i が足りない

夜賀千速

青く恋ひ侘ぶ


目があって心に落ちた風鈴が拾えず逸らした何度目かなあ


誰もいない美術室にて伝う水、脳裏の貴方はいつも綺麗だ


この恋の名前も知らぬ待つ宵の泪で溶けたハンドクリーム


改札の喧騒沸き立つ空白を共通貨幣の「愛」で満たして


紫陽花とひとつの傘が花ひらき貴方は雨が止んでほしいか


「だいすき」と唇だけの潔白で動く空気がうつくしすぎる


咲き爆ぜる花火を見ても曖昧な呟きばかりの君に幸あれ


xとyが交わるその刹那、私も貴方とキスしたい


花びらの散らない校章引き留めてかつての第二ボタンに触れる


殺せずにこぼれた愛は沈殿し空へとのぼるまでの地下鉄


伸びすぎた爪の綻ぶ憂鬱と恋は僕らの生活だった


吊り革の静かな往復ふえる傷なんもないのねあなたとわたし


愛なんてただの水沫と乞うけれど今日は貴女の頬流れ


どうしても死ねない僕はガムを噛む恋は薄荷の色をしていた


ああそれもままらないのは君のせい心臓音はブルーノートで


桜窓酷く優しい眼差しの先にわたしはいないのね


「さみしい」と零す音だけ文字になり遺書が増えてく午前四時半


花泳ぐ痛みのように咲く恋だ貴方の知らない夢を見ていた


カーテンの塗り替えてゆく黄昏を無口の愛で包んでください


「きみ」という存在ありきの「わたし」だと言われてみたくて桜が舞った

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i が足りない 夜賀千速 @ChihayaYoruga39

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