第16話:女神エルメリア

「えっと、女神エルメリアのアバズレ……で、あってます?」

「うむ。スキルに問題はなさそうじゃな」

「スキルに問題はなくても質問に問題大アリよ!なんでそんな悪意のある質問したの!?」

「あ、もう帰ってよいぞ」

「扱いが雑過ぎない!?私これでもこの世界の女神なのに!」


 あー、言葉の問題はこれで解決した。したんだけど……


 俺巻き込むのやめてもろて。言い辛いったらないわ!


 いやまあ忘れられてたことへの恨みは多少あるけど、流石に本人を、それも女性ってか女神様を目の前にしてこのチョイス。罰ゲームか何かかな?俺にも女神様にも。


「天王寺ぃ~」

「はいはい、その辺にしておいてやれテレサ。エルメだってがんばってんだ。もう少し優しくしてやってもいいだろ」

「おぬしは甘いのう」


 いやー?この人もたいがいだと思うんだけど。さっき秒で来ないとお仕置きって言ってた人ですよ?


「ま、茶くらいは出してやるとするか」


 なんだかんだ言ってテレサさん甘そうだな。でもそこがいい。まあ、いい人であってほしいっていう願望もちょっとある。もしそうじゃなかったらもう絶望の未来しか見えないし(震え)


「あ、そういえばあんた。えっと」

「米原です。米原 真」

「そうそう、米原。あんた、あの神がおにぎり作る能力あげたって言ってたけど」

「ええ、まあ、はい」


 あの神様、俺にくれたギフト喋ってんのか。できれば内緒にしときたかったんだけどなぁ。


「あぁ、それであのおにぎりあんなにうまかったのか」


 テレサさんがなんかものすごい納得した感を出す。そういや米苦手とか言ってたっけ。その横で天王寺さんがなんか複雑な顔してるのがちょっと気になる。


「あ、やっぱりおいしいんだ。じゃああの神が散々語ってたおにぎりの素晴らしさってのはあながち嘘でもないのね」


 うわぁ、あの神におにぎり語らせたらなんて、想像したくないくらいヤバそうなんだけど。


「ねえ、そのおにぎり、私にも食べさせなさいよ」


 やっぱそうなるか。ギフトの話題が出たから予想はしてたけど。


「すまんな、マイの持っておった米はワシと雀が全部食べてしまったし、あいにく米は持ち合わせも備蓄もなくてな」


 あ


 ああああああああああ!


 まずいまずいまずい。テレサさんにはギフトの事内緒にするために材料がないって言ってたんだった。もしあの裸の神様が材料から出せる事まで喋ってたら……


「何言ってんの?こいつのギフトは材料から創れるって聞いたわよ」

「あー」


 サラッと暴露したよこいつ。


 俺は頭を抱えた。


 バレたのはもうしょうがない。切り替えろ俺。


「テレサさん、あの時能力隠すような事言ってすいません」


 こういう時はすぐに頭を下げるべき。前の人生で学んだことだ。


 迷いは不信感を持たれるし、下手な言い訳はよけいに拗らせる結果が多い。俺の言い訳が下手ってのもある。


「まあ、あの状況なら仕方ないじゃろ。正体の分からん相手にあれこれベラベラ喋る奴の方がむしろ怪しいわ」

「ありがとうございます」


 よかった、あまり怒ってなさそう。人間できてるなぁ。人間かどうかはわからないけど。元魔王だしさ。


 さて、問題解決したところで、能力暴露してくれたこのアホ女神どうしてくれようか。

 とりあえずジト目で講義してみる。


「な、何よ、知らなかったからしょうがないじゃない!」


 なんつーか、この神様ポンコツ臭がものすごい。ぶっちゃけあんまり関わりたくないタイプ、だよなぁ。ならさっさと希望を叶えてご退場いただいんだけど。

 俺はため息をついて事情を説明。


「まあいいです。で、テレサさんに言った材料がないっていうの、あながち間違いでもないんですよ。っていうのも、材料を創るのだって能力に限界があるんです。さっきテレサさんにはその限界まで作ったので」

「えーそうなの?」

「だからごめんなさい」

「じゃあしょうがないわね」


 おや、案外聞き分けがいいな女神様。あの調子じゃ絶対ごねると予想してたんだけど。

 ていうかなんで天王寺さんも一緒に落ち込んでるんですか。食べたいんですか?


「それで、能力はいつくらいに回復しそうなの?」

「え?ああ、どうなんでしょう?」


 そういえば能力って回復するんだよな?するよね?とりあえず今回復してるかどうか確認してみる。


「……回復してますね」


 ソシャゲのスタミナみたいに時間経過で回復だろうか?説明不足だよ神様ぁ。


「やった!」

「って言っても普通サイズのおにぎり三つ分くらいですけど」

「十分よ。さあ、早く私におにぎりを食べさせなさい」

「頼む!そのおにぎり、俺も欲しい!」


 急に会話に割り込んできたのはやはり天王寺さん。やっぱ食べたかったのか。ていうか。


「あの、土下座やめてくださいません?別に構いませんので」


 この世界の住人、あ、天王寺さんは別なんだろうけど、この土下座率の高さはなんなんだろう。そんなに安い行為でもないだろうに。意味わかってるのかな?

 で、気になったことが一つ。


「でも天王寺さん、なんでそんなにおにぎり食べたいんですか?確かテレサさんの話では、この世界にもお米あるんですよね?」

「あー、あるにはあるんだが……」


 頭をあげて改めて胡坐をかく天王寺さんが結構渋い顔をする。ついでにその様子を見てたテレサさんや女神様も似たような反応してるな。


「この世界の米はまずいんじゃよ。少々青臭いし、味も歯ごたえもあまりよいものではないな」

「一応桜国じゃ主食なんだけどね」

「あれはお米に似た何か別の食べ物だな」


 ぉぉぅ、結構けちょんけちょんに言われてるな。それでテレサさんはお米を嫌ってたし、天王寺さんは妙な反応してたのか。


「理解しました。で、誰が何を食べます?」


「当然私!」

「俺も!」

「ワシも!と言いたいところじゃが、ワシは辞退しよう。先ほどたらふく食わせてもらったしな」


 おお、テレサさんが大人の反応。この人、子供じみた所も多いけど、こういうところもあるんだよな。大人と子供が一緒になったような人だな。それがこの人の魅力なのかも知れない。


「鳥は~……あの様子ならいらんじゃろ」


 テレサさんが雀を探すと、いわゆる人をダメにするクッション?のようなもので寛いでというか、完全に寝落ちしてるな、あれ。

 それでもってあれ作ったの、絶対天王寺さんだろ。あれ俺も欲しい。おにぎりのお返しに頼んでみようかな。いやさすがにお返しでねだるものじゃないか。


「じゃああとは味ですけど、選択肢は少ないです。塩おにぎり、塩ゴマ、たまごかしそのふりかけに海苔をつけるかどうか、ですね」

「海苔つきで塩おにぎりを頼む!」

「んーじゃあ私もそれで。天王寺が食べたがってるのなら間違いはないでしょ」

「了解です。それじゃ少しお待ちくださいね」


 さて、二人はおにぎり食べてどんな反応をしてくれるのか。ちょっとワクワクしながら俺は材料を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る