第15話:衝撃の出会いと衝撃の正体

「さて、これからこの世界で生きていくマイには一つ問題がある」

「問題ですか?」

「うむ」


 冷静に返してるように見せてるけど内心はバックバクである。そりゃあまだ右も左も分からない土地で、その土地に詳しい人にそんな事言われれば不安しかない。いや、テレサさんの突然ハグ、略して凸ハグの影響もめちゃくちゃ心臓に悪かったけども。


「その問題とは?」

「言葉じゃな」

「言葉?……あ」


 そういやテレサさんに転生バレしたのって、俺がこの世界で言う勇者語を喋っていたからだった。こんな言葉喋ってたら「私勇者です」って言ってるようなもんだ。


「勇者語を理解するワシや同じ国の出のユーキは問題ないがの、この世界で生きていくならこの世界の言葉を学ぶ必要がある」

「あ。あー!!!」


 しまった、テレサさんや天王寺さんは普通に会話してたから失念してた。言葉が通じないって勇者バレ以前の大問題じゃん!

 そこで気づいた。


 俺、今この二人に見捨てられたら詰みじゃね?


「で、ワシが教えても構わんのじゃが、それとは別に当てがあってな」

「当て?」

「うむ。少し待て。ユーキ」

「おう。今連絡とってる」

「連絡?」


 なんか俺の事なのに俺を差し置いて物事がどんどん進んでいくんだけど、当てというのが結構気になった。


「おう、俺だ」


 んでもって天王寺さんはガラケー?っぽい何かを持ってどっかに連絡してるっぽい。てか「俺だ」って電話?出る人漫画やドラマだけじゃなく実際いるんだ、なんて明後日な感想持ってたりした。


「いや、とりあえずこっち来てくれ。直で話した方が早い。横暴?お前がそれ言う?いいから早くこい。秒でこい。マッハでこい」


 いや無茶仰る。ジャイ◯ンかブラック企業のクソ上司か何かかな。


「あと5秒でこなきゃお仕置きな。ごーよんさんにーいち……」


 やってる事が完全にいじめじゃねーか。俺、もしかしてヤバい人たちに目をつけられた?

 と思った途端。


 ガチャ。ズザザザッ!


「セーフ!」

「うわっ!?」


 突然目の前に扉が現れたかと思うと、そこから美人のお姉さんが滑り込んできた。


 ビビった、めちゃビビった!!どこで◯ドアかよ!?


 この世界、俺の心臓止めにかかってきてないか?これ今日何度目の驚きだよ。


「ちょっと天王寺!あんた急に呼び出したかと思ったら秒で来いとか何様のつもりよ!」


 いや、本気で秒で来れる貴方が本来の意味で何様なんですか?

 魔女、勇者ときて、転移?空間移動?なんかテレポートめいた能力持ってる美人のお姉さんなんて絶対にただものじゃないよな?


「俺様勇者様被害者様ですが?」

「ぐっ!?」

「被害者?」


 言葉から察するに、天王寺さんがこの人から何かされたってことなんだろうけど……


「こやつはな、そなたたちの国の文化に染まって勇者召喚を行った大馬鹿者よ」

「うわぁ」


 そりゃ被害者だわ。絶対ろくな目にあってないよ天王寺さん。


「加えてワシを魔王に仕立て上げたうえにユーキと殺し合いをさせた張本人じゃな」

「うわぁ。うわぁ……ん?」


 魔王?


 思わずテレサさんを見る。


「ん?言っておらなんだか?ワシは元魔王じゃぞ?」

「聞いてませんけど!?」


 新事実発覚。いや、風格からしてただの人じゃないとは思ってたけども、まさか魔王かよ。

 え?でも今天王寺さんとテレサさんかなり仲よさそうなんだけど、いったい何がどうなってこうなったんだ?。


「事情を聞いても?」

「構わんが長いぞ?」

「う゛」


 だろうなぁ。下手すれば国民的RPGばりの長さは覚悟しないとダメかなぁ。


「できるだけ簡潔かつ簡単にまとめて頂けると」

「んーまあ、最終的にワシとユーキの最終決戦中にお互いがあやつに唆されてることに気づいて揃ってボコボコにした」

「うわぁわかりやすい。説明ありがとうございます」


 なるほど?それで今二人は仲良くて、あのお姉さんは二人に頭が上がらない、と。

 

「あ、あれは悪かったって思ってるし、ちゃんと謝ったじゃない!」

「謝罪はうけとったけど、まだ全面的に許した覚えはないが?そもそもあれのせいでこの世界滅びかけたって自覚ある?それをお前ごめんなさいの一言で済ませられると?」

「返す言葉もございません」

「ひぇぇ」


 見事な土下座を決めるお姉さん。いや、この世界にきて土下座見る機会増えたな。転生前の国の文化のはずなのに。

 ていうか簡潔にまとめられてたけど、思った以上に重い話みたいだ。これはこれ以上突っ込むのはやめておいたほうが得策かな。わざわざ藪をつついて蛇を出す必要もないない。


「それで、当てっていうのはこの人のことですか?」


 とりあえず話題をそらそうと、本来の話題を切り出すことにした。


「うむ。こやつなら問題を簡単に解決できるかもしれんからな」

「マジですか?」


 転移能力に勇者召喚、それにこの二人を唆せることができるだけの能力。確かに何か問題を解決できそうな手段をもってそうな感じはあるな。ただ……


 その手段とやら、いろんな意味で大丈夫なんだろうか?この人見てるとそこはかとなく不安。


「まあ今はその話をしたいわけじゃないから本題に入るぞ。エルメ、お前ここ最近で新しく転生、もしくは転移してきた人間について」

「ああ、知ってるわよ。地球にいる神の一柱から世話してやってほしいって頼まれたからね」

「え?お姉さん神様と知り合いなんですか?」


 またしても驚きの情報。このエルメと呼ばれたお姉さん、あの裸の大しょ、じゃなかった、神様と知り合いなうえに、頼まれごとをされる立場にあると?


「え?あんた誰よ?」

「今更!?」


 どうやら俺のことは眼中になかったらしい。


「その転生者本人だよ」

「えっ?嘘!?」

「本当だ。お前さすがに職務怠慢すぎないか?」


 天王寺さんがなんか、かわいそうな人を見る目で土下座中のお姉さんを見る。


「だってしょうがないじゃない!この世界の復興がんばってるんだから!」

「それは自業自得じゃろ?」

「はうっ」


 再び意気消沈するお姉さん。まあ俺も放置された被害者?だから庇ったりはしない。だってちゃんと迎えてもらってたら、あんな危険なところに放置されずに済んだってことだし。


「今回呼び出したのは図らずもその頼まれごととやらにも関わる。お主、ユーキに与えた言語翻訳スキルをマイにも付与できるか?」


 言語翻訳スキル!


「そんな便利なものがあるならぜひ欲しいです」


 俺は食い気味に答えた。

 

 意思の疎通ができるできないって、正直今後の生活難易度が大幅に変わる。ぶっちゃけないとひっじょーに困る。ていうか天王寺さんそんなスキル付与されてたのか。そりゃあないと勇者なんてやってられないよな、きっと。

 でもって、勇者召喚に始まって?さっきの神様の知り合いってことといい、今回の言語翻訳なんてスキルを付与できる立場といい、多分このお姉さんの正体って……


「もちろんできるわよ。なんたって私この世界の神様ですもの!」


 やっぱり。


 なんていうか、出会いも性格もすごく残念な神様だなぁ!?

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