キツネの女王
わんころ餅
女王になるために
第1話 島流しに遭ったのじゃ
「貴様は島流しの刑に処す!自身は天皇であるご子息を裏で操り、政を狂わせ乱を引き起こした。それが貴様の罪じゃ!この女狐め!」
砂利の上でボロボロの襦袢を着た見窄らしい格好をした女性が正座で座らせられ、麻の縄で手脚を括られていた。
位が高いであろう官に馬を走らすための鞭を身体に打ちつけられる。
女性は痛みに耐え、一言も声をあげず、下唇を噛み、官を睨み付ける。
その姿を見た官は女性の目力に怯み、後ろを向く。
「すぐにこの地より追放せよ!」
女は侍の男に縄を付けられたまま抱えられる。
侍とわかるのは、身を護る鎧こそ身に着けてはいなかったが、この場に刀を持って入られるのは侍しかいないからだ。
そして女はこの光景を何度も見てきたが、当事者になり、自分のしてきた事を振り返るが何も悔いはなく、抵抗もしなかった。
両手両足の縄は縛られたまま舟に乗せられる。
そして、位がそれほど高くない者が舟を漕ぐ。
近海は凪の状態であり、波も立っていない。
穏やかで昼寝日和であった。
「のう。お主、この縄を解いてくれんかの?」
「……。」
「口も利いてくれんのか。それじゃからお主はそんな役回りである舟漕ぎにさせられるんじゃ。」
「貴女にはわからないですよ。男社会はそう単純ではないんです。」
「じゃから、わしが息子の代わりに政をやっておったのじゃ。残念な事になったの。」
「……。」
実際、女が政治をしていた時は男社会ではなく、この女に媚びれば上官になることもできた。
それを知っていた男は黙って舟を漕ぐ事に集中した。
女はそんな男の行動を見てため息を吐くと舟の速度が上がってきたような気がした。
女はニヤリと笑って男に訊く。
「なんじゃ、やる気になったのか?」
「……いえ。わたしじゃあ……。な、なんだ……あれ!」
男が指を指した先には渦が巻いており、すでに引き込まれ、手遅れだと察する。
「良い人生……とは行かんかったが、こんなもんじゃろうの……。」
女は全てを受け入れ、穴の方へ見つめる。
そして落下し、海の藻屑へとなってしまった。
§
女は目を覚ますとそこは荒れ果てた大地のような洞穴のような景色であり、太陽と思われるものは弱々しい光を放っていた。
「なんじゃ……?ここは……。わしは……生きておるのか……。儲けもんじゃな。」
そう言うと立ち上がり辺りを探索する事にした。
襦袢はいつの間にか無くなっており、フルヌードであったが、今の彼女にはどうでも良いことであった。
未知の世界で好奇心が旺盛になっているが、同時に空腹で腹の虫が騒ぎ始める。
「困ったのう……。何か食わんと、この世を知らずに野垂れ死んでしまうの……。米を食いたいところじゃが、こんな辺鄙な場所にあるわけないしのう……。お?なんじゃこの奇怪な色をしたキノコは……。毒キノコにしては中々変わった色と大きさをしておるの……。取り敢えず採っておくのじゃ。」
女はそれを引っこ抜くと左手に持ち、道なき道を進んでいく。
滑って転んだり、岩肌に身体をぶつけたりし、あちこちが擦り傷だらけになるが、それでも休まず歩いていく。
「しっかし、洞窟なだけあって涼しいの。あのお天道様の光も……なぜ洞窟にあるんじゃ?なんと摩訶不思議な場所じゃ。狐に化かされとるのかのう……。お腹空いたのじゃ……。このキノコ……食べても……ダメじゃ!明らかに毒じゃろう……。ん?」
女は耳を澄ますとある音が聞こえる。
――サー……ピチャピチャ……サー……
「水の音じゃ!しかも川のように流れておる!あっちの方じゃな、待っておれ……!」
女は走って音のする方へと向かうと、予想通り川があった。
