第10話:二度目のレベルアップとちょっとした悪戯

「うまいのう。もぐもぐ……うまい!もぐもぐ……うまい!」


 どこの炎の柱さんですかね?


 そんな様子をおにぎりを握りながら眺める俺。

 相変わらずおにぎり二刀流で交互に噛り付くのはお行儀が悪いとは思うけど、本当においしそうに食べる姿を見てるとちょっと注意しづらい。

 ちなみに今食べてるのが確か、改めて握った三つのうちの二つ目と三つ目。既に一個食べ終えた後だ。


 ゴマを混ぜたおにぎりの感想も上々だった。


「なんと、何か混ぜておると思ったが、味を全然損ねておらん。さっきのはシンプルなうまさ、これはそれにアクセントがついて、交互に食べれば永遠に食べ続けられそうだぞ!」


 というお言葉を頂いた。

 やっぱりグルメ漫画のおじさんが親戚にいない?


「能力がレベルアップしました」

「うぉおおっ!?」

「ん?どうかしたか?」

「あ、いえ、別に」


 びっくりした!めっちゃびっくりした。油断してた。ってか慣れないなこれ。


「ふりかけ「たまごふりかけ」「しそふりかけ」が解放されました」


 ……ほっ。今度は変なスキルとか取得しなくてよかった。心の底からマジでよかった。


 しかしふりかけか。しかもたまごふりかけとしそ。ふりかけの定番中の定番だな。

 そういえば母さんが作ってくれたお弁当におにぎりが入ってた時、どっちも高確率で入ってて、子供のころはたまごふりかけが大好きだったな。大人になると何故かしその方が好みになったっけ。


 今ふと、悪魔のようなことを思いついた。


 美人さん、このしそふりかけのおにぎり食べたらどんな反応するかな?


 いや、この世界に多分紫蘇ってないか、あっても食用として利用されてないと思うんだ。あくまで予想だけど。


 あれ、酸っぱいんだよね……


「……」


 ああっと、間違えて追加のごはんにしそふりかけがー(棒読み)


 こうなったら仕方がないね。しそふりかけのおにぎりにしよう。


 ……まあ、最悪残った分は俺が食べるか、雀が食べれれば雀にあげてもいい。

 お詫びを兼ねて出すつもりのたまごふりかけの方はきっと入ると思うから許してほしい。

 とりあえず残るといけないのでしそおにぎりは一個、あとはちゃんと分けておいたご飯の方でたまごふりかけおにぎりを二つ作る。で、たまごふりかけのほうはちょっと隠しておいて、と。


「おかわりなのじゃー」


 食べ終わって空いた方の手で早速しそおにぎりを掴む美人さん。

 改めて見てみると、しそおにぎりって結構色が毒々しい気もするんだけど、美人さんそれに気づいていないな。そのまま口へ運び……


 ドキドキ。


「すっぱぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぶふっ!」


 思わず吹き出してしまったが、顔を見られない様に下を向く。

 俺の中で思わず「テッテレー」という例の音楽と共に、転生前の俺がそれはそれはいい笑顔で「ドッキリ大成功」というプラカードを掲げている。


 昭和か。


「なんじゃこれ酸っぱ!ってなんじゃこの色!?毒か?毒なのか!?いや待て、毒なんてこのワシには効かないはず……」

「ご、ごめんなさい、それ、毒じゃないです。私の故郷では割とポピュラーな食材ですけど、かなり酸っぱいものでして……」


 俺はまだ笑いをこらえているので顔を上げられず、下を向きながら答える。さすがに誤解させてしまうのはいけないので。


「何?これは食材なのか?」


 ようやく落ち着いてきて顔を上げると、美人さんの顔が、酸っぱいもの食べましたって顔で歪んでる。


「ブフーッ!」


 いかん、あの顔は反則だ。通常が整いまくってるぶん、崩れた時のインパクトがでかい!


「おぬし……」

「ご、ごめんなさい。でもこれ、割と大人の人には人気なんですよ?」


 これはちょっと本当。実際時折コンビニにゆ〇りおにぎりって売ってるしね。


「ぬ、大人に人気とな?ま、まあワシも大人じゃし?うまいと思うぞ?うん」


 そう言って残りも食べ始める美人さん。顔は相変わらず渋いけど。チョロインかな?

 まあ今はそれで救われてるところもあるし、こういう美人さんの隙って逆に愛嬌になるよね。美人は得だ。

 と、それはそれとして。


「ごめんなさい、こういう反応はちょっと予想はしてたんですけど。で、お詫びと言ってはなんですけど、こっちは気に入ると思いますよ」


 そこで隠してたたまごふりかけおにぎりを出す。


「もぐもぐ、ごくん。……これもカラフルじゃのう。今度のは酸っぱくないじゃろうな?」


 なんと美人さん、ジト目でこっちを見ながらしそおにぎり完食しましたよ。苦手そうだったのにえらい。


「大丈夫ですよ。むしろ割と自信ありです」


 で、こう言ってはなんだけどこの美人さん、性格がかなり子供っぽい気がするんだよね。だからこっちのは気に入ると思うんだ。


 恐る恐るおにぎりを口に入れる美人さん。なんか色っぽいな。


 もぐ、もぐ……


「……」

「どう、ですか?」


 うーん、自信はあったけど、物事に絶対はないしなぁ。もし嫌いな味だったらどうしよう。


「う」

「う?」

「うっまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

「よっし!」


 思わずガッツポーズする俺。

 やっぱね。俺の予想大当たり。


「なんじゃこれ!?これは本当にさっきと同じおにぎりか!?さっきのもこれも何か入っておるようじゃがこんなにも味が変わるのか!?」


「そうなんですよ。ご飯って食材の最高の引き立て役だと私は思ってますね」


 これは持論だけど、本当に思ってることだ。だって焼肉食べるとお米食べたくなるじゃん?

 それにかつ丼、牛丼を始め、丼物はいわばご飯とおかずが一緒なのが前提の食べ物だし、おにぎりだって多種多様だ。下手すれば外国の食べ物だって合わせてくるこんな懐の深い食材はなかなかないと思う。


「最初のシンプルなヤツもよかったが、ワシはこれが一番好きじゃ!この塩加減と甘さの最高のバランス!何よりこの味!まさに最強!」

「それはよかった」


 予想以上に好かれたなぁ。べた褒めじゃん。


「さっきのお詫びになりましたか?」

「はむっ!もぐもぐ!ごくん!はむっ!」


 ……食べるのに夢中で聞いてないなあれは。今のうちから追加分作っておくか。


 ……で、いくついるんだこれ?まずい、いたずらもお詫びもちょっと早まったか?

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