第11話:身バレ?
「ふぅ~。こんなに食べたのは久々じゃ」
そう言いながら指についた米粒を舐める美人さん。ちょっと幼いような言動とは裏腹に、見た目と相まってその仕草はめちゃくちゃ色っぽい。
「能力がレベルアップしました」
「だろうなぁ」
つ、疲れたぁぁぁ!
かくいう俺はというと、ぶっきらぼうにそうぼやいて地面に座り込んだ。
いやぁ美人さん、こっちの予想以上に食べる食べる。自分でも知らなかった能力の限界まで握らされたよ。
まあ、限界を知れたことは大きいか。
で、それだけ作ればそりゃあレベルだってあがる。これはさすがに予想してたから今度は驚かなかった。
ちなみに雀はしそおにぎりとたまごふりかけおにぎりには見向きもしなかった。お腹がいっぱいだったのか、それとも好みじゃなかった?その辺はわからないけど。
「食材「海苔」、調味料「うま味調味料」が解放されました」
さてさて、お楽しみのレベルアップボーナス。今回は海苔とうま味調味料が解放された。
嬉しいね、おにぎりに海苔はやっぱ欠かせない。あのパリッとした触感は好きだし、見た目に拘るならこれは絶対に外せない重要食材だ。いつかはキャラおにぎりとか作ってみるのも面白いかもしれない。
……佃煮の方じゃないよな?あれはあれでおいしいけども。
で、解放されたもう一つのうま味調味料ってこれ、味〇素の事だよなぁ。何に使うんだコレ?味〇素おにぎり?うーん、想像ができない。あ、でも隠し味にはちょうどいいかも?今度塩おにぎりで試してみるか。
「うまいもの食わせてもらって礼を言うぞ、転移者よ」
「どういたしまし……へ!?」
結構へとへとになってたのと、レベルアップボーナスで油断してたところにこの爆弾発言。
心臓が跳ね上がる。
「ナ、ナンノコトデショー?」
だぁぁぁぁ、こんなカタコト怪しいですって言ってるようなもんだろ俺ェ!つってもこちとら転生前は普通のサラリーマンだぞ!演技力なんてあってたまるか!
「はは、そう身構えるな。特段とって食おうとか、何かしようというつもりはない」
お腹をさすりながら空腹を幸福で満たしたよって顔で、何事もないように言う美人さん。あれだけ食べたのにお腹が全然膨れて見えないのは服のせいでしょうか?って今問題なのはそこじゃないぞ俺。こんな状況で構えるなって方が土台無理な話だ。
しかし、美人さんは多分もう確信を持ってるよなこれ。ここから誤魔化すのはかなり難しい。それこそよっぽど話術に長けたやつか、何かしらチート能力でも持ってない限りは。
すまん、オレンジ色の髪の死神さん、もう一度オラに覚悟を分けてください!よし、覚悟完了!
「……どうしてわかったんです?」
俺は意を決してなんでバレたのか美人さんに問いかける。ここまできて否定するのは愚策だと思ったし、覆すだけの材料もないし。
「ん?んーまあ色々あるが、決定的なのはその言葉じゃの」
「言葉?」
「うむ、そなたの言葉、それ、勇者語じゃろ?」
「勇者語?」
聞きながら背中に嫌な汗が流れる。なんだ勇者語って。もう嫌な予感しかしないんだが。
「確か勇者がいた世界の言葉でニホンゴ?とか言ったかのう」
「ぎにゃぁぁあああ!やっぱりぃぃぃぃぃぃ!」
予感的中。
ってことはこの世界に俺か来る前に既に転生か転移した人がいて勇者になってたってことだ。これは早々に誤解を解かないと勇者に祭り上げられる未来待ったなし。頭抱えて蹲ってる場合じゃない。
「俺、勇者じゃないですからね!」
言葉を取り繕うのも忘れて必死に美人さんに詰め寄る。おにぎり作るしかなない俺が勇者になんてされてたまるか!
