第26話 始まりのステージ 1

「今から緊張してる?」

「それは、花澄さんと離れるからで…」

「嬉しいことだけど、さすがに緊張するのが速いよ」

「そうなのかもしれませんか、本当にうまくいくのかが不安で…」

「だったら、これを渡しておくね」


そう言って、花澄さんから渡されたものは何かのキャンドル。


「これは…」

「アロマキャンドルだよ。私はね、何かある前の日の夜に、点けて匂いをさせてから寝るんだ」

「そうなんですね」


そう花澄さんから聞いて、私はアロマキャンドルの匂いを嗅ぐ。


「いい匂い」

「ふふ、そう思ってくれるなら、よかった」


火を点けていなくても優しい香りがするのがわかる。

それをしっかりと持ちながら、私は花澄さんを家から見送る。


「じゃあね。見に行くから」

「はい」


ダンスの違うやり方を考え付いた私たちは、ご飯を食べて、お昼過ぎまで二人で練習した。

うまくいかなかったダンスも、二人で考えたのがよかったのか、リズムもうまく取れて、少しずつ流れでうまくできるようになっていた。。

後は、花澄さんが帰った後に練習を少しして、念押しするように言われた、早めに寝るようにという言葉を守って寝ることにしようと思っていた。

明日にある、初めてのステージのことを考えると、花澄さんに言われたように今から緊張をしてしまうけれど、もらったアロマキャンドルを使って明日のことも頑張ろう。

そう考える。

そして、私はいつものように私以外に誰もいない家に入る。

少し前までは、花澄さんがいて、いつもの静かな家が賑やかになっていたので、余計に変な感覚を受ける。


「花澄さんとの特訓楽しかった…」


ついついそんな言葉が口から出る。

それほど、いつもと違ったことが楽しかった。

それに、思うことがあった。


「やっぱり、花澄さんにダンスを教わってよかった」


ほんの少し前の入学式で、強引に迫ったあのときから、憧れていただけのアイドルに、少しずつ近づけるようになったのではと思う。

後は、初めてのステージ次第になると私は思っている。


「休憩の間に、イメージを固めて、またダンスの練習をしないとね」


そんなことを考えた私は、緊張をしながらも楽しみなステージのことを考えながら、その日を終え、次の日を迎えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る