第八七話 今回の敵は――
衝撃的な言葉を紡いでから、すぐ。
管理者は滔々と語り続けた。
「君の時間軸において、およそ七年前のことだ。最初の転生者が、発生したのは」
話題が逸れたように感じるが……とりあえず、耳を傾けよう。
「以降、世界に次々と転生者が発生し、その結果として、全体のシナリオが大きく狂い始めた」
管理者は言う。
クランク・アップ作品は総じて、一つの世界を舞台にしているのだと。
各作品は時系列が違うというだけで、世界そのものは共有しているのだと。
そして。
「世界には規定のシナリオが存在し、そこから大きく外れることはありえない。全ての人物は課せられた設定通りに動くのだから、当たり前の話ではあるのだけど、ね」
だが、と前置いてから。
管理者はこちらをジッと見据えつつ、次の言葉を紡いだ。
「君を含め、転生者というのは総じて、設定という概念から解放されている。よって規定のシナリオ通りに動くとは限らない。だからこそ、常に修正力が働き、各自に与えられたシナリオを適切な形へと導く……わけだけど」
ほんの少しだけ、管理者は顔を顰めさせながら、
「修正力の働きによって、どのような紆余曲折を辿ろうとも、最終的には規定シナリオへと収束するようになっている。……ほんの少し脱線するけれど、必要なことなので、規定シナリオの基本構成を話しておこう」
管理者曰く、件のシナリオは主に、三つの構成で成立しているという。
一つは、創世期。
この時期においては、四つの作品が存在している。
もう一つは、終末期。
クランク・アップ作品のおおよそはここに属しており、アルヴァートが登場する復讐の仮面鬼と高貴なるスレイブも、この終末期の時代を舞台としている。
そして最後に……再世期。
俺の記憶が正しければ、ここに属する作品は、纏装姫士リベリオンライフを含め三作。
これらが、世界に規定されたシナリオの構成であり、正しい時間の流れなのだと、管理者はそのように語ってから、
「三つの構成。三つの時代。それらはいくつかの大きな要素によって繋がっている。もしそれらが一つでも欠けてしまったなら、時代を進めることが出来なくなり……世界に定められたシナリオが崩壊する」
どうにも、耳の痛い言葉だった。
終末期と再世期を繋ぐ役割を果たした要素は、間違いなく邪神であろう。
あれを消し去ったことによって現状が発生したというのは、言い逃れようのない真実である。
と、少しばかりの罪悪感を覚えてから、すぐ。
「世界の規定シナリオが崩れたとき、どのようなことが起きるのか。それは私ですら予想出来なかった。そうだからこそ……君を止めなかったんだよ」
管理者は言う。
邪神を消滅させないように介入することは、実のところ可能だったのだと。
しかしながら。
「結局、私は自分の好奇心に負けてしまった。だから、現状を君達のせいだと言うつもりはない。むしろ、責任の全ては私にある」
そう述べた後。
管理者はいよいよ、本題へと突入した。
「世界のシナリオが崩壊した結果……再世期に属する三作品について、私に裁量権が生じた。即ち、矛盾をなんらかの形で修正し、存続させるのか。あるいは世界とシナリオ、そして人物達を消し去ってしまうのか。私が選んだのは……前者だった」
管理者は言う。
自分は世界を愛しているのだと。
その世界に付与された設定とシナリオを、愛しているのだと。
そして、さらには。
「世界とシナリオを構築する人物達に対してもまた、私は心の底から愛情を抱いている。だからこそ、世界の消滅など認可出来るものではなかった。……しかし」
「君にとって、予想だにしない事態が発生した、と。それも……君自身の肉体に」
こちらの言葉に、彼、あるいは彼女は小さく頷いて、
「理屈はわからない。私自身、自らの変異に当惑している。ただ一つ、間違いないのは……私の半身は今、別の人格に支配されつつあるということだ。そう、君がつい先日まで、オリジナルのアルヴァートに悩まされていたように、ね」
ずいぶんと奇妙な偶然だが、それはさておき。
「自分を消し去ってくれというのは、そういう意味の言葉だったのか」
「うん。私にして、私ではない、もう一人の私。これを早急に消去したい。さもなくば私は別人格に飲み込まれ……その後、どのような事態が発生するか、まるでわからない」
かの別人格は、管理者にとって想定外のバグであるという。
そしてバグというのはおよそ、大きなエラーを起こすもので、それゆえに。
「通常、私は設定に縛られているがために、世界に対する自由な裁量権は持ち合わせていない。しかしながら、私、の、別人、格、は」
突如、管理者が頭を抱え始め、そして。
純白の髪と装束が一部、闇色に染まった、次の瞬間。
「――そのとぉおおおおおおおおりッ!」
中性的な美貌の、半分に。
おぞましい狂気を、宿しながら。
奴は。
管理者の別人格は。
破壊者は。
次の言葉を、宣言する。
「ワタシが主人格となった暁にはッ! あぁぁぁらゆる時間軸をッ! あぁぁぁぁらゆる世界をッ! オール・ゴアなッ! そしてぇぇぇぇぇ……オォォォォォル・スプラッタァアアアアアアアアなアァァァァトへとッ! 変えさせてもらいまぁあああああああああすッッ!」
~~~~あとがき~~~~
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