第2話 出会い 2

「それで、話をきかせてもらってもいいですか?」

「はい。すみません、急にあんなお願いをしてしまって…」

「ううん、驚いたけどいいんだよ」


そんなことを言いながらも、再度女の子の見た目と、その仕草に、私は惚れてしまいそうになる。

髪をかき上げる仕草なんか、自然で、さらには美しすぎて思わず見ほれるほどだった。

でも、こんなに可愛い女の子からお願いされるのが、ダンスを教えてほしいだとは思わなかった。


「えっと、それで…どうしてダンスを教えてほしいのかな?」

「はい。それはですね、まずはこれを見てほしくて…」


彼女はそういうと、携帯の画面を見せてくれる。

そこには彼女の写真が…


「えっと、私はこう見えても、芸能化に通ってまして…」


でしょうね。

彼女はそう言って謙遜しているが、むしろ、その可愛さで芸能科じゃなかったら驚きだもんね。

写真を見せてもらうとさらに可愛いことがよくわかる。

もし芸能人じゃないのなら、仕草一つとっても、精錬されておりいいところのお嬢様だといわれても信じてしまいそうになる。

そんな子が目の前で頭を下げてお願いしてくることなんかが、私の今までなかったイベントだから余計にびっくりしてしまう。

こんな状況を傍から見られてしまえば、私がいじめているみたいじゃ…

まずい、まずい。

すぐにやめさせないといけない。

そう考えた私は、話をちゃんと聞く前に、返事をしていた。


「わかった、わかったから」

「本当ですか?」

「えっと、何をしてほしいのかをまずは教えてほしいな」

「私がアイドルとして、成功するためにあなたのダンスを教えてほしいのです!」

「うん、嫌かな…」

「どうしてでしょうか?」


私がそう答えると、彼女もそう言いながらもその可愛さを武器にするようにして下から覗き込んでくる。


「椅子に座ってるからって下から覗き込むように見ないで」

「じゃあ、どうお願いすればいいの?」


そんなことを言われながら、さらに女の子は下から覗き込む表情を、ほんの少し潤ませながら見てくる。。

ここまでで、理解してもらったかもしれないけれど、私たちは椅子に座っている。

立ち話もなんだからということになったから校内にある自動販売機近くのベンチに座って話をしていたのだ。

だからって、ここで立っていたらできなかった下から覗き込むという、自分の可愛さをわかっているとしか思えない行動をしてくるとは思わなかった。

頭を下げるだけじゃあきたらず、こんなことをされてしまったら…

くう、こんなことをされて落ちない人はいないよ。

相当感情がない人じゃない限りね。

でも、ここですぐに私は、はいとはいえない。

私にもプライドってものがあるからね。


「そんな顔を続けられても、私はすぐには、はいとは言えません」

「だったら、どうすればいいのですか?」

「どうして私にダンスを教えてほしいのかをちゃんと理由を聞かせてもらってから考えたいの」

「えっと…」

「理由がないってわけじゃないんでしょ、そんなことを初めて会った人に急に言うってことはちゃんと理由があるってことなんでしょ?」

「そうですよね。急にそんなことを言われても困りますよね。理由は、こちらを見ていただければわかると思います」


そういうと女の子は立ち上がると、音楽プレーヤーを操作して音楽を流す。

そしてリズムをとりだすのだけど、その時点でどこかずれているのを見てわかってしまった。

そんな中でダンスもぎこちなく、ダンスをしたいのかすらもわからなくなってしまうくらいには見ていて痛々しいと思ってしまった。

ううん、これは確かに酷いね。

そんな私の視線に気づいたのか、途中だというのに女の子は踊るのをやめてしまう。

だから、私は思わず言っていた。


「ダメ!」


先ほどまでの照れた感じではなく、強い口調のそれに、女の子は思わず体をびくりと跳ね上げる。

流れ続ける音楽は、この気まずい雰囲気を緩和させることはない。

急な強い口調に、女の子は呆然としながらも、私は椅子から立ち上がった。

その急な行動に、女の子は慌てて私の手をとった。

ただ、私は冷たい口調で言い放つ。


「なに?」

「えっと、ダンスを…」

「無理!」

「ど…」

「それがわからないなら、アイドルをやめな!」


思わずそう言い切る。

女の子は呆気にとられたように、何も言えなくなる。

手の力が緩んだところで、私は手から離れると、その場を後にするために前に歩きだした。

校門も出て、女の子の姿が見えなくなったところで、私は天を仰いだ。


「はあー…もう少し言い方ってものがあるじゃん、私…」


そう口にするが、悪いとは思っていても後悔はしていない。

理由としては簡単だった。

あんなに中途半端なことをしては、アイドルとして失格だと思ってしまったからだった。

アイドル。

私の考えるアイドルは、絶対に中途半端にはしない。

それがへたくそであっても、そうじゃなくて、最後までやり遂げるのがアイドルだと思ってる。

だから…


「どう、私下手くそでしょ?ってアピールでもしているの?」


確かに顔は可愛いし、仕草だって可愛い。

でも、あんなのを私は認めない。

だからこそ、私は家に帰ると、すぐに制服を脱ぐと仮面をかぶって、さらには服も動きやすいものに着替える。

カメラを向けながら、音楽をスタートさせる。

そして、その感情を、情熱をぶつけるようにして踊りにする。

そこに合わせるのは、私が別でとっていた歌だ。

もっと、もっと!

