第八五話 破壊の神
ノワール・エンドが撤退したことにより、戦闘状況は終了ということになった。
しかしながら。
これにて一件落着、というわけではない。
この場の決着を見せるのは、次の段階を終えた後となろう。
即ち……事情説明である。
「あなた、何者……?」
「姫士じゃないのに、どうして力が使えるの?」
「か、彼女いますか?」
……とりあえず、最後の質問は聞かなかったことにするとして。
モブ姫士の面々に、俺は次の言葉を投げた。
「俺はアルヴァート・ゼスフィリアという。信じがたいかもしれないが……異世界からの来訪者だ」
下手に隠したところで、なんの益体もない。
自らの素性をそのまま口にした方が、むしろ得心するというものだろう。
実際、モブの面々は疑念を見せつつも、
「異世界からの、来訪者……」
「すごく荒唐無稽、だけど……そうでもなきゃ、力が使えるわけないし」
「納得するしか、ないよね」
どうやら受け入れてくれたらしい。
それは彼女達だけでなく、アスカにしても同じだったようで、
「ほえ~。異世界人との遭遇とか、宇宙人に出くわすレベルでレアな経験やなぁ」
そう述べてからすぐ、彼女は次の問いを投げてきた。
「で……アンタ、これからどないすんの?」
この質問に答える、直前。
背後から、第三者の声が飛んで来た。
「事情の説明を、してもらおうかしら」
大人の色気を感じる、そんな美声。
これを受けて、背後を向く、と――
そこには一人の美女が立っていた。
ポニーテール状に纏められた真紅の毛髪。
艶やかな美貌。
ピッチリとした黒スーツに覆われた、高身長かつ扇情的な肉体。
そんな彼女の名は――
「カ、カエデちゃんが、どうして現場に?」
「香坂先生と呼びなさい、このお馬鹿」
香坂カエデ。
纏装姫士達が通う特殊な学園に属する教師であり……
原初にして最強の纏装姫士という、そんな設定を背負う存在。
だが、彼女はそれだけのキャラクターではなかった。
原作における香坂カエデは、中盤にて退場する師匠ポジションのキャラ……
と見せかけた、どんでん返し要員である。
アスカともう一人の主人公は、作中において幾人もの女幹部と戦うわけだが、中でも取り分け手強い者が居た。
それが実は香坂カエデだったのだと、作中終盤にて判明する。
彼女はなにゆえ、教師として学園に潜んでいたのか。
そもそも始まりの纏装姫士が、なぜ敵方に付いているのか。
そうした要素は原作において、実に重大な内容……だったわけだが。
ノワール・エンドの正体が神崎響真ではないということを考えると、そもそも、それらの設定が成立していないことに……
いや、これ以上はよそう。
謎に対して考察を深めようとしても、新たな謎が生まれるだけだ。
しばらくは何も考えず、場当たり的に状況を解決し、情報を集めていくというのが、もっとも合理的な選択ではなかろうか。
そのように考えつつ、俺はカエデに対して口を開き、
「こちらの事情は――」
要求された通り、自らの背景を説明する。
さりとて、真実の全てを口にしたわけではない。
相手方が納得しやすいよう、虚実を混ぜ込む形での事情説明。
それを受けて、カエデは腕を組みながら、
「……異世界から、こっちに転移した理由は?」
「不明だ。こちらとしてもあまりに唐突な出来事で、正直なところ戸惑っている」
「……どうにも嘘くさいけど、それを否定する材料もない、か」
嫌疑の情を向けながらも、カエデは一応の納得を見せ、
「アルヴァート、だったかしら? 貴方、学園に入学なさいな」
この言葉に対して、次の瞬間、アスカが目を煌めかせた。
「ええな、それ! アルヴァートが来てくれたら、学園生活にハリが出るわ!」
こちらの肩をバシバシ叩いてくる彼女に苦笑しつつ……俺は、思索する。
カエデの言葉は確実に、監視を目的としたものだろう。
何もかもが不明瞭な存在を野放しにするのは危険。そうかといって、ただちに処分するというわけにもいかず、ゆえにこそ、手元に置いて様子を見よう、と。
そんな腹積もりとみて、間違いない。
彼女との関係性を悪化させたくないのなら、大人しく要求を聞くべきところ、だが。
しかし。
「……先刻述べた通り、俺は仲間と共にこの世界へ転移した形となっている。よって彼女達と合流し、無事を確認するというのが最優先事項となる」
監視されることについては問題ない。
ただ、この場で即決することは出来ない、と。
そんな意味を込めて、返答を投げた――次の瞬間。
「ッ……!?」
唐突に。
脈絡もなく。
天蓋が、鮮血の如き紅へと染まる。
「なんだ、これは……?」
完全なる想定外。
完全なる不意打ち。
どうやらそれは、カエデやアスカ達にしても、同様だったらしい。
彼女等もまた緊張と怪訝を美貌に宿しつつ、警戒心を露わにしている。
そんな中。
「ん……? あれは……」
血色に染まった空の只中に、黒点が顕現する。
それはやがて人型を成し、そして。
まるで流星の如く、こちらへと飛び来たり――
「ぎゃっ」
モブ姫士の一人が、体当たりを食らった結果。
バラバラになって、四散する。
「ッ……!」
俺を含む全員が、臨戦態勢となりながら、来訪者を睨む。
果たしてその姿は。
黒一色に統一された装束を身に纏う――
黒髪となった管理者、その人であった。
そして。
彼、あるいは彼女は、次の瞬間。
口端を吊り上げながら、叫んだ。
「ホ~ホッホッホ! 皆さぁぁぁぁん! デストロイのお時間ですよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
~~~~あとがき~~~~
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