第8話:なんか落ちてた
[ヒラタケモドキ:ヒラタケにそっくりな猛毒キノコ。食べられない。間違って食べてしまうとあらゆる苦しみが瞬時に襲ってきて絶命する。緑の斑点があるかないかで見分けられる]
怖っ!
こんなデストラップ仕掛けられてたらそりゃみんなヒラタケ避けるわ。
いやー簡易鑑定しながら採取楽しい。おにぎり作れる能力もあるし、こうやって自給自足の生活するっていうのも悪くないかも。
[サちゃ*hヴ]
「?なんだこれ?文字化けしてっっ!?!?」
人がうつ伏せで倒れてる!今鑑定したのこの人!?
俺は慌てて駆け寄って仰向けにさせる。
女の人だ。
「大丈夫ですか!?」
とりあえず声をかけながらどうすればいいかを考えるけどどうすればいいんだっけ!?下手に揺すってもまずそうだしどうすれば……
「グゥ」
「へ?」
え?何今の?
なんかあまりにも間の抜けた声に思わずちょっと固まる。
……寝てる?
すると俺の肩に止まってた雀が仰向けになってる女の人の額に止まって、
「チュン」
ガスガスガスガス
「痛い痛いいっったーい!」
容赦なく乱れ突き。
よかった、とりあえず意識はあるし大事にはならなさそう。
ほっと一息。
で、少し落ち着いて改めてみると、この人すっごい美人。真っ赤な髪が印象強い。黒いローブって姿でちょっと怪しいけど。
まあ怪しさで言ったら向こうから見れば俺の格好の方が怪しいだろうし、もしかしたらこの地域じゃ普通の格好かもしれないし。
「……お腹、空いた……」
「行き倒れかよ」
突かれた額を抑えながら呟く美人さん。痛みより空腹かよ。なんか急にすごい残念な空気に。
でも、空腹って辛いよな。
「あの、私の故郷の主食ならあるんですけど、食べます?」
「いいのか!?」
そう声をかけたら飛び起きて肩を掴まれた。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
って言うかめちゃくちゃ元気じゃん。
「ええ、まあ」
あと近い近い。美人に凄まれるとめっちゃ迫力ある!
「後生じゃ、食べ物恵んでくれ」
そのまま流れるような動作で見事な土下座された。いや、この世界にもあるんか土下座。
「わ、分かりました。少し待ってくださいね」
俺はちょっと面くらいながら、今手にしてるリュックから出すフリをしながらギフトの能力でご飯を取り出す。
まあ多少怪しいかもしれないけど、これくらいならごまかしがきくだろ。こういうチートじみた能力は秘匿するに限る。
味はー、まあ最初だし塩おにぎりで。
そんなわけで握りの極意先生、出番です。
俺のこの手が光って唸る!おにぎり握れと輝き叫ぶぅ!
もちろん光らないし叫ばない。まあ有識美ってヤツだな。
「む、米か」
「知ってるんですか?」
「うむ」
俺が塩かけて混ぜ始め、それを見てた美人さんが独り言のように呟いたのが耳に入り、思わず問い返す。
そっか、この世界、米はあるんだ。
「いや、でも米かぁ」
「何か問題でも?」
「うーむ、問題、と言うほどでもないのだがの、ワシは少々米が苦手でな」
「え?そうなんです?」
マジかー。って言ってもこれ以外だとさっき採取したジャ、ジャ〜……なんとかっていうのくらいしかない。まさかキノコ丸齧りってわけにもいかないだろうし。
「いや、これはワシのワガママじゃ。お主が気にする必要は……む?」
「どうしました?」
「クンクン。おお、これはよい香りがするのぅ」
「あ、わかります?」
この仄かに香る匂いを「良い香り」と言えるのなら多分大丈夫じゃないかな。
「よく見ればツヤツヤと綺麗じゃの。これは、もしかして、もしかすると」
「美味しく食べられそうです?」
「うむ」
「それはよかった」
ほんとよかった。苦手って言うからどうしようって思ったよ。最初の印象って大事だな。
「まだかの?まだかの?」
美人さん、期待しはじめたのか、身体を揺らしながら混ぜるのを見てる。
なにこのお姉さん。すごい美人さんなのにやることが可愛すぎる。
ついでに雀も木のふちで覗いてる。見てるのが気に入ったのかな?心なしか一緒に揺られてるようにも見えてちょっとほっこり。
なんてやってるうちにご飯を混ぜ終わる。あとは握るのみだ。
「うん?このまま食べるのではないのか?あ、それスシというやつか?」
「寿司?いいえ、これはおにぎりっていうんです」
そういえば寿司も同じく握るものだよな。これにも握りの極意って発動するのかな?
ていうかこの世界、寿司もあるのか。随分日本かぶれしてる異世界だな。
「おにぎりか。楽しみじゃのう。ワクワクするのぅ」
どうもおにぎりも知ってるっぽい。これなら例えば屋台とかで売っても怪しまれたりはしないかな?
そして。
「はい、お待たせ」
サクッと塩おにぎり三つ完成~。
「待っておったぞー」
思わずがおーといいそうなポーズで迎えてくれる美人さん。ギャップ萌えするなぁ。
さてさて、異世界の人はこのおにぎりをどう評価するのか楽しみだ。
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