって思ったの」


 彼女は真剣な顔でそう答えた。さっきまで茹でダコみたいに顔を真っ赤にしてたのが嘘みたいだ。確かに俺が彼女を助けたことは覚えていない。でも彼女の真剣さから見てわかる――嘘じゃない。


 彼女は続けて言う。


「私は、村雨くんのことが好きよ。大好き。好きで好きでたまらないの」


 面と向かって好きという感情を向けられたのは初めてだったの俺は少し驚いた。悪い気はしない。


「でもね、すぐにでも答えて欲しいわけじゃないの」


 彼女はさらに真剣な顔で言う。


「私もあなたもまだお互いのことをあまり知らないでしょ? だからね、まずは私と――友達になってください。好きになってくれるのはそれからでいいわ」


 彼女は笑顔で言った。それに合わせて俺も答える。


「喜んで」


 そうして俺の高校での1人目の友達はとても可愛いだった。




 ◇


 


 それから彼女と別れ俺は帰路に着く。入学式からの1ヶ月で今日が1番印象に残る日だった。彼女――夕凪碧ゆうなぎあおいとの出会い。


 やっと俺の高校生活が始まった。そんな気がした。


 家に帰ると、俺の姉である村雨立香むらさめりつかが勢い良く抱きついてくる。夕凪碧ほどではないが姉さんにもそれなりに胸はある。抱きついてくるのなら必然的にその感触を味わうことになる。自分の姉さんの感触なんて感じたくもないのに。ここはしっかりと言ってやらないとな。


「姉さん離せ」


「響也はつれないなぁ」


 そんな会話をしながら自分の姉を引き離そうとするもビクともしない。子泣きじじいかよ。こうなったら意地でも離さないだろう。姉さんはそんな人だ。


 姉さんに抱きつかれたまま二階にある自分の部屋へと向かう。姉さんの胸の感触を添えて。


「なぁ…姉さん。そろそろ離してくれてもいいんだぞ」


「いやだね。私の可愛い響也から離れるわけにはいかないよ」


 くっ……こうも簡単に恥ずかしいことを言ってくる姉さんは恥じらいというものがないのだろうか。いや絶対にないな。思わず反語を使ってしまうほどだ。


「ふふふ…私のことかわいいって言ってくれたら離してあ・げ・る」


 姉さんは楽しそうに言った。背に腹は代えられない。離してもらうためだ仕方ない。そう、仕方ないことだ。


「姉さんかわいいよ(笑)」


 思わず後ろに(笑)とつけてしまった。


「もっと感情込めてよ! 」


 姉さんはぷくぅと膨れ上がっている。ハムスターみたいだ。お望みとあれば仕方ない。


「ハム姉さんかわいいよ」


 とキメ顔で俺は言った。姉さんは「むきぃ」と言いつつも離してくれた。


「今日のところはそれで許してあげる。でも、明日はないと思うことね」


 そんな捨て台詞を吐いて姉さんは一階へと降りていった。本当に愉快な人だ。


 今日はいろいろなことがあった。夕凪碧に王子様と呼ばれたり、おかしな姉さんに抱きつかれたり、でもこんな日常もいいかもしれない。今はただそんなことを思っていた。





 ―――あとがき―――

 どうもニンジンです。

 気がつけば50PVありがとうございます。

 3日連続の投稿で私自身もびっくりしてます。1話書くのに結構時間をかけたのですが、2話、3話とあまり時間をかけずに書けているのが嬉しいです。

 今後も頑張りますのでもし面白いと感じたらフォローや☆、感想を書いてくれるとモチベに繋がります。

 至らぬ点がありましたら、その報告もしてくれるとありがたいです。

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