そう、最後まで、躊躇なんてしてられない。

私は見られているときは、絶対にやり遂げる。

そして、見てくれている人に何かを届ける。

それができるのがアイドルだと私は思うから!

だ、だだん…

曲が終わり、最後に一礼すると録画を止める。

そこまで終わらせたところで、その場にへたり込んだ。


「疲れたー…」


全力でやりすぎたことに、さすがに私は少し後悔をした。

やっぱり怒りの感情でダンスはしちゃダメかな…

そのあと、休憩を終えた私は撮っていた動画を見返してそう思う。

ところどころが雑だと思ってしまった。


「うう…あんな偉そうなこと言っても、自分の感情が制御できないだったら意味ないよね…」


でもなあ…

どうしても、あの子には言いたくなってしまった。

そうだ。

調べたら出てくるのかな?

私はパソコンを使って検索する。

どうせ、撮っていた動画をパソコンで見ていたので、ついでというやつだ。


「ふん、ふふーん」


鼻歌を歌いながらも、検索を試みるが…


「うう、ヒットしないよね。こんなことなら名前を聞いておくんだったなあ…顔だけがわかっても、どうしようもないよね。でも、こういうときに私が使う最強技を使うかな」


そうして、再度検索を行う。

検索する内容は、あのダンスからわかるように、綺麗なのにダンスが…とか、可愛いのにダンスが…といった内容のものだ。

これで、後は画像を見る。


「あ、幸福ちゃんだ、可愛い!」


まあ、すぐに脱線してしまったのは、言うまでもない。

だって、仕方ないでしょ、可愛いんだからね。

幸福ちゃん、クローバーのメンバーであり、クローバーの中では身長が一番小さいということを利用しているのと、見た目もかなり童顔ということから、幸せをおすそ分けする笑顔をするとされている。

ただ、ちょっと天然なのか、ダンスなどはたまにミスをしてしまう。

でも、その必死さと、一生懸命さに、ファンは多い。

クローバーの中で誰が一番好きなのかと聞かれたら、誰とは言い難いけれど、それでも…


「決められない…って、めっちゃ脱線してる!ダメダメ、ちゃんと探さないと」


完全に目的を忘れてしまっていた自分に、思わずツッコミをいれると、気合を入れるために少しだけ目の付近を手で触ってから、切り替えるとあの子を探す。

でも、見つからない。


「どういうことなんだろう。アイドルしてるって言ってたから、見せてもらった写真だけじゃなくて、動画の一つくらいは目に留まってもおかしくないと思うけど、ないっていうことは…こうなったら、もう事務所のホームページを見るしかない。でも、そこもちゃんと見てなかったんだよね。適当に探してみるしかないよね」


そう決心して、とりあえずは有名どころとして、クローバーも所属している会社をクリックする。


「あ…見つかった…」


そこでは、アイドル部門のところに顔写真と芸名だろうか、名前がのっていた。

こ、こんな簡単に見つかるなんて…

最初から、こっちで探しておけばよかった。

ううん、今更言っても仕方ないよね。

まずは、経歴を…


「えっと、ない…」


経歴の欄には何もなかった。


「えっと、新人でもライブとかあるよね、どういうこと?」


そう、ここの経歴には、何年にどんなことをやったのかが箇条書きで書かれている。

例えばライブだったり、テレビドラマだったり、コマーシャル出演なども書かれていたりする。

有名になればなるほど、書くことが増えるので、ファンの間では、項目が増えれば増えるほど喜ぶという風潮がある。

そんな事務所のホームページで、何も書かれていないとなると…


「本当に新人なのかな?それにしては切羽詰まったような…ううん、今日あんなことしちゃったんだし、もう関係ないよね」


私は、そう思いながらもパソコンを落とすと、入学式の疲れをとるためにも、早めに休むための準備をして眠るのだった。

二日目も、何も起こることなんかなく。

無事に放課後を迎える。

後は、今日は素直に帰ろう。

夜にはクローバーのみんなが出るテレビがやることだしね。

そんなことを考えながら、スキップでもしそうな勢いで、帰ろうと校門を出たときだった。


「いたーーー!」

「え?」

「ちょっと、来てもらいますからね」

「ええええええ…」


二日目から注目を浴びてしまうということになりながらも、私はただ連れていかれるのだった。

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