第3話:おにぎり

 今俺の目の前には、俺が握った出来立てホカホカのおにぎりが三つ。

 どれも塩だけのシンプルな味付け。だけど。


 フワァ。


 香りたつ湯気が鼻腔をくすぐる。

 出来立てのおにぎりってなんでこう美味しそうなんだろうな。


 それではもう我慢の限界なので。

 死ぬ前にもう一度食べたいと願ったおにぎり。それを。


「いただきます」


 俺は手の平を合わせて合唱したあと、手を伸ばしておにぎりを一つ掴む。

 それを両手で持ち、そして。


「はむっ」


 てっぺんを齧って咀嚼する。

 ちょっと熱いけどそれがいい。口の中でお米が解け、ご飯の甘味と塩っ気が調和し、嚙んだら噛んだ分、幸せが広がる。


 ああ、美味しいなぁ……


 ポタ、ポタ


「あ、あれ?」


 気が付くと、膝に雫がこぼれ落ちていた。それを見て初めて、頬を流れる涙に気づき、自分は今泣いてるんだと実感した。

 嬉しくて、どこか懐かしくて、美味しくて。


「うまい。うまいよ。涙が出るほどうめぇ」


 俺は涙を流しながらあとはひたすら夢中でおにぎりに噛り付いた。


「ご馳走様でした」


 そのままの勢いでおにぎりを二つ食べ終わった俺は、感謝をこめて手を合わせて合唱。

 お腹も心も満たされて、今俺はとても晴れやかで穏やかな気分だ。


 そうだ、神様にお礼を言わなきゃ。


 そう思い、最後に残った一個のおにぎりを前に、もう一度両手を合わせて目を閉じ、神様に祈る。


「神様、ありがとうございます。これでもう、思い残すことはありません。こんなのがお礼になるのかわかりませんが、おにぎりを供えさせていただきます。俺の気持ちと一緒にお受け取りください」


 そのままゆっくり目を開けるとあら不思議、お供えしてあったおにぎりが消えていた。

 その現象に目を丸くして驚いてると、今度はどこからともなく声が聞こえてきた。


「や、やっぱりおにぎりは、う、う、うまいんだな。うん」


 そのどこか嬉しそうな声に、俺はあのおじさんの神様が美味しそうにおにぎりを頬張る姿を想像してクスリと笑ってしまった。


「ふう」


 俺はそのまま地面に横になって目を瞑る。

 頬を撫でる風が心地いい。


 ここは天国か?

 ああそうか、俺は死んで天国にきたのか。そう考えればあのチート能力にも納得がいく。天国ならなんでもありだろう。すげえな天国。ちょっと殺風景だけど。


 ……いや待て。俺が女になってる理由って何?


 ポク、ポク、ポク、チーン。


 うーん、分からん。ほぼノーヒントだしなぁ。

 コ◯ン君や金〇一レベルの頭脳が欲しい。ただし八神〇イト、テメーはダメだ。普通に悪いことばっか思いつきそうだし。そんなこと言ったら前者は事件とのエンカウント率がえげつないことになりそうだけど。うん、やっぱりなしで。


 ううん、思考が脱線した。


 ヒントと言えば、そういやまだあのメモを全部読み終わってないんだよな。どこにやったっけ?

 一度立ち上がって下を見る。視界を遮るお山が二つ。


 ビューティフル!


 いや、違う違う。

 思わず揉んでしまいそうになってハッとする。


「んんっ!」


 別に誰も見てないだろうに、ちょっと恥ずかしくて咳払い。

 軽く落ち着いてから改めてキョロキョロ。

 近くにそれらしいものは見当たらない。

 んーどっかに落としたわけじゃないらしい。じゃあポケット?

 と思って改めて自分の格好を観察。

 着物のような上着にスカート?いや、これは袴?

 なんかものすごい可愛い恰好をしてそうだけど、同時に女装してる気分になってかなり複雑。

 っと、今はメモメモ。いや、この服ポケットとかあるの?普通にポケットのありそうな場所をごそごそしてみるけど、それっぽいものはなし。

 そこで腕に違和感。おや?と思って裾の中をごそごそ。


 お、あった。


 無意識にしまったのか、たまたまそこに紛れ込んだのか、とりあえず無くしてなくて一安心。

 メモの続き続き、と。


「能力は使い続ければ成長するんだな。出せるご飯や具材の種類が増えるんだな。ぜひたくさん活用してほしいんだな」

「……」


 このチート能力、まだ上があったんか。やっぱすげえや天国。

 って有益な情報だけど欲しい情報はこれじゃないな。


「他にもで生活していくうえで便利そうな能力をいくつか付与してあげたんだな。クリ」


 ちょっと待て。今ものすごく大事な情報が出たんだけど!?

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