第6話:お礼のおにぎり
掌サイズの雀がダンプサイズのサイ(仮)を正面からぶつかって跳ね飛ばす珍事。
珍事で済むレベルか?
嘘だと思うじゃん?ところがどっこい、現実である。
転生したのも、女になったのも、チートな能力貰ったのも、雀が鬼強いのも全部現実。
ちょっと自信なくなってきた。
本当の俺は今も病院のベッドの上で死にかけながら寝てるんじゃなかろうか。
これはそんな俺が見てる夢っていうオチで。
なんて現実逃避をしてる間に、空中では雀が追撃とばかりに
そして最後に止めとばかりに腹から背中にかけて突撃、貫通する。
……こいつ、もしかしなくても鬼絶対殺すマンの漫画に出てくる雷の使い手の生まれ変わりじゃね?
で、止めを刺されたサイ(仮)はそのまま自由落下。まさに落下サイ。そして。
ドゥン!
いかにも重いものが落ちましたという低い音が響き渡った。それに続いて。
パシン
なんか軽い音がした方を見れば、いつのまにか近くまで飛んできてた雀が羽を広げて纏ってた雷を弾いてるところだった。
「チュン!」
そしてこのドヤ顔である。
それっぽく見えるだけかもしれないけども。
「……ぷっ、ははっ、あはははははははははは」
それがなんだか可笑しくて。つい笑いだしてしまった。
そして笑いだしたら、なんだか色々不安だったり悩んでいたことが馬鹿らしくなった。なんか心もすごく軽くなった気がする。
こんな小さな雀があんな大きな可能性を見せてくれたんだ。大丈夫大丈夫、俺の悩みも不安もあれに比べれたら軽い軽い。
せっかくだし、貰った能力を使ってスローライフでも目指してみようかな。
そんなことを思いながら、思いがけず溢れてきた涙を拭った。
どうも自分が思っている以上にプレッシャーが強かったみたいだ。
・
・
・
「はぁ、笑った笑った」
たくさん笑って、ちょっぴり泣いて。
おかげで変な強がりじゃなくて、ちゃんとした意思と覚悟をもってこの世界とむきあえそうだ。
だから。
「命と心を救ってくれた君にお礼をしなきゃね」
俺はまだドヤっている雀に声をかけた。
雀のドヤっぷりが増した気がした。
さて、お礼といっても今の俺にできることなんておにぎりを握ることくらいしかできないけど、喜んでくれるかな。
俺はまだドヤってる雀に笑顔で応えながらさっきの要領でご飯と塩を取り出し、腕を捲って早速おにぎりを握りはじめる。
するとその様子を見たかったのか、飛んで木の桶の淵に留まり、興味深そうに見つめる雀。
ほんとこの子かわいいなぁ。
そんな姿にほっこりしながら、作ったのは三つの俵おにぎり。もちろんサイズはちょっと小さ目。
「はい、どうぞ」
そう声を掛けたら雀は早速近くまで飛んできておにぎりをつつき始めた。
心なしか嬉しそうに見えるけど、実際にそうだったら俺も嬉しいな。
それにしても綺麗に食べるな。つついて食べてる割にはご飯粒が全く飛び散らないし。
あーいかん、これはいかん。ずっと見続けられるなこれ。
なんて思ってた矢先。
「能力がレベルアップしました」
「のわっ!?」
突然頭の中でファンファーレと声が響いた。
……びっくりした……
頭の中に自分以外の何かが流れるって初めての経験だし、仕方がないんだけど……
ちょっと気持ち悪いなこれ。
「食材「ゴマ」が解放されました。スキル「おいしくなーれ」を習得しました」
「なんだこれ?」
なんだこれ?
いやほんとその一言。
ゴマは分かる。ていうか待望の食材の追加は嬉しい。レパートリー増えるし。
問題は「おいしくなーれ」という謎のスキルだ。
「食べ物に「おいしくなーれ」と声をかけてあげるとおいしくなります。おいしさはスキルレベルに依存します」
なんて思ってたら追加情報がきた。説明助かる。が、しかし。
……うわぁ
多分今の俺、すっごく苦い顔してると思う。自覚ある。
なんていうか、扱いに困るというのが正直な感想。
まず、なんでそれでおいしくなるのかがわからない。異世界だから、スキルだからと言われればそれまでなんだけど、納得はし辛いな。
で、これが最大の難点なんだけど……
言うの?この台詞を?この俺が?絶対に嫌ですけど?
コレ大事。
「アキバのメイドさんにやってもらえよこんなことぉ!」
これは何?俺にやれっていう神様の無言の圧力?
やらねえよ?
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