第八四話 ラスボスとの第一戦目
纏装姫士リベリオンライフの基礎設定は、おおよそ、魔法少女モノのテンプレートに則っている。
中でも取り分け、悪役達の設定内容は非常にわかりやすい。
人類に牙を剥く恐ろしい怪物達。
それを創り出し、なんらかの悪事を企む秘密結社。
そんな組織を束ねる首領と、複数の女幹部。
原作のシナリオにおいて強くフォーカスされていたのは、やはり彼等の目的であろう。
なぜ襲う対象を女性に限定しているのか。
その果てに何を目指しているのか。
原作においては様々なミスリードで以て、プレイヤーを翻弄し続けたわけだが……
結論としては。
邪神・ヴェヌカ=ウルヌスの復活。
それこそが、悪の秘密結社、再世教会の目的であった。
件の邪神は当時の世界を滅ぼしたわけだが……
実のところ、その顛末は別作品にて、詳らかとなっている。
該当作品において、邪神はラスボスとなっており、最終的には主人公達の手によって再封印がなされた。
その後、長き年月を経て――
後にノワール・エンドを名乗ることとなる男、神崎響真が邪神を発見したことにより、本作の全てが開幕へ至る、と。
それこそが真実、なのだが。
かの邪神は、俺達が消し去っている。
ゆえにリベリオンライフの世界が存在すること自体が、そもそもありえない。
そうした矛盾がなんらかの形で解消されているがために、いま俺が立っているこの世界が存在しているのだと、そう考えるべきだろう。
よって現在。
こちらが知り得ている情報の大半は、無意味なものとして捉えた方がよい、と、そのように結論付けながら……
俺はまず、アスカ達へ声をかけた。
「回復を待つか、あるいは撤退。君達が取るべき選択は、二つのうち一つだ。どちらを選ぶにせよ……この場は、俺に任せてもらいたい」
果たして、返ってきたのは、
「な、何者……?」
「姫士じゃ、ないよね?」
「なのに、どうして、あんな力が……」
疑念や困惑。
三人の少女達は、そのようなリアクションであったが、しかし。
「ようわからんけど、アンタは味方ってことで、ええんやな?」
「あぁ。信用は出来ないだろうが、しかし今は――」
「いや。ウチはアンタを信じる。なんとなくやけど、悪い人には思えんし」
大人びた美貌に、人懐っこい笑みを浮かべるアスカ。
そんな彼女に一つ頷きを返した後。
俺はノワール・エンドと対峙して。
「君は……神崎響真か?」
この問いには、様々な意図と狙いがあった。
もし本物と思しき反応が返ってきた場合、邪神に代わる何かが、この世界に存在しているという証となろう。
逆に、ノワール・エンドが神崎響真ではなかった場合……
完全なるゼロの状態から、手探りで、世界の謎を追うことになる。
果たして、相手方のリアクションは。
「さぁ、どうだろうな」
この反応からして。
彼は、神崎響真では、ない。
もし本物だったなら、先刻の問いかけに動揺を見せているはずだ。
しかし、彼は微塵も揺らぐことはなく、
「闖入者よ。我が眼前に立つのであれば……容赦はせんぞ」
言うや否や、二体のストレンジ・ビーストを召喚する。
ノワール・エンドが有する力は、いわゆる召喚士のそれだ。
原作においては邪神との交信によって得られたもの、だが……
いま目の前に立つ男のそれは、全く別の所以によるものだろう。
「これが最後の警告だ。我が前から消え去るなら、見逃してやっても――」
「ファイア・ボール」
とりあえず。
ラスボスをこの段階で討ち取ったなら、どうなるのか。
それを試すべく――
俺は虚空に顕現させた膨大な火球を、相手方へと一斉に叩き込んだ。
「うわっ……!?」
「な、なに、アレ……!?」
「も、もう、ワケがわからない……」
こちらが見せた戦力に対し、吃驚と当惑の情を発露する、三人のモブ姫士。
一方で、アスカはといえば。
「うぉおおおおおおおっ! ゴッツい! マジでゴッツいなぁ、アンタ!」
目をキラキラさせながら、称賛の言葉を投げてくる。
彼女らしい反応だなと、俺は微笑しつつ……
攻撃の手を、止めた。
無数のファイア・ボールによる猛攻は、果たして敵方にどのような効果を見せたのか。
もくもくと立ちこめる煙のベールが晴れた、その瞬間。
俺は結果を目にしながら、ボソリと呟いた。
「……無傷、か」
召喚したストレンジ・ビーストの姿は消え失せている。
だが、ノワール・エンドの身には、なんのダメージもない。
「それなりに力を込めたつもりだったが……さて」
直撃したうえで無傷だった、というのはありえない。
我が異能、適応の力が働いたことで、相手方はその身を焼失させているはずだ。
であれば、考え得るパターンは二つ。
全ての攻撃を回避したか、あるいは異能が無力化されたのか。
いずれにせよ。
このラスボスは、一筋縄ではいかない相手だと、そのように判断すべきだな。
……と、こちらがそのように考えてから、すぐ。
「なるほど。あらゆる要素において、今はこちらの分が悪いと見える」
淡々と言葉を紡ぐ、ノワール・エンド。
そうしてから、彼は。
「――また会おう、少年」
身を翻し、そして。
猛烈な速度で、現場から離脱した。
追いすがることは不可能じゃないが……少々、リスクが高い、か。
右も左も分からぬ現状において、深追いをしたなら、想定外の痛手を受けるかもしれない。
そう判断したがために、俺は現場へと残り……
「「「…………」」」
疑念や当惑に満ちた、モブ姫士三人の視線と、
「いや~、助かったわ! ほんま、おおきにな!」
ニコニコと、明るい笑顔を向けてくるアスカ。
そんな四人の視線を一身に浴びながら、
「……こうした状況に独りで立つというのは、なかなかに不安なものだな」
皆のことを想い、そして。
深々と、嘆息するのだった――
~~~~あとがき~~~~
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