第13話 ステージに向けて 1

「嬉しそうな声だったな」


私はきれた電話の画面を見ながら、そうつぶやく。

受かったと聞いて、私自身も嬉しくなるくらい、喜びに満ちている声だった。


「いいなー、輝いてるって」


そんなことをつぶやく。

輝いている人たちを見るのが好きだ。

だからこそ、いいなと思うくらいで、終わるものだと、私も思っていた。

でも、天音の嬉しそうな声を聞くと、どこか私もと思ってしまう。

それでも、考えれば考えるほどに、逆に頭は冷静になっていく。


「ま、天音くらい可愛いなら、わかるけど、私じゃね…」


そんなことをつぶやきながらも、眠りにつくのだった。

次の日、いつものように学校に向かっていた。

友達ができていれば、こういうときでも一緒に登校できたのに…

なんてことを考えていたときだった。


「おはようございます」

「おはようって、天音」

「はい、花澄さん」

「どうして朝から?」

「それは、その…決まっています。花澄さんは、私の師匠なのですから弟子として一緒に登校するのは当たり前です」

「そういうものなんだ」

「はい。迷惑でしたか?」

「それはないよ」

「それは、よかったです」


嬉しそうにそう言った天音と同じように、私も嬉しく思ってしまう。

初日から友達ができていなかった私にとって、こうして一緒に登校してくれる存在というのは、正直かなり嬉しいものだったからだ。

それも、隣を歩いているのが、アイドルの卵だということがわかっているので、余計にそう思ってしまう。

そうそう、こういう高校生活を望んでいたんだよ!

そんなことを大きな声で言いたいくらいには、嬉しいことではあったが、それをなるべく顔に出さないようにする。

どうしてか?

それは、同じ学生だからだ。

天音は可愛い。

今のところは、自分に自信がないからこそ、うまくいっていないけれど、私に教えてもらうことできっかけをつかんで、自信を持つことができれば、すぐに私がいなくても活躍していくだろうと思っている。

一般人の私と、有名になるであろう彼女。

そんなことが確定している二人が一緒にいるときに、求められるのは学生として同級生として普通でいることだ。

だからこそ、顔を緩ませてはいけない。

同級生としての対応をしないといけない。

決して、ファンのような反応をしてはいけない。

だから、なるべく会話もぶっきらぼうにしているというものだ。

そうしないと、この状況が嬉しすぎて変な顔にでも簡単になってしまいそうだった。

それくらいには、天音の笑顔は破壊力がある。


「は!」

「どうかしましたか?」

「ううん、ちょっと気になることがあってね」

「そうなんですか?でも、そんなに周りを見ても、何もありませんよ」

「確かにそうなんだけどね」


天音は気づいているのか、気づいていないのか、よくわからない発言をする。

というのも、天音はアイドルになれるほどかわいい。

そんな美少女の天音と一緒に登校している私に向けて、嫉妬の視線がむけられるということもありえることだと、今更ながらに思って周りを見たのだ。

だけど、確かに天音の言う通り、何もないし、注目もとくには受けていない。

それもそのはずで、そんな私たち二人の横を、天音と同じレベルの美男美女が歩いている。

そうだった、天音という友達がようやくできたことで忘れていた。

芸能科がある学校に通っているのだから、天音と同じくらいの人が当たり前のように歩いている。

だから、注目されるということもあまりない。

私は、そういう話しをする友達がいないことでそのことをすっかりと忘れていた。

そんな私のことを、天音は不思議そうに見ている。

こ、こういうときは、違う話題にしないと…

先ほどの奇行を棚に上げて、私は天音にあることを聞く。


「天音がさっき言ってた、レッスンが休みなのはいつなの?」

「はい、オーディションに受かったということもあるので、基本的にはお休みはありません」

「え?じゃあ、さっき言っていたことは?」

「えっと、それは…レッスンが終わった後に、少し見てもらおうと思いまして…」

「それって、かなりオーバーワークにならない?」

「それは、その…」


頑張るということは確かにいいことだ。

天音は、オーディションに合格をした。

初めて合格をした。

だから、受かってステージに立つのだから、もっと完璧にしないといけない。

天音のことだから、そう思っているのだろうと、私はなんとなく感じてしまう。

でも、やりすぎてしまってもダメだということを、私はわかっている。

ここは、私が一肌脱がないといけないよね。


「仕方ないなあ、いいけど、絶対に無理はさせないよ」

「はい、よろしくお願いいたします。また連絡をさせていただきます」

「うん、わかったよ」


そして、芸能科と普通進学科は校舎が違うので校門で別れると、それぞれの教室に向かった。

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