第32話 始まりのステージ 7
「よかったな」
「はい。私たちもやらないといけませんね」
「ああ、当たり前にこれよりもいいものにしないとな」
「愛も、ちゃんと頑張るー」
「それを言うなら、うちだって…」
一人の女性の乱入から、ステージはかなり盛り上がりを見せた。
それは、私たちクローバーのやる気を出させるものとしては十分な出来事ではあったし、どこか負けられないと思ってしまった。
どうしてなのか、わからないけれど、四人全員がそう感じたのではないかと考える。
そして、クローバーたちのステージは、さらなる盛り上がりを見せることになったのだが、クローバーのステージが始まると同時に、どさくさに紛れるようにして逃げ帰った花澄は知ることはなかった。
クローバー新曲発表の際に起きたこととして、花澄が乱入をしたことは、その日は話題になったが、新曲発表のためなのか、撮影を禁止していたのが功を奏したのかはわからなかったけれど、花澄が話題になるということはなかった。
だから、花澄自身は油断をしていた。
ネットで話題になってないのだから、私が乱入したことなど誰も知らない。
そう思っていたというのに、学校に行くためにいつものように通学路を歩いていたときにその出来事は起きる。
「花澄?」
「天音?」
私の名前を呼んだのは、何を隠そう、天音だった。
ステージが成功したからか、名前を呼ぶときに、呼び捨てに変わっていたので、少し疑問に思ってしまった。
だけど、天音の元気そうなところを見て、私は嬉しくなる。
「天音!よかったよ」
「花澄のおかげです」
「そんなことないよ。天音が頑張ったから」
「いえ、私だけでは、あのステージが成功することも、ステージの盛り上がりを感じることもありませんでしたから…」
「そんなこと言われたら、ちょっと照れるね」
天音の真っすぐな感謝を受けて、私は照れる。
そんな私を真っすぐ見ていた天音は、次に困ったことを言う。
「それでなんですが、花澄…」
「何?」
「ええっとですね。私と一緒に来てくれませんか?」
「どうして?」
「それは…」
天音は言いよどむ。
朝から天音に出会ったことは嬉しい出来事だったけれど、その言葉で、なんとなく言いたいことがわかってしまう。
天音は、私と一緒に事務所に行くということを提案したいのだろうということ。
でも、それはできない。
あのときは確かに天音がピンチで、何も知らない人たちが天音のことを好き勝手言うのが気に食わなくて、気づいたら乱入していた。
あの日、ステージが終わって、クローバーの人たちがステージに出てきたところで、私は冷静になった。
だからこそ、あの後は逃げるように帰った。
すごいことをやってしまったという罪悪感というのと、やってしまった高揚感があったけれど、あれは一回のみだからできたことで、そうじゃないとあんなに大胆なことはできないと思っている。
私は、天音が言いにくそうにしているのを遮るようにして口にする。
「天音。ごめんね。私は、それは難しいかな」
「花澄…わかるんですか?」
「言いにくそうにしてるってことだから…天音の事務所に行かないといけないとか、そういうのでしょ?」
「はい…」
「ごめんね。私は、それだけは無理なんだ」
「どうしてでしょうか?」
「それは私が…」
その後に続く言葉を口にしようとしたときだった。
後ろから衝撃が走る。
「幸來!」
「お、お姉ちゃん?」
「シズさん?」
急な登場をしたのは、私の姉であり、天音と同じ事務所ですでにアイドルとして、活躍している存在である、シノの一人、シズ。
本名、
驚く私と天音。
ただ、本人。
姉である静香は、驚く私たちに動じることなく、私の目を除き込んで言う。
「幸來、アイドルになりたいの?」
真っすぐに見られて言われた言葉に、私はすぐに答えるのだった。
「ううん…」
そう首を振りながら…
だけど、このとき気づいていなかった。
優しく笑う姉とは対照的に、拳を握りしめている女性が一人この場にいるということを…
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