第九三話 両手に華
PK(プリンセス・ナイト)アカデミー。
それは最初の纏装姫士である香坂カエデと、政府高官の手によって創設された教育機関であると同時に、再世教会の打倒を目的とする特務組織としての一面も有している。
平時においては姫士の育成に尽力し、有事においては彼女等を出撃させることによって、対処を行う。
表面だけを見れば、そこにはなんの違和感もありはしない。
だが……
この学園には、裏の顔というものがある。
それを端的に言い表すとするなら。
再世教会による、エネルギー製造工場といったところか。
香坂カエデと政府高官によって設立された特殊な学園。
原作の中盤にて、そんな情報は虚構であったことが明らかとなる。
PKアカデミーの実態は、再世教会の首領たるノワール・エンド、即ち神崎響真によって設立されたものであり……
そして。
纏装姫士という概念もまた、彼の手によって生み出された存在であった。
姫士は成長と共に特殊なエネルギーを蓄積する。
それを収穫し、一定量を集めることによって……
神崎響真は、邪神の復活を目論んでいたのだ。
……さりとて。
それはあくまでも、原作における真実でしかない。
この世界は既に原作から大きく外れた状態にある。
何せ、ノワール・エンドの正体が、神崎響真ではないのだから。
ゆえにこの学園の実態もまた、全く別の何かへと変わっている可能性が高い。
果たしてそれは、どういったものなのか。
規定シナリオに、どのような形で繋がっているのか。
そして……
それは、我が最終目標である破壊者の打倒に、影響を及ぼすものなのか。
この世界での学園生活は、それを見極めることが主目的となろう。
と……そんなことを考えながら。
俺は今、キリカと共に校庭内を駆けていた。
「あんたのせいでっ! 遅刻寸前じゃないのっ! どうしてくれんのよ、もうっ!」
「……すまない」
一応、彼女の性格に合わせて謝罪したものの。
実際のところ、我々が時間に追われているのは、キリカが原因である。
手と口で処理してもらった後。
俺は幻覚催眠を自らの体に仕掛けて、無理やり、臨戦態勢を解除した。
そうでなければ、収まりがつかなかったのだ。
もし流れに任せていたのなら、遅刻どころか学園生活の初日をボイコットする形で……
キリカと共に、欲望を満たし合っていただろう。
それはさすがに自重せねばと、俺は自制心を働かせたわけだが。
しかし、キリカの方が止まってくれなかった。
どうやら彼女は色事になると人格が豹変するらしい。
そんなキリカを説得するのに手間取ったため、今、俺達は必死に校庭内を駆けているというわけだ。
「はぁ……はぁ……ま、間に合った、わね……」
遅刻ギリギリというタイミングで、俺達は教室の中へと滑り込んだ。
その瞬間。
こちらへと、生徒達の視線が一斉に集中し、
「アレが、噂の……」
「華宮さんと一緒に登校してきたけど、どんな関係なのかしら……」
「同室って話だけど、もしかして……」
姦しい声が飛び交う中。
同級生の一人にして、見知った顔となった彼女が、こちらに言葉を投げてきた。
「ウチを追い出した後、仲良うヤっとったんやなぁ、アンタ等」
時雨アスカ。
その大人びた美貌には笑みが浮かんでいたのだが……目は、笑ってなかった。
「べ、べべべ、別に! な、なにも、してないしっ!」
「ふぅ~ん? せやったら……アンタの口元に付いとる毛は、いったいなんやろなぁ?」
「~~~~~~っ!?」
慌てた様子で口元を抑えるキリカ。
だが、そこには毛など付いてはいなかった。
「……なるほどなるほど。口でシたんは、間違いない、と」
「な、ななな、なに言ってんのよっ!? ほ、ほんとに、何もしてないからっ! 勘違いしないでちょうだいっ!」
小麦色の肌を赤らませながら、必死に否定するキリカ。
そんな彼女を無視しながら、アスカはこちらへとやって来て。
「……どこまヤったん?」
「……手と口で、処理してもらっただけだ」
耳元で囁かれた問いに、そう答えると、彼女は満足げに頷いて。
「せやったらええわ」
と、そのように述べてから。
「……ウチは胸でシたるから、楽しみにしといてや♥」
宣言すると同時に、自席へと戻っていく。
そんなアスカの背中を見つめていると、
「べ、別に、キョーミないけどっ! あ、あんた……おっきい胸の方が、好き、なの?」
「いいや。大小など、どうでもいい。大事なのは、相手が何者であるか、だ」
「そ、そっか。じゃあ別に……小さくても、いいって、こと?」
「あぁ。好ましい相手であれば、身体的な特徴など、興味がない」
「ふ、ふぅ~ん。そ、そうなんだ」
どうでもよさげな反応、だが。
キリカの頬は確実に、緩んでいた。
そんな彼女に愛らしさを感じていると……
担任であるカエデが、教室へと入ってきて。
「さっさと席に着きなさい」
当学園は自由席の形式を取っているため、どこに座るかは各自の任意となる。
ゆえに俺は、適当な場所へと腰を下ろしたわけだが。
「ひ、一人じゃ、浮くだろうから! あ、あたしが隣に座ってあげる!」
右隣に、キリカが着席した後。
「ほんなら、ウチは左に行こかな」
別の席に着いていたアスカが、こちらの左側に着席し……
その豊かな乳房を、腕に押し当ててくる。
「むむむむ……!」
対抗意識を燃やすような形で、キリカもこちらにくっ付いてきた、が……
悲しいかな、そこにはなんの重量感もありはしなかった。
「あんた、いま、すっごく失礼なこと、考えたわよね?」
「……いいや?」
「間が空いたってことは! 図星だったんでしょ! ねぇ!」
ガクガクとこちらの体を揺さぶるキリカ。
「ひがんでもしょうがないで~? 持ち味を活かした方がえぇんとちゃうん?」
むにゅりむにゅりと、腕に乳房を擦り付けてくるアスカ。
「はぁぁぁぁ……あんた達、静かにしないとコロスわよ?」
少々、キレ気味に脅してくるカエデ。
「も、もう二人を、落としてる……!?」
「わ、わたし達も、いつかは……!」
「で、でも……彼なら、いい、かも……」
様々な反応を見せるモブ姫士達。
かくして。
俺は当学園における、初めての授業課程を、迎えるのだった――
~~~~あとがき~~~~
ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!
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