第25話 目指すアイドル像 4
「よし…」
いつもの時間に起きた私は疲れからか、まだ寝ている天音を起こさないように、部屋から出ていく。
まずは日課をこなさいと…
防音室があるというだけで、かなりいい家なのだろうけれど、それにプラスして部屋自体が広いということもあって、ゆっくりとストレッチと少しの筋トレをしていく。
朝の運動をしておくことで、ご飯なんかを食べる前なので、いつもより簡単に体の脂肪なんかを燃焼できるというもの。
それに、体を起こすという意味でも、かなり有意義な時間だった。
いつも家であれば、ここから朝ごはんなんかを作ってとするのが、他の人の家でそんなことができるはずもなく、私は大人しくゆっくりと動きを確認しながら踊るということをしていく。
これは、天音にダンスを教えるためにと動きを確認しておかないといけないと思ったからだった。
「どうすれば、動きに合わせて言葉がずれるっていうのをなくせるんだろ…」
そう、うまくいかない理由というのは最初からわかっていて、それはダンスが激しすぎるせいで起こる声の揺れだった。
シノの始まりの曲は、アイドルとして進んでいくための覚悟も表している。
だから、余計にダンスは普通よりも激しいものになっていたりする。
それなのに、シノの二人がうまくできているのは、二人組だからというのが大きい。
パートごとに歌とダンスが別れている場所とそろっている場所の二つがあり、天音がうまくいっていない場所というのが、お互いにダンスと歌をやるパートのときのものだった。
一人でやるのであれば、歌なのかダンスなのかにパートを決めないといけないもので、得意としているもの、見せたいものというのを一人であれば、それを考えてやるものではあるけれど、天音は両方をやりたいと言っている。
「でも、教えるっていっても、今のままだと本当に練習あるのみなのか、あとはダンスをやめるしかないよね」
天音の今の状態を考えて、余計にそう思ってしまう。
天音の歌というのは、私が少し聞いただけでもわかるくらいうまいもので、素人の意見なのでどうかはわからないけれどかなりの才能があると思ってしまう。
歌がうまくリズム感もかなりよかった天音だったので、ダンスをしていてもリズム感のおかげで少し教えるだけでうまくなってしまった。
そして、ダンスをしながら歌うというのも、レッスンをしているのもあってうまい。
歌がうまいのもあって簡単にはぶれたり、上ずったりもしない。
「やっぱり、ダンスを変えるしかないよね」
そこで考えるのはダンスを変更するというものだった。
天音が納得するような振り付けを考えるしかない。
そうすることでしか、天音が目指すアイドルになることができないからね。
私はそう考えて、どういう振り付けがいいのかを考える。
そうはいっても、どんな振り付けがいいのかなんていうのはまだ、わからない。
「二人組の曲なんだから、天音と誰かが一緒にやってくれたら、一番いいんだろうけど、一人だもんな」
そんなことを考えていたときに、部屋の扉が開く。
寝起きなのか、長い髪には酷い寝ぐせがついていて、少し笑ってしまう。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「寝ぐせついてるよ」
「え、あの、はい!」
天音は慌てて寝ぐせを抑えながらも部屋に入ってくる。
「何をしていたのでしょうか?」
「うーんとね、昨日のこともあってね、少しだけでも新しい振り付けを考えてたかな」
「そうなんですね。何かいい振り付けは見つかりましたか?」
「かなり難しいかな。まあ、仕方ないことはわかってるんだよね。完成してるものに、新しく付け加えることだからね。素人の私が考えたものじゃ、うまくはいかないよ」
「そんなことはありません。花澄さんが考えた振り付けだったら、私は踊りたいと思います」
「本当に?」
「はい。花澄さんが考えるものだったら、私が納得するものにしてくれると考えていますから…」
「確かに、そう考えて作ってはいるけどね」
そうはいっても、簡単にうまくいくものではないというのは、天音もわかっているのだろう。
私がゆっくりと動くのをじっと見ている。
ただ、そうやって見られていても、うまくいくはずもなく。
逆に見られすぎていることに、緊張してしまって、うまくいかなくなってくる。
「天音?」
「はい」
「そんなに見られても、うまくできないんだけど」
「そうなんでしょうか?」
「うん、さすがにね」
見てくれることについては、嬉しい。
そっか、そういう気持ちを込めれば…
私はあることを思いつく。
私がやりたいことはアイドルとして、楽しむというもので、笑顔によってそれを他の人にも共有できればと考えてダンスもしている。
天音の考えるパフォーマンスにそれがあうものなのかはわからないけれど、楽しめるダンス。
それを取り入れる。
普通であれば、しゃがむようにして激しく頭を下に向けたりしながらのもの。
それを逆に上に向ける。
ジャンプ。
クルっと回ってジャンプ。
楽しんでいることを見せるために、笑顔で…
うーん、こんな感じで私はいいかもしれないけど、これが天音にささればになるけど…
さすがにこれまでのカッコいいのから、可愛い感じにしすぎなのではと思ってしまう。
それに単純なものすぎる。
かっこよさがたりなくここからかっこよくするには?
そう考えても、なかなか難しい。
どうしようかと再度悩んでいたときに、寝ぐせを抑えていた天音が申し訳なさそうに言う。
「あの、花澄さん…こういうのはどうでしょうか?」
そう言った天音は、少し動く。
新しい動きを考えるというのは、ただでさえ難しいもので、その動きは普通の人から見ても、かなりつたないものではあった。
でも、私の中になかった動きで、それを見て思ったのは、かっこいいだった。
「どうでしょうか?」
ダンスを終えた天音は、不安そうに私に聞いてくる。
だから、私は天音に親指を立てると、笑顔で言う。
「いいね、組み合わせよっか」
「はい」
そして、私のものと天音のものを合わせたダンスが出来上がる。
「できた…」
「じゃあ、練習しよっか」
「はい」
そう元気よく天音が返事をしたところで、天音のお腹から、小さくお腹の鳴る音がする。
天音は、すぐに顔を真っ赤に染める。
そんな天音に私は笑ってしまう。
「さきにご飯だね」
「はい…」
天音は少し残念にしながらも、私たちはご飯を食べるべく、部屋を出ていくのだった。
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