第九〇話 これは選択肢の一つか、あるいは
これは、極めて飛躍した発想ではあるのだが。
もし、今回の一件にて救済すべき世界が、ゲーム空間そのものだとしたなら?
管理者が言うように、VRゲームのそれだとしたなら?
ともすれば。
ログアウトという概念が、存在しているのではないか。
……我ながら、突拍子のない考えだと、そのように理解してはいる。
だが、どうにも気になったがために。
ログアウトという単語から連想される行為を試した結果――
「――なるほど。今回の一件は、思った以上に奥が深いらしい」
目前の光景に対して、俺は眉間に皺を寄せながら呟いた。
命を失えば管理者の空間に飛ぶ。
それがこちらにとっての常識であるため、今回もそのようなオチが付くのではと、そんなふうに予想していたのだが……
実際は。
一笑に伏せるべきその発想が、正解だったらしい。
「意図的に命を絶つと……元の世界に、戻るのか」
現在地は、飛行艇の甲板である。
我々を乗せたそれは、眼下の樹海を覆うような黒い穴のすぐ真上で停止した状態となっており……
「まるで、時間が止まっているかのようだな」
呟きつつ、周囲を見回す。
俺以外には、誰も居ない。
「……他の乗客は、どうなってる?」
確認すべく、飛行艇の内部へ移動。
すると。
「……どうやら、あちらの世界へ飛ばされたのは、俺達だけだったようだな」
床に倒れ込む、大勢の客達。
その中でも手近な者に近付き、状態を検める。
「脈はある。呼吸もしている。……ただ失神しているだけ、か」
時間が経てば、皆、目を覚ますだろう。
そうしたならきっと、この飛行艇は目的通りの動きをし始めるに違いない。
さて。
ここに至り、我が脳内に一つの選択肢が生じた。
「あちらの世界で命を絶てば、こちら側に戻る。であれば」
皆を探し出したなら。
その時点で、今回の一件を終わらせることが、出来るのではないか。
皆でこちらの世界へと戻ってしまえば、結果として、我々は日常へと回帰するだろう。
だが、それを選んだ場合。
「……あちらの世界は消滅し、管理者はいずれ、破壊者へと変貌する、か」
そのようなことを許容するつもりはない。
だが……
いずれ、許容しなくてはならないほど、追い詰められたとしたなら。
「……元の世界で、残された時間を皆と共に過ごしたい。そんなふうに考えるだろうな」
であれば。
あちらから、こちらへと帰還する、そんな方法が用意されているのは。
俺に対する、一種の救済案であろうか。
もしくは。
他に何か、使い道があるということだろうか。
「……現段階においては、何もわからないな」
一つ溜息を吐いてから、俺は甲板へと移動し、そして。
躊躇うことなく、巨大な黒穴へと身を投じた。
――次の瞬間。
まるでゲームの世界へとログインしたかのように。
目に映る光景と、体の状態が、大きく変化する。
学生寮の一室にて。
俺は、ベッドに座り込んでいた。
それは命を絶つ直前の状況と、まったく同じもので。
「……いよいよもって、ゲームじみたものに感じるな、今回の一件は」
そう呟いてから、すぐ。
ガチャリと音が鳴り、ドアノブが動作する。
おそらくは、同居人が帰ってきたのだろう。
果たして、今後しばらく、居住空間を共にする相手とは。
「――最初に言っておくわ! あたしに指一本でも触たら、消し炭になると思いなさい! いいわねっ!?」
顔を合わせて早々、こんな言葉を叩き付けてきた、美しい少女。
その名は、華宮キリカ。
様々な意味で、時雨アスカとは対照的な――
纏装姫士リベリオンライフにおける、もう一人の主人公である。
~~~~あとがき~~~~
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