八話 十凶・噴煙のカムル
「あと少しで増援が来る! 草木の少ない開けた場所に逃げよう!」
ニーシャさんが叫ぶ。少しずつ少しずつ、轟音が近づいてくる。振り向くと、遠くの地面が割れて、そこからマグマが噴き出しているのが見える。
「ランクル、大丈夫?」
エネリアが心配そうに尋ねる。
「う、うん。なんとか」
戦闘での疲弊に加え、今この瞬間も、八体のセニカガの維持に大量の魔力を使っているランクルは、疲れ切った表情で、セニカガの太い首にもたれかかっていた。
「
「ありがとう。だけど、良かったの?」
「うん。ランクルが倒れたら、全滅だからね。」
そう答えると、エネリアは大きなあくびをした。
「ジアさん、私が落ちないように、糸で縛りつけてください。ちょっと寝ます」
「はいはい、死なないようにね」
近くの草を糸にして、エネリアをセニカガを縛りつけたジアさん。こうやって、命の危機が迫っている状況でも、平静を保っていられる人が大物になるのだろうなと、二人の顔を見ながら思った。
「
サントスさんが唐突に叫んだので、どうしたのかと思って振り向くと、私の顔の数十センチ前に、小石が高速で落ちてきた。
「噴火の勢いが強くなっています。みなさん、噴石に気をつけてください」
その次の瞬間、私の頭上にも落ちてきたので、フメリオで水筒の血を操り、慌てて壊した。噴石の数は、段々と多くなっていき、みんなの魔法を詠唱する声が、延々と響き続けた。
「……暑くなってきた。まずい、追いつかれるかも」
サリアさんが焦燥した顔で、そう言った次の瞬間。
「
私たちは、見ず知らずの森にいた。
「みなさん初めまして、一級魔法使いのライナです」
――ライナ・エルトルプ。二十歳で認定試験に合格し、一年前に一級魔法使いに昇格。固有魔法は「瞬間移動する魔法」。性別、女性。現在、二十九歳。
「同じく、一級魔法使いのイーリナだ。増援に来た」
――イーリナ・ユーレン。十六歳で認定試験に合格し、二年前に史上最年少の二十歳で、一級魔法使いに昇格。固有魔法は「光を操る魔法」。性別、女性。現在、二十一歳。
「イーリナ? もしかして、エネリアのお姉さんの?」
「どうしてエネリアのことを知ってるんだ? ……あっ、もしかして」
「……はい。僕をサポートするために、活力を分け与えてくれて、そこで眠っています」
イーリナさんは、ランクルが指さした方にズンズンと歩いて行き、ぐっすりと眠っているエネリアを、揺さぶって起こした。
「おいバカ! 戦場で眠るな!」
「ふぇ? ……えっ、お姉ちゃん⁉」
目を丸く見開いて驚くエネリア。
「大変だったらしいが、負傷してないか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
「……ご飯は、ちゃんと食べてるか?」
「うん、食べてる食べてる。お姉ちゃんこそ、元気?」
「元気だ。今から早速、カムルを殺しに……」
「やめておいた方がいいわよ?」
微笑みながら、ライナさんがイーリナさんを止める。
遠い昔のように感じられる昨日の夜、エネリアは、私よりも先に親を亡くしたことを、悲しんでいた。そしてその時、私の心には、薄っすらと仲間意識が芽生えたのだけど、二人の仲睦まじい様子を見た今、それは掻き消されてしまった。
「……その前に、作戦を立てましょう」
ライナさんは、近くにあった大木の上から九割ほどを塵に変えて、テーブルのようにした。
「みなさん知っての通り、今日の敵は、十凶の中の一体である『噴煙のカムル』よ。使用魔法は『地面を噴火させる魔法』で、七歳ほどの男の子の見た目をしているわ」
切り株のテーブルを囲むみんなが、うんうんと頷く。
「次に、十凶についておさらいするわね。十凶というのは、五十年前に魔法省が選定した十体の強力な魔族のこと。そして、去年の九月に北部州のシュレフ一級パーティーが、『毒牙のソラシス』を討伐したことで、現在ではカムルを入れて六体になった。ちなみに、十凶と同じくらいの力を持つと思われる、十凶じゃない魔族は、今のところ存在しないわ。……その強さは、一級魔法使い四人分とされていてね。正攻法じゃ絶対に勝てない」
険しい表情を浮かべながら、ライナさんは話し続ける。
「私は、二級魔法使いだった頃に、カムルに遭遇したことがあるの。もちろん勝てるわけがなくて、すぐに敗走したのだけど、その時からずっと、カムルの情報を追い続けてる。……カムルには、家族がいてね。父親と母親を、たくさんの部下に守らせながら、故郷の村に匿ってるの。そして、その故郷の村というのが、ここ」
ローブの裏から地図を取り出して、テーブルに広げ、指さしたライナさん。
「オスカ村。現在地は、ゲーイレから北に一キロほど進んだところにある、この森だから、オスカ村までは二キロくらいね。ここは今、魔法省から、接近禁止区域に指定されているわ。……私たちの作戦の第一ステップは、このオスカ村から、カムルの両親をカムルの元まで連れてくること」
「ライナも中々、
「……ふふっ、まあね」
ライナさんが、意味ありげな含み笑いを返す。どうやら、イーリナさん以外で、ライナさんの意図を理解できているのは、サントスさんだけのようだった。
「そして、第二ステップは……この両親を人質にして、カムルに自害させること」
みんなは、驚きの声を上げて、小さく俯いた。普段、血だらけになった魔族を見ても、どうにも思わない私の背筋にも、その時だけは冷たいものが走った。
「私は、カムルの足止めに向かうから、みんなは、オスカ村に向かって」
「だけどライナは、ここまでの大人数・長距離の瞬間移動で、かなり疲れてるんじゃ?」
「まあ、確かにそうね。だけど私……負けたままは、嫌だから」
ソーテリア てゆ @teyu1234
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