私のアイドル
美しい海は秋
第一章 出会い編
第1話 出会い 1
「やった、やったあ!」
私はそんな喜びをかみしめながら、受験票に書かれた番号を見ていた。
念願の高校生、それも芸能科がある学校に進学できることができるなんて…
まあ、私は一般人なんだけどね。
それでも、たくさんのアイドルを間近で見られるという喜びで、私は今にもジャンプしそうになるのをこらえる。
ここにいるのは受かった人だけではないから…
それでも、少しでもみんなが笑顔になれるのなら…
そんなことを考えていると、学校内から歓声が上がる。
私もつられるようにして歓声の方に向かって走りだす、そこでは特設ステージが用意されていて、四人の輝く光がいた。
「今日落ちちゃった子たちも、次の学校に向かってのエールを込めて、私たちが歌を送ります」
「そうそう、どこにいったって、会える場所はあるからね」
「はい、皆さまにエールを込めて」
「「「立ち上がれ」」」
その言葉とともに繋がれる歌とダンスと笑顔。
人気アイドルのクローバーだ!
すごい、この学校に在籍してるってことはプロフィールにも書いてあったから、いるって思ってたけど、本当にいたんだ。
ま、まぶしいよ。
いい笑顔だよ!
アイドルの可愛くて力強い笑顔を見て、元気をもらいながら私はやっぱりこの学校に合格できたことを嬉しく思った。
…
「そんな最初だったから、普通に友達できると思ったのになあ…」
発表の日にあったライブから、時間はたって入学式。
可愛いアイドルや女優さん。
カッコいいアイドルや俳優さんなどを見ながら、入学式は確かによかった。
見れるだけで満足かもしれないけど、ファンからすれば…
「話しかけてみたかったなあ」
そんな言葉が口をつく。
だからといって、他のみんながその言葉に反応するかといえば、そういうわけではない。
だって、みんな同じ思いをもっているもんね。
というか、今の私の独り言だって、歓声のせいで誰にも聞こえないしね。
有名人がいる学校があるということもあり、やめてくださいと書かれていても、この年頃の子は、入学式ですらも盛り上がっている。
ただ、私はそうではない。
だって、芸能科がある学校の入学式ってことで、最初からしおりにステージが組み込まれていたからね。
だから、アイドルの邪魔をしたくはない。
あとは、応援するよりも、ステージを見ること、聞くことに集中したいからね。
ただ、そんな思いとは裏腹にステージは最高潮の盛りあがりを見せて、入学式が終わった。
すごい、すごかったんだけど…
終わった後の、これって…
なんだか嫌だな。
廊下を歩いている中で、一人で誰とも話していない人は確かにいるにはいるにはいるけれど、私と同じように肩身が狭そうだ。
元々この学校に入ることすらも、かなりの狭き門なので、一緒に入ってこられた人たちはすごいし、同じように喜びをかみしめる相手がいるっていいな。
私は、しみじみそんなことを思う。
だって、私には同じように喜べる人がいないんだもんなあ…
でも、この学校に入れたのだから、私と同じ思いをしている人はたくさんいるよね。
だからそんな人たちと仲良くなることができるはず…
「そんな風にすぐに仲良くなれるって、思ってた過去の自分を殴りたい!」
入学式も終わって、学校の紹介も終わった後にすぐに私はそんなことを叫んでいた。
あの後、その仲間に入れなかった人たちと仲良くなれるはずと思っていたけれど、自分から話しかける勇気もない私は、当たり前のように一人だった。
だから、こうやってさすがに人目がない場所ではあるけれど、叫ぶことで少しはストレスが緩和された。
なんてことはなかった。
「結局仲良くなれた人なんて、一人もいないよ!」
再度そう叫んでもストレスは体に残ったままだった。
結局、叫んだところで私のストレスはあんまり緩和されないのだ。
だったら、ストレスが緩和されることをしたい。
そう考えた私は、自分に言い聞かせるようにして言う。
「だって、あんないいものを見せてもらっちゃったんだから、仕方ないよね。だから、いけるよね、私の体!あげていくよ!」
人目がないことを確認する。
といっても、芸能科があること以外は、普通の学校だ。
入学式ということもあって、今日は部活もないので静かなのだろうけど、明日以降になれば部活も始まって多くの人がいることを考えると、今日だけは学校でのストレス発散にここであれをするのもいいかもしれない。
そこまでを頭の中で考えると、私はイヤホンを耳にセットして、さらにはもっていた携帯でイヤホンに音楽を流す。
学校でできるのは、今日と後はテスト期間とかだけになりそうだもんね。
あ、後は卒業式とかね。
初日からこんな気分になるとは思ってなかったけど、さすがは芸能科があるところだよね。
私のこの高鳴りがなくならないうちにやっちゃおう!
そして、私は窓という鏡を前にして自分の姿を確認しながら足でリズムを取り出す。
手を上に振り上げる。
「いくよ!」
曲がイヤホンから流れ出すと、私は歌って踊り始めた。
たんたたん、たん。
「♪♪」
さすがに大声で歌うというわけにはいかないので、歌に関しては口ずさむ程度にしておいたけれど、それでもダンスはいつものようにキレをだして…
やっぱり高校生になったし、この制服ってことがテンションをあげてくれるよね。
愛してるって、あなたは…
ああ、いいサビ!
テンションあがる!
楽しい。
歌って踊る、これが楽しくないはずがない。
私がうまいかはおいといてね!
でも、笑顔。
それが思わずでるから、さらに最高!
私はそのままテンション高く一曲終わらせようとして、窓の奥にいる女の子と目が合った。
「え?」
「ええ?」
さすがに最後までできるというわけもなく、右手でマイクのような形をしていたが、その手は力を失って下におろす。
まじで、やってしまったーーー!
心の中ではそう叫びながらも、この状況が予想外すぎて動けないでいると、先に動いたのは、目の前の女の子だった。
ガラッと窓をあけると、私に向かって勢いよく向かってきた。
そして掴まれる手。
「え?」
動揺する私に対して、女の子は言う。
「ねえ、さっきのダンス、私に教えてほしい!」
「え、嫌だよ…」
さすがの勢いに私はついそう返すが、近くで見るほど、女の子は可愛い。
私よりも身長は確かに大きいが、私には無理な長い黒髪と、くりっとした瞳は、かなりかわいい。
さすがは芸能科がある学校ということで、可愛い子が多いってことだよね。
でも、そんな子がどうして、ダンスを教えてほしいって、急に頼みこんでくるの?
混乱している私だった。
そこに女の子はさらに私の手を握りながら言う。
「お願い、じゃないと私は…」
その言葉は、悲しそうで、少し涙を噛みしめるような声だった。
だから、私はつい言ってしまった。
「話を聞いてもいいですか?」
お人好しなところが、こんなところで出るとは、私自身も思っていなかった。
だけど、その後に見られた、女の子の可愛すぎる笑みに、すぐに後悔しても仕方ないよねという気持ちになったのは言うまでもなかった。
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