川縁に座り、手で水を掬う。
川の水は透明度が高く、周りに水を汚すような環境もない。
しかし、残念な事にその透明度ゆえに魚の影を一つも見つけられなかった。
女は取り敢えず川の水をお腹いっぱいになるまで飲んだ。
「っはあ……!美味いの!よく濾された水みたいで良いの。この辺りに構えて、なんとか過ごして――」
――ズウゥン……ズウゥン……
女は地響きを聴き、振り返ると女の三倍以上の丈のある蜥蜴のようなものと遭遇する。
突然のことで女の顔から血の気が引く。
叫ぼうにも声が出ないほど恐怖で腰を抜かす。
何もわからないまま女は吹き飛ばされて河原の大岩に打ち付けられる。
先ほど飲んだ水も虚しく吐き出し、失禁し、倒れ込む。
大蜥蜴は女の持っていたキノコをぺろりと平らげ、再び女に狙いを定める。
何かを察知した大蜥蜴は目の色を変えて女に近づく。
それは大層立派な物を掲げ、女の背後に回る。
「いやじゃ……!嫌じゃ!そんなもの……わしには……お゙ぐぅっ!?」
難なく挿入され五秒も経たずに終了する。
抜かれた際、内臓がいくつか巻き込まれて飛び出る。
全て損傷しており、女は動くこともできず段々と身体に寒気を覚える。
一度瞬きすると大蜥蜴は姿を消しており、代わりに狼が座っていた。
狼にしてはかなり大きいが、女はそれより大蜥蜴の行方が気になっていた。
残りの力を振り絞ってよく見ると大蜥蜴は狼に首を引きちぎられており絶命していた。
仇をとってもらえたように感じ、目を閉じる。
『オマエ……シヌノカ……?』
不意に声をかけられた気がして目を開けると、やはり狼が座っていた。
どこか寂しそうな顔をしており、思うように動かない手を動かして鼻を触る。
「し……ぬ……じゃろう……な。わし……はもう……たすから……ん……。」
『ソンナコトナイゾ?コノセカイノカミ、ヴォルフニマカセロ。オマエハ、マダシニタクナイカ?』
(何を言っておる……。ヒトは皆、死にとうないのじゃ……。わしだって……まだ、やりたい事くらいあるのじゃ……。)
『キニイッタ。オレノチヲワケルカラ、オマエノチヲスコシモラウ。デハ、ヤルゾ。』
女の意識はそこで途切れ、どうなったのかわからなかった。
§
女は目を覚ますと狼が隣で寝ていた、慌てて離れるとどうやら身体がおかしい事に気がつく。
手足は獣のように毛深くなっており、尻尾と耳があり、人間の時にはなかった高い鼻があった。
水桶があったので鏡代わりに姿を見ると長い黒髪は人間のままで他は全て狐のような見た目をした人間であった。
「あ、起きた起きた。どう?生まれ変わった感想は。」
「わしは……死んだのか?」
「生きてるよ。だってこの世界の神、氷狼ヴォルフの力と血と肉を分けたからね。」
「ぼるふ……?」
「違う違う!ヴォ・ル・フ!下唇を噛むように発音するんだよ!」
「知らん!変な名前をしおって。それに神などおるわけ無かろうが!」
「ええー……。まあ、いつか分かってくれたらいいや。キミの名前は?」
「無い。」
アッサリと切り捨てられヴォルフは少ししょげてしまう。
首を横に振り諦めずに質問をする。
「キミの世界では、幸せや嬉しい事があったときの言葉ってあるの?」
「……幸福とか言うの……。」
「コウフクかあ……。じゃあ、キミは『ふく』と名乗るんだ。この世界は名前がないと不便だしね。」
「……勝手にせい、わんこ。」
神であるヴォルフをわんこ呼ばわりしてふくはそっぽ向く。
それを尻尾を振りながらニコニコと質問を繰り出していくヴォルフなのであった。
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