王国の闇を支配する最強最悪の貴族(陵辱系エロゲ主人公)に転生した俺、アブノーマルな展開は嫌いなので普通に穏やかな生活を……送ろうとしてたんだけど、気付いたら『ある意味』原作シナリオと同じ状態になってた
第七一話 最強を超えた、無敵すらも上回る、神よりもなお強き、“絶対者”
第七一話 最強を超えた、無敵すらも上回る、神よりもなお強き、“絶対者”
つい最近のことだ。
セシルとの雑談を楽しむ最中、俺は彼女に問い尋ねた。
今の君とリンスレット先生が戦ったなら、どちらが勝つのか……と。
現段階において、セシルはもはや無敵という概念すらも超えているように感じられる。
そんな彼女がリンスレットという存在を、どのように評するのか。
ともすれば。
それが此度の一件に対する打開策へ繋がるのではないかと、俺はそう考えたのだ。
結果として。
セシルは次の答えを返してきた。
「そうだなぁ…………多分だけど、先生が勝つと思う」
熟考の末に紡ぎ出された返答は、こちらにとっての想定外だった。
客観的な事実に基づいて考えたなら、そのような結論に辿り着くはずがない。
セシルは無制限のコピーという、反則中の反則としかいいようがない異能を有しており、その身に宿る手札は量も質も絶大である。
対して。
リンスレットには異能など宿ってはおらず、扱えるのは規格外な魔法の技術のみ。
セシルからしてみれば、そんな技量すらもコピー可能であるため……
やはりどのように考えても、リンスレットが勝利するという結論には至らない。
と、そのような理屈をセシルに話したところ、
「うん。確かに君の言う通りだよ。ただ……それでもね、ボクは彼女と事を構えたくないと、未だにそう思ってるんだ」
セシルはその理由について、次のように述べた。
「魔法っていうのはさ、使い手の精神状態によって性能が上下動するんだよね。ただまぁ、その変動幅は基本的に多少の違いでしかないから、おおよその場合、無視されちゃう要素なんだけど……リンスレット先生はね、そこが普通じゃなさすぎるんだよ」
セシルは語る。
自分がコピー出来る相手方の技量とは、フラットな状態に限るのだと。
それはつまり、精神的な上下動を含む変動幅については、コピーが出来ないということになる。
「さっきも言ったけどね、おおよその相手であれば、そこを問題視する必要はない。でも彼女が相手となると、そうもいかないんだよ。何せリンスレット先生は精神状態に応じて、魔法の性能が意味不明なぐらい上下動するから」
その不確定要素は軽視出来ないものだと、セシルはそのように断言して。
「表面的な基礎性能でいえば、そもそもの問題、学園に潜入した時点で、ボクの方がずっと上だったんだよ。それでも彼女と事を構えなかったのは……勝てるイメージがね、まったく湧いてこなかったんだ」
それは今なお変わらないと、そのように断言する彼女へ、俺は次の問いを投げた。
クラウスから奪った二つの力……
特に、強奪の異能を用いたなら、どうなるのか、と。
セシルはこの質問に対し、こう答えた。
「確かに有効策にはなりえるだろうね。実際、心を奪われたことで、彼女は危機に陥っていた。でも……多分、だけどさ。仮に当時、ボクがなんらかの理由で介入出来なかったとしても……リンスレット先生が、なんとかしてたと思うんだよね」
それはどうにも、理屈に合わない。
強奪で心を奪われた彼女に、果たしてそんなことが出来たのだろうか。
そもそも……魔法の力を奪われたなら、いかに彼女とて、無力になってしまうのでは、と。
そんなふうに述べたところ。
「いやぁ、それが、さ。……過去に彼女は、似たような状況をアッサリと、打ち破ってるんだよねぇ」
セシルは困ったように笑いながら。
次の言葉を、紡ぎ出した。
「王国の暗部には、ボクみたいな奴がたくさん居るんだよ。生い立ちだけでなく……能力的な意味でも、ね。けど彼女はそのことごとくを叩きのめしてみせた」
王国に喧嘩を売って勝利するというのは、即ち。
表も裏も関係なく、全ての強者を蹴散らしたということ。
その中には、実のところ。
「……今とは別の姿だった頃のボクもね、それはもう、ボッコボコにされたよ」
当時のことがよほどトラウマになっているのだろう。
顔には微笑が浮かんでこそいるが……その色味は、真っ青であった。
「まぁ、とにかくね。リンスレット先生については、道理とか理屈とか、そういうのを超越した存在だと思った方がいいよ。本当に、全く以て、デタラメな人だから」
当時のセシルが見せた、苦々しい笑みを、思い出しながら。
――今。
彼女が口にした内容が真実であったことを、俺は強く実感している。
現場へと姿を現した当代最強の魔導士。
それ自体が、ありえない。
「偽界魔法は、高度な状態で維持されたまま……となると……」
あまりにも信じがたいことだが。
彼女は偽界魔法の構築と維持を行いつつ、それと並行して、戦闘行動を実行出来るということになる。
それは例えて言うなら、フルマラソンで全力疾走しつつ、チェスを打つようなもの。
しかも、世界最高峰の水準で。
「……どういう理屈で、成り立っているんだ?」
呟いてすぐ、己が愚を悟った。
道理や理屈など、リンスレットには通じない。
