第9話:美人さんとおにぎり

「お お お お」


 美人さんが並んだ三つのおにぎりにくぎ付けだ。なんかこう、キラッキラした目を向けている。


「これ、うまいやつじゃろ?絶対うまいやつじゃろ!?」


 そしてそんな目をこちらに向けてくるから目からのキラキラビーム直撃です。

 美人さんの無邪気な笑顔が眩しいっていうか破壊力がすごい。


「食べてもいいんじゃよな?いいんじゃよな!?」

「そのために作ったんですよ」

「わーい♪いただきますなのじゃー!」

「はいどーぞ」


 っておいおい、いただきますまであるのか?

 確か「いただきます」と「ごちそうさま」は日本語独特の言葉だって聞いたことがある。

 ここ、もしかして異世界っていうより何かのゲームの世界?

 じゃないとここまで日本に親和性出ないよな?


「うまっ!なんじゃこれうまっ!!お米って、おにぎりってこんなにうまいのか!?それでは今までお米と思って食べてたものは一体なんだったのじゃ!?これに比べたらみんなカスじゃ!」


 ま、この世界の考察は未来の俺に託すとしよう。

 だって自分の作ったおにぎりがこんなに喜んでもらえるなんて嬉しいじゃん。

 だから今は両手におにぎりを持ってお口いっぱい、幸せいっぱいそうに食べる美人さんを見ていたい。


「うーまーいーぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 両手に持ったおにぎりを空に掲げて叫ぶ美人さん。

 ものすごい感動が伝わってくるんだけど……

 なんか、どっかのグルメ漫画で料理勝負の審査員やってるおじさんとか親戚にいません?

 あと絶対に服をはだけさせない様に。ローブの上から見てもかなりいい身体してそうなので。


「チュン」

「ぬっ!?」


 なんてやってると、残った最後の一個のおにぎりに雀が近づく。

 それに気づいた美人さんがそれを見つけ、すぐさまそれを取り上げる。


 ちょっと待って。美人さん、両手塞がってたはずじゃ?


 よく見てみると、両手を使って器用におにぎり三つを挟むように持ってた。雀から庇うように。


「チチッ!」

「フン!このワシからおにぎりを盗ろうなど、許すわけなかろうが!」


 ぉぉ、二人の間に火花が散ってるように見える。ていうか実際にあの辺だけ景色がぼやけて見えるのは気のせいだろうか?

 ていうか雀よ、さっきおにぎり六個ほど平らげてるのにまだ食うのか?


「雀、また作ってあげるから、今はこの人に譲ってもらってもいい?」


 そう言えば美人さんがドヤ顔で胸を反らし……デケェ。何とは言わないけどデケェ。

 ってそうじゃなくて。


「むふー」

「チッ」


 美人さんが勝ち誇っており、雀がどこか悔しそうに見えた。ていうか雀今舌打ちした?


 俺の中で美人さんの残念度が上がった。


 あと雀、相変わらず表情と言うか表現力豊かだ。


 そんな様子に俺は苦笑いして……あれ?雀、表現力あり過ぎて自然に声かけちゃったけど今言葉を理解してなかったか?


「あっ」


 ふと湧いた疑問というか疑惑に思考モードに入りかけたけど、美人さんの慌てた声にそっちに意識を持っていかれた。

 ああ、手で挟んでたおにぎり落としちゃったか。


「ああ、ワシの、ワシのおにぎりがぁ」


 うわめっちゃ悲しそう。なんかあそこだけ空気が死んでない?

 翻って雀、落ちたおにぎりまで速攻飛んで行ってこっちに視線を向ける。まるで「食べていい?食べていい?」って言ってるみたいだ。


「お姉さん、おにぎりはまだ材料があるから作れますよ。雀、それは食べていいというか、食べてくれると助かるよ」


 あんな姿見せられたらさすがにね。追加作ってあげたくなる。

 あとは落ちたおにぎり。なんかダメになった食べ物を押し付けるようで気が引けるんだけど、喜んで食べてくれるんだったらこっちは全然かまわない。


「ほんとか!?」

「チュン、チュン。チチチチッ」


 美人さんは地獄に仏みたいな顔でこっちを見て、雀は嬉しそうに鳴いて、早速とばかりにおにぎりをついばむ。


「ええ。まだ余裕はありますから。で、あといくつ食べたいですか?」

「なんと!そなたは女神か?あんな駄女神よりよほど女神にふさわしいぞ」

「あはは、大袈裟ですよ」


 美人さんにそんなことを言われるとテレてしまう俺。

 ……いや待て。「あんな駄女神」?まるで女神さまが知り合いにいるような言い方をするな。


「んーいくつお願いするかのう?少なくともあと五、六個は余裕じゃが」

「はい?」


 んー?いま美人さんから不穏なワードが聞こえた気がする。


「ん?」

「今、あと五、六個は余裕って聞こえたような」

「うむ、そう言うたぞ?」

「マジですか?」

「うむ、マジじゃ」


 マジかー。


 え?あの見た目で五、六個余裕なの?実はあのローブの下ってかなりふくよか?だとしたら着やせっていうレベルじゃないんだが。


「そなた、今すごく失礼なこと考えんかったか?」

「いいえ?」


 鋭っ!


「じゃあさすがに厚かましすぎたかのぅ?」


 ジト目から上目遣いへの変化が凄まじいんですが!

 やめて、あなたみたいな超美人に上目遣いされたら流石に断りづらい!


「だ、大丈夫です」

「そうか!ありがとうなのじゃ!」


 くっ!本日二度目の輝く笑顔!

 ジト目からの上目遣い、そこからとどめの輝く笑顔。なんて凶悪なコンボなんだ!


 とりあえず、今のを食べてる間に次のおにぎりを作るか。

 次はゴマ入りにしてみよう。どんな反応を見せてくれるかな。

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