第24話 目指すアイドル像 3
寝息を立て始めた天音を見て、私は少し考えてしまう。
それは、天音はどうしてそんなに無茶をするのかというものだ。
アイドルとして初めてのステージに立つのだから、それに向けて練習をする。
それ自体は全くもって間違っていないし、私ももしアイドルだとすれば、同じようにしていたと思っている。
でも、やりすぎではないのかとも思ってしまう。
確かに練習は大事だ。
自主練習をすることも、ステージに向けて頑張っているのだから、おかしいはずがない。
でも、それで怪我をしてしまうことというのは、ありえないことだった。
「初めてのステージで頑張りたいのは、痛いほどわかるけど、怪我をして出れなくなっちゃったら、意味ないのに…」
そう言葉にするけれど、どうして、そこまで頑張るのかというのがわからない。
天音には悪いけど、いい機会だし少しだけ…
しっかりと寝ている天音を起こさないようにして、私は部屋から抜け出す。
夜中になっているのにも関わらず、天音以外の人がいる気配はしない。
お父さんや、お母さんはいないのかな?
少しずつ部屋を回っていく。
といっても、いくつかの部屋は鍵がかかっていて開かない。
「人の家を勝手に散策するって、楽しいことは楽しいけど、複雑な気分だよね」
それに、見つからないか…
諦めかけていたときに、一つの部屋が開く。
「なんだろう、この部屋…」
部屋に入ると、多くのものが置かれていた。
そこにあるものの多くは賞状だった。
水泳だったり、ピアノだったり、いくつもの賞状で埋め尽くされている。
私もいくつかの賞状はあったりもするけれど、天音のようにここまで多様な数のものをもっているというのは驚きだった。
「たくさんある…」
さらに近くで見ようとしたところで、気づく。
多くのものに埃がついていた。
あんまり管理されてないってことなのかな?
ううん、違うよね…
多くの賞状がある、そして埃がついている。
あとは天音以外に家族を見かけない。
これは、天音が親に自分を見てもらいたくて頑張った結果というものなのだろう。
「こういうのって、物語の中でしか見たことなかったものだけど、本当にあるものなんだ」
そう言葉を言ったところで、扉がガチャッと開く。
扉の前に立っていたのは、天音だった。
「天音…」
「花澄さん、見てしまったのですね」
「ごめん、ダメだった?」
「ダメではありませんが、私が頑張る理由がバレてしまったようで恥ずかしいです」
「何も恥ずかしいことじゃないよ」
「でも、私が頑張っても、普通のものではもう見てもらうことはないでしょうから…」
「なんで?」
「わかりませんか?」
「ううん、わかる。でも、だったら余計に無理をするのは…」
「絶対に嫌です。私は、アイドルとしてテレビに出て、それくらいのことができれば、二人だって、私のことを見てくれるはずですから…」
天音はそう言う。
言いたいことはわかるし、完璧にこだわる理由というのも、これで納得した。
天音はアイドルとして、ステージを完璧にこなすことで、その後のアイドルとしても活躍するつもりなのだろう。
そして、そのままテレビに出て、両親に自分の姿を見てもらう。
それが天音のしたかったこと。
でも、そんなにうまくいくものなのかがわからない。
天音の言いたいことというのは、わかる。
両親に私のことを見てほしいためにすることなのだろうと…
「でも、そんなにうまくいくことなんかわからないでしょ?」
「はい。それも私はわかっています」
「それなら…」
「でも、それと頑張らないというのは違います。私も最初はただ両親に私のことを見てもらうために頑張っていました。でも、アイドルを知っていくうちに、アイドルそのものが好きになってしまいました。だから、そんな好きなアイドルに少しでも近づくために努力したいんです」
「そっか…」
天音の言葉に私は納得した。
確かにアイドルというものは、知れば知るほどに好きになって憧れてしまう。
私がそうだったように…
同じ気持ちの天音に私は何をしてあげられるのだろう。
天音の気持ちを知って、私はもう一度思うことができるのだろうか、ステージは失敗するって…
ううん、そんなことはさせない。
ステージは成功させる。
天音が納得いく形で…
そこまで考えたところで、拳に力を入れる。
「天音」
「はい」
「それなら、今日は余計に休まないとね」
「どうしてでしょうか?」
「アイドルなら、まずは顔が大事だよ。隈なんてもっての他だからね」
「確かに、そうですね」
「そうと決まれば、寝るよ」
「はい」
そして、私たちは二人で部屋に戻る。
「あの、花澄さん?」
「なに?」
「これはなんでしょうか?」
「決まってるでしょ、アロマとオイルマッサージだよ」
「それは見るとわかるのですが、えっと、それをするのですか?」
「当たり前だよ、得意だからね」
私はそう言葉にすると、もってきていたオイルを手にとって少し体温で温めてから足をマッサージしていく。
当たり前のことだけど、無茶をしていた足は張っていて、このままにしておけば明日に響いてしまうだろう。
本当はお風呂上りにしておけばよかったんだけど、いろいろあったしね。
今はこれで…
家ではお姉ちゃんにしていることで、かなりのテクニックをもっていると自負している私はそのままマッサージをする。
「あの、ちょっと…」
最初の方はそんなことを言っていた天音だったけれど、疲れなどもあるのだろう、気づけば天音は眠りについていた。
それを確認しながらも、私はマッサージを続けるのだった。
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