それを証明するかのように。
遙か上空にて。
彼女は牙を剥くような笑みを浮かべたまま、
「神サマだっていうのなら……簡単には、壊れないわよねぇ?」
刹那。
リンスレットは眼下へと飛翔し、邪神の巨体へと突っ込んでいった。
それは比喩じゃない。
文字通り、彼女は自らの肉体を一発の弾丸として推進させ……
邪神の肩を突き破り、体内へと入り込んだ。
「ぐむぅっ……!」
小さな苦悶を放つ邪神。
その直後。
リンスレットが体内にて魔法を発動したのだろう。
邪神の巨体が大きく膨れ上がり……
次の瞬間、バラバラとなって飛散した。
されど。
そのような状態となってもなお。
散乱する肉体が瞬時に一カ所へと集い、結合と再生を経て、元通りとなる。
常人であれば絶望するような光景。
しかし、リンスレットはむしろ、楽しそうに笑って。
「あははははっ! いいわねぇ! ひっさびさに、爆アゲって感じだわ!」
そして。
一方的な展開が、開幕する。
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
叫声を放ちながら、リンスレットを抹消せんと、無数の光線を放つ邪神。
されど彼女は命中すれすれといった回避行動で以て、全てを躱しながら、
「おらぁッ!」
殴る。
そんな単純明快な行動で以て、次の瞬間、邪神の上半身が吹っ飛んだ。
しかして瞬時の再生。
これを目にしつつ、リンスレットはなおも笑みを深め、
「あははははははっ! すごいすごい! 全力でブン殴っても壊れないだなんて! あんた、最っ高の玩具だわ!」
彼女のボルテージが、上がっていく。
それに合わせて。
リンスレットの能力が、飛躍的な上昇を、見せ続けた。
もう、本当にわけがわからない。
彼女が発生させている現象の全てが、理解不能である。
単独で以て一方的に邪神を追い詰めているというだけでも、意味がわからないというのに。
「試しに食らってみようかしらッ!?」
対象を問答無用で消し去ってしまうはずの光線。
邪神が繰り出したそれを無防備の状態で浴びたにもかかわらず、
「ば、馬鹿なッ……!」
今のリンスレットには、傷一つ付けることが出来なかった。
そして彼女は秒刻みでボルテージを上げつつ、遊戯を楽しみ――
「あははははははははっ! あははっ! あははははっ! あははははははははははははははははははははははっ!」
笑って笑って笑いまくりながら。
邪神の体を、バラバラにする。
もはやその動作を目で追うことすら出来ない。
今や彼女は真紅の閃光となっていて、人体としての認識が不可能なほどの速度で動いていた。
『ふざっけんじゃねぇええええええええええええッッ!』
『なんッなんだよッ! こいつはぁああああああああああああああッッ!』
アルヴァートの絶叫に対して、俺は心の底から同情した。
こんな意味不明すぎる存在を敵にしたのなら、誰だって同じ台詞を放つだろう。
そんなことを思いながら、俺は隣に並ぶセシルへと言葉を投げる。
「……君の危機察知能力は、実に優れたものだったようだな」
「……うん、そうだね。過去の自分を褒めてやりたいよ、本当に」
もはや我々は、ただ指を咥えて見ているだけだった。
それぐらいに、リンスレットの戦闘能力は凄まじく……
「はいひとぉ~つ! ふたぁ~つ! みっつ! よっつ! いつつぅううううううう!」
七つの生命核を、単独で、瞬時に壊そうとしている。
それは決して不可能なはずの行為だが、しかし。
「や、やめろぉおおおおおおおおおおおおッッ!」
俺は確信した。
あぁ、これは出来てしまうのだな、と。
出来ることなら。
このまま、リンスレットの圧勝という形で、終わってほしかったのだが。
「む、娘がどうなってもッ! いいのかぁあああああああああああああッッ!」
もはや神と呼ぶには、あまりにもみっともない叫び。
だが、その内容は緊張を煽るに十分なもので。
「あぁ~ん!? 娘ぇ~!?」
手を止めながら、リンスレットが怪訝な顔をする。
対して、邪神は七割がた消し飛んだ肉体を再生させつつ、
「我とエレノア・サンクトゥムはッ! 依然として、接続された状態にあるッ!」
このような叫び声が轟いた後。
脳内に、アルヴァートの声が響いた。
『正直、危うい展開だったけどなぁぁぁ』
『こっちにも、秘策ってのがあるんだよッ!』
ついさっきまでリンスレットにビビり散らかしていたアルヴァートであったが、その声音に勝利の確信を取り戻しつつ、
『メスガキの精神をこっち側に呼び寄せてやるッ!』
『そうすりゃお前等は、もう手出しが――』
言葉を紡ぐ最中。
俺にとっては予定通りの、第三者が。
奴等にとっては想定外の、第三者が。
邪神の内側へと、転移したらしい。
『こ、こいつはッ……!?』
吃驚の声を上げたのは、アルヴァートだけではなかった。
セオドア・オーガス。
奴もまた、苦々しい声音で以て、言葉を紡ぐ。
『なんと、忌々しい……!』
果たして。
エレノアを守護すべく、邪神の精神世界へと潜り込んだのは――
『――事ここに至ってなお、邪魔立てするかッ! アルト・リステリアッッ!』
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