第31話 始まりのステージ 6

これが正解なのか、私はわからない。

でも、どうしても天音を見捨てるなんてことはできなかったし、私と練習してきたパフォーマンスを周りの観客に見せたかった。

天音の初めてのステージを失敗しただけで終わらせたくなかった。

だからこそ、私は踊る。

天音のことをこんなところで終わらせるわけにはいかないのだから…

それに…

天音を見ていて思った。

私だって、ほんの少しでいいからアイドルと同じステージに立ちたかった。

そんなことを考えてしまっていた。

こんなことをしてしまえば、この後私は警備員に捕まってしまうということもわかってはいたけれど、そんなことを今は関係なかった。

ダンスは進んでいく。

ターンのタイミングで、天音と目が合う。

一瞬で何かを言うことはできないけれど、ほんの少しでも一緒にいた時間があるからこそ、視線で語り掛ける。

ねえ、天音…

完璧なアイドルになるんじゃなかったの?

こんなステージにするなら、私が天音のステージを取っちゃうよ。

だから、そんな必死で難しい顔をみんなに見せないで!

笑顔でステージを盛り上げるよ!

届くとは全く思っていないその思いだったが、天音の歌声が力強さを増す。

ああ、いい声。

私は天音の歌声を背中に聞きながらも、嬉しくなる。

急に登場した一般人と、それに呼応するかのようにして、盛り上がる歌。

そんな私たちのステージに、見ている人たちも最初は困惑をしていたが、盛り上がり始める。

再度ターンをした私は天音に視線を送る。

天音もそれに気づいたのか、笑顔を返す。

いける。

それを見た私はそう思う。

もうすぐすれば、天音が最初に失敗をしたダンスのシーンがやってくる。

天音もそれがわかっているのだろう、歌がさらに力強くなる。

私たち二人が考えたダンス。

それで観客たちがどうなるのか、正直なところわからない。

でも、ここでやらないという選択肢はなかった。

だって、ダンスは二人で考えたものだから…

もしこれがうまくいかなくても、私はきっと天音と一緒って言えるのかはわからないけれど、ステージに立てたことを嬉しく思うから…

だから…

二人のダンスがそろう。

普通であれば、別々のものをするのがその場面だったけど、私と天音は同じ動きをする。

昨日の朝から考えて、何度も繰り返した動き。

二人でお互いに言い合ってうまくできるようになったダンスと、先ほどとは違い、ぶれることなく響く天音の歌声。

うまくできているだろうか?

そんなことを考える暇もなく、さらに歌は続いていく。

必死に踊り、歌を歌う。

アイドルのステージというのはそういうもの。

ただ、それが楽しいと思えるのか、それとも苦痛だと感じるのか?

私は、天音と一緒に踊れている今が楽しい。

そんなことを考えた。



ステージに乱入してきた見知った顔。

また、諦めようとしていたタイミングで現れた彼女に、私の体は自然と力が入るのがわかった。

忘れていないはずだったのに、いざそうなってしまうと自然と私は諦めようとしていた。

どうして、こんなにも私はダメなのでしょうか?

そんなことを考えてしまう。

オーディションのときに考えていた、花澄さんに見せるためにステージも頑張るはずだったのに、そのことすらも忘れてしまうほど、他のことに気を取られてしまっていた。

両親のこと…

それは、私にとってとても大事なこと。

でも、そのことを知っているのは、私だけなのだから…

周りの人は、そんな私の事情なんか知らない。

それなのに、私はここにいる誰もわからないことで必死に悩んでいた。

それは、今見てくれている人たちにとって、失礼じゃないの?

私が目指したはずのアイドルに、私は全くなっていない。

花澄さんと二人で考えたダンスすらも忘れてしまうような状態になっていることにも気づいていないような私を呆れて見放すわけではなくて、助けに来てくれた花澄さんに、これ以上カッコ悪いところを見せるわけにもいかないから…

ようやく本来の私というものを思い出した天音は、力強い歌声と、花澄と考えたダンスによって、ようやく一歩を踏み出すことができた。

そんな天音と花澄の二人が立った、完全に予想外の初めてのステージはそのまま盛り上がりを見せて終わるのだった。

多くの問題を抱えたまま…

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