第九七話 再会と同時に生まれる、疑問


 ハイレグ水着を連想させる、極めて露出度の高い衣装。

 黒を基調色としたそれは、原作において、再世教会の女幹部・ラファエラの出で立ちと全く同じモノ、だが。


 フルフェイスの仮面からまろび出ている、髪の色からして……

 彼女はラファエラでは、ない。


 もしラファエラであったなら、髪色は紫である。

 それに対して、目前に立つ彼女の髪は、白銀色。


 そこに加え……

 大胆に露出した乳房のサイズと形が、俺の中では決め手となっていた。


 この世界へと至る前。

 飛行艇の中で展開され続けた淫靡な宴にて。

 思う存分に揉みしだき、挟み込み、貪りまくったそれと、目前にあるそれは、全く同一のモノだと、そのような確信がある。


 だからこそ、俺は出方を窺うことしか、出来なかった。


「「ベール=シフトッ!」」


 アスカとキリカ、両者が変身する。

 体操着から、纏装姫士としての姿へ。

 そして。


「轟天丸ッ!」


「ラヴィアータッ!」


 アスカが大剣を、キリカが巨砲を召喚し……

 戦闘が、本格的に開幕する。


「楽しませて、ね……?」


 聞き覚えのある声音が、仮面の向こうから放たれてから、すぐ。

 追加のストレンジ・ビーストが無数に顕現し、我々へと触手を伸ばしてきた。


「キリカッ! アルヴァートッ! 援護、頼んだでッ!」


「う、うんっ……!」


「……あぁ」


 迫り来る触手の群れへと、果敢に突っ込んでいくアスカ。


 そうして大剣を繰り出し、総身を絡め取らんとする触手に対応しつつ……

 一歩、また一歩と、ラファエラに扮した彼女……セシリアへと、近付いていく。


 俺とキリカは、それを手伝う形で、


「いっけぇッ!」


「ファイア・ボール」


 キリカが砲口から光弾を射出。

 その横で、俺は火球を放ち、アスカの進路を妨害するモノを片付けていく。


 ……やろうと思えば、決着へと至らせるのは容易いことだ。


 全てのストレンジ・ビーストを瞬時に消し去り、セシリアに事情を聞く。

 それ自体は実に、容易なこと、なのだが。


「……何か、考えがあるに違いない」


 キリカと共にアスカの援護を行いながら、俺は思索する。

 現状を前にして、導き出された結論は、二つ。


 一、ノワール・エンドに扮した何者かが、セシリアを洗脳して、手駒としている。

 二、セシリアが自ら望む形で、ノワール・エンドに協力している


 さて、どちらが正しいのか。


 それを推測するには、ノワール・エンドが何者であるのかという疑問に、仮説を立てるところから始める必要があるだろう。


 彼がこちらにとっての敵であるのなら、セシリアの現状は一、即ち洗脳状態ということになる。


 だが……俺は、そのようには思えなかった。


 なぜならば。


「今回のシナリオには、打ち倒すべき明確な敵が、既に存在している」


 これはまさにメタ読みというものだが。

 かの存在を差し置いて、別の敵方が配置されるといったシナリオ構造など、ありえないのではないかと思う。


 ただでさえややこしく込み入ったそれが、余計に複雑化するだけではないか。


 よって、ノワール・エンドは敵ではない可能性が高い。

 と、そのように仮定した場合、こちらが取るべき行動は、やはり。


「――轟斬撃ッッ!」


 アスカの声が、こちらの思考と、巨大な怪物とを、同時に切断する。

 消えゆくストレンジ・ビースト。

 その向こう側には、セシリアが立っていて。


「もしかして……ピン、チ?」


 小首を傾げる彼女へと、アスカが踏み込んだ、そのとき。


「さ、させませんっ!」


 再び。

 聞き覚えのある声が耳に入ると、同時に。

 紫電が虚空を駆け抜け、横合いから、アスカの総身を打つ。


「ぐっ……!」


 一瞬の動作停止。

 その隙にセシリアが後退し、距離を取りながら、ストレンジ・ビーストを召喚。


 このまま見過ごせば、アスカは危機に陥ることになるだろう。

 それは理解している。


 だが……俺はあえて、静観することにした。

 それゆえに。


「っ……! ア、アスカっ!」


 召喚されたストレンジ・ビーストの触手が、アスカを拘束する。

 それから。


「あ、あなたもっ! 捕まえちゃいますっ!」


 アスカに雷撃を浴びせた闖入者……

 これまたきわどい衣装を纏うエレノアが、ストレンジ・ビーストを召喚し、そして。


「きゃっ!?」


 精神的な動揺を突かれた形で、キリカが触手によって自由を奪われた、その直後。

 

「…………」


 ストレンジ・ビーストの触手が、我が身をも絡め取り、身動きが出来ないようにしてくる。


「ご、ごめんなさい、アルくん……!」


 マスクの奥から、小さな謝罪の声が漏れた。


 やはり彼女達は、自らの意思で、ノワール・エンドに与しているのだろう。

 重要なのは、その目的、だが。


 それを思索する、直前。


「時雨、アスカ。もし、抵抗したなら……二人が、酷いことになる、よ?」


「くっ……! ア、アルヴァート! ど、どうにか、出来へんのかっ!?」


 ……これは重大な選択であると、俺は直感的に理解した。


 きっと、セシリアとエレノアは、現状を作るために動いたのだろう。


 本心を言えば。

 すぐさまにアスカを救い出し、場を収めたいと、そのように考えている。


 だが。

 ここで正しい選択をしなければ。

 破壊者による強制エンドによって、誰もが凄惨な結末を迎えてしまう。


 だからこそ。

 俺は、本心ではなく。

 合理的な思考にもとづいた結論を、口にした。



「――すまない。どうやらこの怪物には、俺の力を無効化する力がある、らしい」






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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