第九八話 規定シナリオに則った結果
強く断言したい。
もし平時であったなら、このような選択をするようなことはなかった、と。
触手によって全身を拘束され、窮地に陥った少女。
救い出せるのであれば、そうするのが当然というものだろう。
しかしあえて、それをしなかったのは。
この世界の規定シナリオに反してしまう可能性が高いと、そのように考えたからだ。
「くっ……! アルヴァートでも、ダメ、なんか……!」
大人びた美貌に苦悶を宿すアスカ。
そんな姿に心苦しさを感じつつも……
少しばかり、安堵してもいる。
破壊者が現れていないことから察するに、俺の選択は間違ってはいないようだ。
……とはいえ。
「じゃあ……始める、ね?」
破壊者の手によって、皆が凄惨な末路を迎えるといった、最悪な展開は防ぐことが出来たものの……
「あんた達……! 絶対、許さないから……!」
歯噛みするキリカと、
「どんなことされても、ウチは屈したりせぇへん……!」
ある種の覚悟を見せるアスカ。
両者の姿を目にすると、どうにも、心が痛い。
おそらくエレノアも同じ心境に至っているのだろう。
仮面に隠されているため、表情は判然としないが……
「し、仕方がないこととはいえ……心苦しい、です……」
本音がダダ漏れであった。
が、そんなエレノアに反して。
「どこまで、耐えられる、かな……♥」
サキュバスとしての本能によるものか。
セシリアは躊躇うことなく、ストレンジ・ビーストをコントロールして。
「じゃあ、まずは……その大きなおっぱいを、いじめてあげる、ね……♥」
その後。
魔法少女陵辱モノのお約束が、これでもかと実行された。
触手によって全身を攻められたアスカは、やがて纏装が解除され、元のブルマ姿へと戻り……
それ以降の展開については、あえて言及すまい。
「ふ~……♥ ふ~……♥」
触手による行為が、ひとしきり終わった後。
粘液塗れとなりながら、艶めいた吐息を漏らすアスカ。
その淫靡な姿に、次の瞬間、変化が見受けられた。
「ん、くっ……♥」
アスカの美貌が小さく歪むと同時に……
露出した下腹部に、刻印が浮かび上がってきた。
ハートマークを模したそれは、まさに淫紋と称すべきもの、だが。
果たしてそれがなんなのか、現段階においては判然としない。
おそらく、二人の目的はアスカにそれを刻み付けることだったのだと、そのように見受けられる。
そして、それが達成されてから、すぐ。
「――そこまでに、してもらおうかしら」
タイミングを見計らったように、纏装姫士の姿となったカエデが、天より降り来たり……
その手に握る日本刀型の燼器で、アスカを陵辱したストレンジ・ビーストを両断。
「ぅあっ……」
淫獣の消滅により、地面へと放り出されるアスカ。
その体が地面に着く頃には、カエデの手によって、何もかもが終わっていた。
その姿はまさに、紅き稲妻。
絶対的な超スピードで以て、彼女は俺とキリカを拘束していたストレンジ・ビーストを含む、全ての敵方を斬り捨て……
「教え子が受けた借り、しっかりと返してあげる」
燼器の切っ先を、セシリア達へ向けながら、
「アルヴァート、キリカ。あんた達はアスカを連れて撤退しなさい」
「っ……! は、はい……!」
悔恨を見せながらも、キリカは妥当な判断を下すに至った。
俺もまた、一つ首肯を返してから、倒れ込んでいるアスカへと近寄り、
「……すまない」
謝罪の言葉を口にしつつ、彼女の体を抱きかかえた。
「行こう、キリカ」
「う、うん」
カエデにこの場を任せる形で、俺とキリカは撤退し、学園へと向かう。
その道すがら、俺は現状に対して、思索を巡らせた。
……今回の一件で、いくつかわかったことがある。
まず一つ目。
現時点において、我が妻達は表面上、こちらと敵対関係にある。
だがそれは、あくまでも表面的なものであって、本質的には味方であろう。
彼女等はなんらかの理由でノワール・エンドに与している。
ここで問題になってくるのは、ノワール・エンドの正体と目的、だが。
やはり現段階においては、いずれも判然とはしない。
なぜ悪役を演じているのか。
なぜアスカに淫紋を刻んだのか。
何もかもが、謎のままである。
それに対して、明瞭となったことが一つ。
香坂カエデはやはり、この世界の規定シナリオにおいても、裏切り者として立ち回っているようだ。
乱入したタイミングからして、それは明らかであろう。
ただ原作とは違い、完全な敵対者というわけではない。
であれば……今は捨て置くのが得策、か。
と、そのように結論付けてからすぐ。
俺達は学園へと帰還し、その足で、保健室へと向かった。
教諭は不在。
ベッドを利用している者もおらず、室内は俺達だけの状態となっている。
そんな中。
「ふぅ……♥ ふぅ……♥」
なぜだか艶めいた吐息を漏らし続けているアスカ。
その体を、ベッドへ横たわらせた……次の瞬間。
「も、もう……ガマン、できへんっ……♥」
なにゆえかは、定かでないが。
とにもかくにも、アスカの行動は、完全なる不意打ちで。
だからこそ。
「えっ」
瞠目するキリカを、前にして――
――気付けば、俺はアスカと、唇を交わしていた。
~~~~あとがき~~~~
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