第八六話 デストロイ


 女性にも男性にも見える、中性的な美貌。

 どこか超然とした佇まい。


 我々の眼前に降臨した存在は、姿形こそ管理者そのもの、だが。


 しかして。

 俺の目には、彼、あるいは彼女が、管理者とは真逆の存在として映っていた。


 構成する要素のおおよそが白一色である管理者に対し、目前に立つそれは、黒一色。

 そうした表面的な印象、だけでなく……纏う雰囲気が、大きく異なっている。


 管理者は常に無機質で、粛然とした気構えを見せているが、しかし。

 この乱入者が放つそれは……


 極めて情熱的な、狂気。


「さぁぁぁて、まずはぁ……モブキャラでッ! 血の海を作りまぁああああああああああああああああああああすッッ!」


 宣言と同時に。

 仲間を殺されて、呆然となっていた二人のモブ姫士が。


「ぎゃっ」


「ぴぎっ」


 小さな悲鳴を上げ、その体を破裂させた、次の瞬間。


 周囲のビル群。

 その窓が勢いよく破れ、ガラス片が天を舞い――


 膨大な血飛沫が、雨のように降り注いでくる。


「っ……!」


 おぞましい光景を目にしたことで、場に立つ全員が息を呑む。


 その直後。

 遠方にて、赤い柱が、無数に立ち上った。


 それは……膨大な人々の、成れ果て。

 血液と臓物と骨片の塊になった彼等が集積したことによって、巨大な噴水が系背されたのだと、そのように察した瞬間。


「フゥウウウウウウウウウウッ! ゴアゴアゴアァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! イッツ、ビュウウウウウティフォオオオオオオオオオオオッ!」


 黒い管理者が、狂気を叫ぶ。


 ここに至りようやっと。

 俺達は、自分がすべきことを理解した。


 眼前に立つ存在の詳細はわからない。

 だが……


 今すぐに、消し去らねばならぬものだと。

 それだけの理解があれば。

 後はもう、動くだけだった。


「ッ……!」


 俺とアスカ、そしてカエデ。

 三人が一斉に、成すべきことを成すために、動作する。

 が――


「無ぅうううう理デェエエエエエエエエスッ! デストロイは確定したのでッ! キサマ等はワタシに逆らえませぇえええええええええええええんッ!」


 ピタリと、動作が止まる。


 大剣を振り上げたアスカ。

 変身しようとしたカエデ。

 魔法を発動せんとした俺。


 全員、意識を保ったまま、時間が停止したかのように。


「さぁぁぁぁぁてさてぇぇぇぇぇ……どうしたもんでしょうねぇぇぇぇぇ……」


 品定めをするように、停止したアスカとカエデへ視線をやる、黒い管理者。

 それからすぐ、奴は一つ頷いて。


「よしッ! 椅子を作りましょうッ!」


 そう宣言した後。

 奴が、行ったのは。


「う、ぎ」


「ぁ、が」


 解体。


 生きたまま、二人をバラバラにして。


 それらを、繋ぎ合わせ……


「フゥオオオオオオオオオウッ! 我ながらクールなアートですねぇ! キサマもそう思うでしょう!? アァァァァルヴァァァァァァァトくぅぅぅぅん!?」


 おぞましい。

 吐き気が、込み上げてくる。


 解体された二人の姿が。

 苦悶に満ちた、その顔が。

 脳裏に焼き付いて、離れない。


 だからこそ。

 眼前の何者かを、早急に消し去りたいという衝動が、湧き上がってくるのだが……


 しかし。

 動くことが、叶わなかった。


「残念ながらぁぁぁぁぁ、ワタシはキサマに対して、手出しができませぇぇぇぇぇん。逆に、貴様もワタシには手出しが出来ないんですねぇぇぇぇぇ。だからぁぁぁぁ…………心を折らせてもらうよ、アルヴァート」


 最後の瞬間だけ。

 奴が、管理者になったように見えた。


 と――

 そんなふうに感じてから、すぐ。


 遠方にて噴き上がっていた血柱が下がっていき……

 代わりに、赤黒い液体が、まるで津波のように迫ってきた。


 俺は身動きが取れぬまま、あえなくそれに飲み込まれ、そして。



 意識が暗転すると同時に。

 視界に映るそれが、死後の世界へと変化した。



 周囲全体に広がる液晶画面。

 その只中に立つ白き存在……管理者に対して、俺は問い尋ねた。


「なんだ、アレは」


 努めて冷静に対話しようと、心がけてはいるのだが。

 しかし、今し方経験した惨劇のおぞましさは、こちらの許容レベルを大きく超過していたがために……

 繰り出した声の音色は、実に刺々しいものだった。

 そんなこちらの態度に対して、管理者は次の言葉を送ってくる。


「纏装姫士リベリオンライフ。その作品世界を維持して欲しいと、そう頼んだけれど……具体的な方法については、伝えられていなかった。そこに対する情報が今、提供可能となったので……まずは、端的に言わせてもらおう」


 そう、前置いてから。

 管理者は、いつものように淡々と。

 しかし、どこか決然とした語調で。

 衝撃的な一言を、口にする。



「――――






 ~~~~あとがき~~~~


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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