第九五話 彼女達の戦闘技法


 ブルマ姿とはまた別のベクトルで、扇情的な姿となったアスカ。


 彼女の髪色と同様の、濃紺を基調としたそれは、纏装と称されしもの。


 ベール=シフトの掛け声と共にこれを纏うことにより、彼女等の戦闘能力は飛躍的に向上する。


 また、そこに加えて。


「――轟天丸ッ!」


 アスカの叫び声に呼応する形で、彼女の手元に巨大な剣が現れた。


 纏装姫士が有する主力武装、燼器である、


 これは各自一種を保有しており、そこに宿る力に応じて、彼女等は自らの戦術を決定しているのだ。


 今、アスカが握り締めるそれに宿っている力は、極めてシンプルなものだった。


 即ち――

 自身のパラメーター値に対する、強力なバフ効果。


 おそらくは今、この瞬間、彼女はそれを発動したのだろう。


 気付いた頃には、アスカの姿が目前に迫っていて。


「せやぁッ!」


 裂帛の気合と同時に、大剣の一撃が繰り出された。


 ……かつて、俺は目立つことを避けるべく、様々な考えを巡らせてきたわけだ、今はそういった思考が薄れている。


 なぜならば。

 目立つことによって生じるリスクを、ある程度は受け入れているからだ。


 多くの妻を得たことにより、気が大きくなった結果、かもしれない。


 まぁ、いずれにせよ。

 かつての自分であれば手を抜いて、弱者を演じる場面であるが。

 しかし。


「っ……!? ウ、ウチの一撃を、片手で……!?」


 自らの力量を誇示するつもりは毛頭ない。

 だが、あえて手を抜くようなつもりも、ない。


 ゆえにこそ。

 俺はアスカが繰り出した大剣を、右手の甲で易々と受け止めつつ……


「ファイア・ボール」


 左手を彼女の腹部へ向けて、火球をゼロ距離発射。


 おそらくは精神的な動揺が原因であろう。

 アスカはこちらの一撃をまともに浴びることとなり……


 火球の爆裂と同時に、彼女の総身が吹っ飛んだ。


「くッ……!」


 小さな苦悶を零しつつ、着地するアスカ。

 その身には傷一つ付いてはいなかったが……全身を覆う纏装が一部、消失している。


 纏装はダメージに応じて順々に消滅していき、最終的には変身が解除されるといった仕組みだ。


 現時点において、アスカの損傷具合は、およそ四割といったところか。


「……思った以上に、ごっついなぁ」


 窮地に立ってなお、嬉しそうに笑う。

 そんなアスカは再び地面を蹴って。


「ぜぇあッ!」


 真正面からの一撃……というのは、フェイントであった。


 反応したこちらに対し、ほくそ笑みながら、アスカは大剣を引いて、サイドステップ。


 そうして、俺の視界から消えた直後。


「らぁッ!」


 本命の一撃を繰り出してくる。

 が……

 問題など、何一つとして、ありはしなかった。


「なっ……!?」


 目を見開くアスカ。


 彼女からしてみれば、この一撃はある程度のダメージをこちらに刻むものと想定していたのだろうが……


 直撃を浴びてなお。

 我が身は、小揺るぎもせず。

 皮膚の一枚すら、斬られてはいなかった。


「悪いが……君と俺とでは、自力が違い過ぎる」


 それは先ほどの一合にて、十全に理解出来た。

 ゆえにこそ、あえてフェイント後の攻撃を避けなかったのだ。


「手を抜くつもりはない。だが……全力を出したなら、それはもはや訓練の域を超えてしまうだろう」


 この言葉に対して、アスカは。


「……やっぱアンタ、最っ高にごっついわ」


 どうやら、自らの敗北を認めたらしい。

 燼器と纏装を消滅させ、元のブルマ姿へと戻るアスカ。


 ――その瞬間。



『時雨アスカのレベルが上昇しました』


『各パラメーターが向上』


『新たなアクティブ・スキルを獲得しました』






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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