第13話:お風呂に突撃してきた変態の正体
「前が見えねぇ」
「当然の報いじゃバカタレめ」
現在俺と美人さん改め、テレサさんの前で腰にタオルの全裸スタイルのまま正座させられてるのは、風呂に突撃してきた怪しい男。首には「私はお客がいたのにお風呂に突撃した変態です」と書かれた板を下げ、顔面には先程見事テレサさんが投げつけてヒットした風呂桶がめり込んでいた。
いやこれ物理的にどーなってんだよ?
どーなってるといえば、あれだけ派手に吹き飛んだのに腰のタオルは解けるどころかほぼノーダメってのもおかしいんだけど。
とりあえずその疑問は置いとくとして、会話から察するにこの珍入……もとい、侵入者はテレサさんの知り合い、それもかなり親しい間柄っていうのは察する。お風呂に突撃してくるのはどうかとは思うけども。
ちなみに今は、テレサさんの貸してくれたバスローブをお借りして着ている。……着心地いいなコレ。
そんでもってテレサさんは俺と色違いのを着ていて、俺が水色、テレサさんは紫色だ。こんな美人さんとの色違いのお揃いってなんかちょっとドキドキするな。
で、バスローブ姿のテレサさんなんだが、大人の色気振りまきまくり。
紫って色は特に人を選ぶ。似合わないのが着ると一瞬でケバい印象与えるオサレ上級装備だと俺は思ってるんだけど、それを難なく着こなすテレサさんがすげぇ。そんな恰好で椅子に座って足をちょくちょく組み替えるもんですから裾から伸びる生足がものすんごく艶めかしく、じつにけしからん光景なのですよ。目の毒過ぎる。
とまあテレサさんの事はこの辺にしておいて、そろそろこの謎の男の正体を知りたい。
「で、この人誰なんです?」
正直、あんまりいい予感はしていない。中肉中背、しかも黒髪。
たまたまなのかもしれないけど、異世界で黒髪っていうといわゆる日本に似た国があるか、あるいはー……
「こやつの名はテンノウジ ユウキ。多分そなたと同じ世界から召喚された勇者じゃ」
「ですよねぶっふぉ!?」
いや、勇者ってのは予想してたんだ。けど苗字!テンノウジって!勇者は勇者でもロボットのシリーズの方の主人公の名前じゃん!召喚される世界間違えてますよテンノウジさん!
ていうか名前もユウキってこれもう完全に勇者になるために生まれてきたようなフルネーム。ハラいてぇ。
もう笑いを堪えるのに必死で口を押えてしゃがみ込む。
「んん?今の会話になんか面白いところあったか?」
テレサさん、笑いを堪えてることは察してくれたけど、流石に中身までは分からないだろう。
「同じ世界だと?ってことは転移者か転生者か!?」
「誰が立つことを許した?座ってろ」
「あいたぁ!」
「ぶっふっ」
聞こえてきた会話から察するに、俺の出自を聞いて思わず立ち上がろうとしたところ、テレサさんに何かしらで止められたんだろう。
やめて、今なら普段笑わないことでも笑っちゃいそうだから。
「だいたいおぬしはいつもいつも配慮に欠けておる!この間も……」
俺はテレサさんの説教を聞きながら、笑いが落ち着くのに必死だった。
・
・
・
「あー、改めて、天王寺 勇気だ。この世界で勇者をやってた。ちなみに本名だぞ」
「ぶふっ」
いかん、お風呂突撃くん改め、天王寺さんが説教と風呂桶と反省札から解放されて挨拶してくれてるけど、その自己紹介はダメだって。笑いをぶり返すから。
「まあこの名前でその反応は間違いなく同郷だろうな。てかその若さでこのネタが分かるってことは君相当マニアックだろ?」
「あーまー、はい」
まあこの見た目で中身が実はアラフォーのオッサンだとは思わないだろうな。説明も面倒だし、とりあえず曖昧にお茶を濁しておこう。
ていうか向こうが押し掛けてきた不可抗力とはいえ、テレサさんと一緒にお風呂入ったんだ、中身バレは恐ろしくてできない。
「呼び方は天王寺でも勇気でも好きな方で呼んでくれ。あ、でも天さんだけはやめてくれよ。どうしたって三つ目のハゲと被る」
「ぶふっ。……分かりました。じゃあ天王寺さんで」
この人ちょくちょくぶっ込んでくるな。名前一つでこれだけ話題が広げられるって人も面白いと思う。
「で、君は?」
「そういえばまだワシもそなたの名を聞いておらなんだな」
「あー、そういえば」
ここにきて会ってまあまあの時間を一緒に過ごしてたけどお互い自己紹介した覚えがないな。
いやだって、出会いも倒れてたの拾った上にいきなり「お腹空いた」だったし。
「そうなの?」
「うむ。死の草原で空腹で倒れてたところを助けてもらった……あ」
うん?テレサさん、なんかしまったって顔したんだけど?
「ほほぉ?テレサ、お前また研究に没頭しすぎて寝食を疎かにしたな?」
ついでに天王寺さんからは怒りのオーラが立ち昇る。
「い、や、こ、今回はちゃんと睡眠はとっておったぞ!」
「威張るとことか。んでメシは?」
「……てへ♪」
あざとっ!あざとかわいい。
「お・ま・え・はぁぁぁぁぁ!」
「いだだっ!いだっ!いだいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ゆうしゃのこうげき!テレサさんはぐりぐりされている!
「俺がいないといっつも不摂生しやがって!ちゃんと食事をしろといつもいつも……」
「許してなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
さっきと立場が逆転したなぁ。
てか、この夫婦漫才いつまで続くん?俺いつになったら自己紹介できるんだ?
とは思いつつも。
この状況を楽しみながらもうちょっと見ていたいと思う俺がいた。
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