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騎士達が捜索を始めて約半日が経った。
幸い、朝早くから遊んでいたこともあって、まだ時間的には正午といったところだが…これ以上見つからないとなると…。
「父さん、湖の方はどうでしょうか?」
「み、湖だと⁈そんな…」
何を考えたのか想像はできるが、なくはないといったところか。であれば、行ってみるしかないな。
「…万が一のこともあります。森の中は騎士達が捜索してくれているし、私達は湖の方に行ってみませんか?」
「ああ、そうだな。そうしよう。そうと決まればさっさと行くぞ」
公爵領といってもここはただの領地ではない、元は王家直轄領なのだ。広大な土地であるため、管理をする側も苦労は絶えない。ただ、その広さ故にこの公爵邸は領地の中心部に建てられている。森も公爵邸から然程離れてはいない。
その森のさらに真ん中辺りまで行くと、大昔から精霊達の”聖域“と呼ばれる湖がある。
あまり詳しくは知らないが、その湖に底はなく精霊に招かれたものしか行けない聖域があるんだとか。確かそんな感じ。底がないということで、この湖ごと聖域として扱われるようになり祖母がまだ幼い時、この公爵領が王家直轄領だった時代に一度だけ行ったことがあると聞いたことがある。
祖母は非常に精霊に好かれていたようで、迷い込んだ森の中で精霊に助けられたと聞いている。
まぁ普通に行こうとしてもその聖域には簡単には行けないらしい。だが、稀に精霊に好かれる人間がいて、招かれることがあるんだとか。
大昔の話で、今では精霊なんて伝説扱いだし、そうそうお目にかかれることはない。
全て恋愛結婚の末に王家から祖父の元へ嫁いできた祖母から聞いた話で、私自身行ったことはないのではっきり、聖域がある、精霊がいる、などと断言はできない。だが、可能性としてはなくはないと思う。何せ、あの姪だ。可愛いし天使なんだ、精霊に好かれたり、そういった場所に招かれててもおかしくはない。ただ、本当にそうならば、勝手に招くのはやめていただきたい。事前に一言欲しいぞ、精霊たちよ。
急にこんな形でいなくなってしまっては、私も父さんも母さんも、心配で身が保たなくなりそうだからな。
とういうわけで、私と父さんも湖に向かってはいるものの、近寄れるのかは定かではない。運良く近寄れたとして、そこに本当にいるのかどうかも、分からない。
そもそも魔道具作りと領地の管理しかできない私では専門外すぎる。
精霊のことは王家にしか分からないというし、そう簡単に聞けるようなものでもない。
「それに今から聞いたところで遅いんだよなぁ…」
◇
黙々と目的地に向かっている途中、魔力の揺らぎのようなものを感じたり、視線を感じたりはしている。
…近いはずなんだけどな。
「父さん、これ湖に近付けているんですかね?」
「…さぁな。精霊に関しては母さんにしか分からなかったことだ。そもそも俺は剣一筋であんまり真面目に聞いたことはないんだ」
あの時にちゃんと聞いていれば…とか、いやだがあの時の俺は…とか父さんがブツブツ独り言を言いながら先に進もうとしたその瞬間。
「…父さん、これは…」
「ああ…信じられん。初めて見たぞ、この湖はこんなに綺麗なところだったのか」
目の前に広がるのは、大きな湖だ。
水は信じられないほど透き通っているし、太陽が反射してキラキラと輝いている。湖の周りには、色とりどりの花々が狂い咲いていて、風が吹くたびに花びらが舞っている。
「すごいな、ここは…」
『お前達はこの娘の家族か?』
あまりに現実離れしている光景に、呆然としていると自分達以外の声が耳に届いた。その声がする方に視線を移すと湖の中心あたり…人間…?いやあれは…まさか、な…
「もしや、精霊様…でしょうか?」
『うむ。我は精霊の王だ。そなた達の探し人はこの娘か?』
精霊王は指で水を操り浮かび上がってきたのは、謎の光に包まれたニーナだった。
「ニーナっっ!!!」
『この娘はニーナというのか。ここへ迷い込んで溺れていた。連れ帰るといい』
そう言うと、さらに指で水を操り私達の元へとニーナを移動させた。
「ニーナ!全くお前ってやつは…っ」
「あぁ、可哀想に溺れていたなんて…」
『今はその首飾りのおかげで眠っているだけだ。時期に目覚めるだろう。…人間、一つ尋ねたいことがある』
「ニーナのこと、ありがとうございます。心より感謝致します。尋ねたいこと、ですか。大変申し訳ないのですが、私どもは精霊についてあまり詳しくはないため、お答えできない場合もございます…それでもよろしければ…」
『なに、人を探していてな。ローザという女性は、知っているか?』
「ローザ、ですか。私の祖母がローザという名ですが」
ニーナを抱きしめるのに忙しい父さんの代わりに私がそう答えると、精霊王は何故か懐かしむような目線でこちらを見ている。
『そうか…そなたはローザの親族なのか』
「はい、ちなみにここにいる父は、ローザ…祖母の息子です」
『なんと…。そうか。もうそんなに時が経っているのか。そうだな、あれから随分と時が経ってしまったな』
驚いたような表情をしたと思ったら、すぐに悲しんでいるような、寂しがっているような、そんな表情をした精霊王はさすが人間でないだけあってこの世のものではないほどに神々しく、そして美しかった。
社交界でそれなりに見目の良い女性も男性見たことはあるが…ああも綺麗な人間は見たことがないな。
憂いを帯びている表情がサマになっている。
そんな彼はまだ何かを言いたそうにしているが、言っていいものか迷ってるようだ。精霊王なんて生きててお目にかかれるものではない為、失礼とは思いながらも思わずガン見してしまっているとふと視線が合った。
『ローザの息子と孫よ、良く聞いておけ。ニーナは精霊に好かれている。今回ここに来れたのもニーナと遊びたがった下位の精霊達が仕組んだことのようだ。すまない。だが、精霊達に悪気があったわけではない。そして、おそらくだがその娘は…』
「お…じいさ、ま…?」
「おお!ニーナ!起きたか。どこか痛いところはないか?」
精霊王が何か言い掛けた時、いつもの寝起きと同じ甘えた声が聞こえてきた。
良かった、ひとまず無事らしい。精霊王の言うことを信じていなかったわけではないが、目を覚さないのでは確認のしようがなかったからな。良かった。
「ニーナ、心配したよ?怖くなかったかい?」
「あれぇ?おじさま…?ニーナね、おみずのなかでおぼれてたみたいなの。ぶくぶくーっていきできなくてちょっとこわかったの。でもね、でもね、えっ…と、アレ?いない…」
結末が残念なラノベの世界に転生したのに出会った人達からの愛されが止まらない?!~ チート活かしてスローライフ目指します。~ 麻桜 @ksgkmo92
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