「落ち着け。分かっておるわ、あんなふざけた存在がそれこそそこらへんにたくさん転がっていてたまるものか。だから勇者扱いせんかったじゃろ?」
「そういえば」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ冷静になって考えてみれば、確かに俺のことは転移者って言って勇者扱いはしなかったな。
「じゃから同郷の者というのは想像がついた。後は転生の可能性も考えたが、この世界でこんな危険な場所に来る者はそうおらん。ましてやそんな軽装なら尚更じゃの」
「……ここ、そんな危険な場所なんですか?」
またしても冷汗が流れてちょっと震える。のどかな場所だなぁと呆けていた転生後すぐの自分がいかに頭お花畑だったか思い知らされる。まあ、その後サイ(仮)に強襲されてこの辺の危険度は実体験を持っておもいしらされたからなぁ。あれは納得するには十分な出来事だった。
「うむ。まあこの草原の入口程度なら問題ないんじゃがな、ただっ広いうえに、中心地に近づけば近づくほど、凶悪な魔物達の縄張りになっておる。ここはその中心部、人が寄り付かない人外魔境の死の草原と言われておる場所よ」
「人外魔境の死の草原」
「うむ。じゃから正確にはそんな軽装でここまで来ることが不可能、といった方が正しいの」
あんのクソ神様、なんちゅう場所に転生させてんだ!そりゃあバレる。バレて当然だわ。
あれ?
「じゃあお姉さんはなんでこんな危険な場所にいて、しかも倒れてたんです?」
そう、不思議なのはそこだ。そんな危険な場所になんでこの人いるの?
「そりゃあその危険に見合うだけの貴重な素材がこの草原には山ほどあるからのぅ」
「いや、それで倒れてたら本末転倒でしょうよ?命だいじにですよ?」
いくら貴重な素材とやらが山ほどあっても死んじゃったら元も子もないだろうに。
「はっはっはっはっ。ワシにかかればこの程度の魔物、脅威には程遠いわ。草原の魔女の異名は伊達ではない」
「ああ、そういえば空腹で倒れてたんでしたっけ」
「ぐっ!?」
なんか大層な異名持ちな人だったようだ。それくらい強い人なんだろう。空腹で倒れる恥ずかしい人だけど。その事実を突きつけられてちょっとへこんでるお茶目な人だけど。
「ま、まあよい。確かに今回は研究に没頭しすぎて食を疎かにしていたワシの落ち度じゃ。それにそなたと出会えたきっかけとなったわけじゃしのう」
それは俺にとっても幸運と言える。雀にしてもそうだけど、もし雀に出会えてなかったら、初めて会ったあのサイ(仮)の魔物に殺されてただろうし、この美人さんに出会わなければ、今頃絶賛危険すぎるこの死の草原を何も知らずに彷徨い歩いてただろう。
「さて、このままここで話すのもなんじゃし、そろそろ日も傾いてきた。一飯の礼もあるし、どうじゃ?ワシの家にこぬか?」
美人さんが立ち上がって膝を払いながらそんなことを言う。
それを聞いてふと空を見上げてみれば、いつの間にか空が赤みがかってきていた。
でも家って?
周りを見渡しても家どころか建物一つ見当たらないし、こんな危険な場所に家なんて建ててもあっという間に魔物にぶっ壊されそうだ。
俺が不思議そうな顔をしてると、美人さんがニヤリと笑う。
「ほれ」
美人さんがそう言って懐から鍵らしきものを取り出して押すような仕草をすると、何もないはずのその場所に先端が差し込まれ、まるでドアのようにその一部が開かれた。
多分今の俺、宇宙を背負った猫みたいな顔してると思う。
美人さん、今度はこっちがいたずら成功といった顔つきで手招きしてくる。
それに招かれるまま俺は近づき、恐る恐る開かれた中をそっと覗いてみる。
すると中はいかにも魔女が住んでますと言わんばかりのおどろおどろしい空間……などではなく、むしろ平穏な空間にちょっと可愛らしいデザインのポツンと一軒家があった。
「ここはこの辺りとはちと切り離された空間になっていてな、魔物どもではどう頑張っても入ってくることはできん。まあゆっくりしていくがよい」
美人さんはしたり顔でそう言うとウインクをしてみせた。
こういうのって美人さんがやるとすごく絵になるなぁ。
次回、サービス回。お見逃しなく。
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