第17話:勇者と女神とおにぎりと
前回のテレサが「雀はあの様子~」って台詞の雀の部分を「鳥」に修正しました。ご迷惑おかけします。
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「うめえ……これだよ、俺が食べたかった米はこれなんだよ」
「なにこれ!ものすごく美味しいんですけど!?このパリっとした食感のノリっていうのもいいけど、何よりもこのお米。香りもいいし、ほんのり甘くてねっとりしてるのに後味スッキリ。確かにこの世界のお米とは大違いね!握ってあるお米が口の中で解ける感じもたまらない。あの神が自慢したり天王寺が泣きながら食べるのも分かるわ!」
塩おにぎりの二人の反応はこの通り。大好評だ。
ただ、俺の予想としてはちょっと違ったんだよね。違ったのは女神様の方。
天王寺さんの反応はだいたい予想通り。天王寺さんがこの世界にきてどれくらいなのかは知らないけど、やっぱ故郷の味は別格だろう。俺は最後の晩餐に選んだくらいだし、気持ちは理解できる。
ただ女神様の方は、もうちょっとこう、淡白な反応だと思ってた。ところがふたを開けてみれば、美食家が過去最高レベルのうまいもんに出会いましたって感じだ。
確かに材料からしていいものだとは思うけど、特に思い入れもないのに、そんな劇的な反応するほどの味かな?神様ならなんかもっとすごそうなもの食べてるイメージがあるだけに内心結構驚いてる。
このおにぎり、あの女神様を唸らせるほどのやべえ何か入ってんのかな?作ったの俺だけど。
「マイ、マイよ」
「テレサさん?」
そんなことを不思議がっていると、テレサさんから小声で声をかけられた。なんだろ?
「そなた、あと一個おにぎり作れるじゃろ?」
「ええ、できますよ」
そう、作れるおにぎりは三つだったけど、作ったのは二つだからあと一つ作れる。やっぱり食べたくなったのかな?
「僥倖じゃ。エルメにあの悪戯を仕掛けんか?」
「あの悪戯?ああ」
あの悪戯ってテレサさんにやったしそおにぎりのやつか。
「そなたのことを忘れておったのじゃ、それくらいしても許されるじゃろ?」
確かに。ちょっとした意趣返しにもなるし、面白そうかも。
「うんと酸っぱくしてやれ」
悪い顔してるなぁテレサさん。しかもそれが妙に似合う辺りがさすが元魔王。
「ダメですよテレサさん。いくら何でもこの世界の女神様相手に悪戯なんてああっ、残りのご飯にしそふりかけが大量にー」
「棒読みになっとるぞ。いやあ、可愛い顔してなかなかやるではないか。そなたとはほんと、仲良くできそうじゃなぁ」
「わざとじゃないんですよ。でもこうなったら仕方ないですよね。あ、私もテレサさんとは仲良くしていきたいです」
俺とテレサさんはがっしりと握手を組み交わした。
そしてすぐにしそふりかけがたっぷり入ったおにぎりを作る。相変わらず見方によっては毒々しい色だなぁ。しかも今回は大量投入してるから、余計そう感じるかもしれない。
「女神様、良かったらもう一つどうぞ」
「あら、悪いわね米原。あ、私の事はエルメって呼ぶのを許してあげるわ」
「ありがとうございます。ささ、どうぞどうぞ」
テレサさん、エルメさんの顔見てるからわからないけど今絶対笑いをこらえてますよね?気配で分かりますよ?
「しゅっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぶふっ」
「くくっ、あはははははははははははは」
「どうしたエルメ!?しゅっぱ?」
「しゅっぱ!しゅっぱ!!しゅっぱいいいいいいいいい!!!」
エルメさん、いいリアクションするなぁ。おにぎり放り投げて地面を転がりまわる女神様。腹痛ぇ。
もちろん放ったおにぎりは落とさないように俺がしっかりキャッチしている。食べ物を粗末にしてはいけない。
「わ、笑いすぎですよテレサさん」
そして俺に悪魔の囁き、いや、元魔王の囁きをした張本人は腹を抱えて笑っていた。某番組なら間違いなく「アウトぉ~」って言われること間違いない笑いっぷりだ。
「ははははははっ、くくっ、マイだって、いかにも笑いを、こらえてますって顔しておるぞ。ぶふっ」
あいにく、俺も人の事は言えないらしい。でも面白いから仕方なし。
「お前ら……」
この反応で俺とテレサさんの仕込みってのは天王寺さんにはバレただろう。
「原因はそのしそおにぎりか。うわ、なんつー色。お前らどんだけふりかけ入れたんだよ。酸っぱ」
「手が滑ったんです」
「だから仕方があるまい」
さりげなく俺からおにぎりを奪うと呆れたように言う天王寺さん。いや、食うんかい。
「痛っ、何すんのよこの鳥!痛い、痛いってば!」
「クハハハハハハハハハハ!」
「ぶっふぅ!」
ほんのちょっと目を離した隙に、転がっていたエルメさんが雀の寛いでたクッション?に突撃した模様。そりゃ雀も怒る。
にしてもなんでそこにピンポイントに突っ込めるかな。持ってるなぁエルメさん。さすが女神。
「で、このおにぎり、当然責任をもってどっちかが食べるんだろうな?」
この天王寺さんの一言で空気が変わった。
まっず、そこまで考えてなかった。二人が齧ったとはいえ、まだ大部分残っちゃってるし、さすがにあの量のしそふりかけの入ったおにぎりは正直きつい。
「はははは……マイ頼んだ!」
「あっ、ずるいですよテレサさん!テレサさんが言い出したことですし、大人なんですからさっきみたいに完食してくださいよ!」
「大人だってあれは遠慮するわ!それにおぬしだってノリノリじゃったろう!」
「そんなわけないじゃないですか!あれは事故であって故意じゃない」
「はいはいそこまで。お前ら二人とも同罪だわ。仲良く半分ずつ食え」
「「ええー!?」」
「異論は認めねぇ。嫌でも無理やり食わせるからな?」
「「ヒェッ」」
ぐっ、まさかこんなことになるとは。人を呪わば穴二つ、ってことなんだろうなぁ。
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