第三部第一話 もう半分以上エロゲだよね、これ
挙式以前の段階から、俺の学園生活には一部、変化したところがあった。
まずはセシリアの扱い。
彼女は元々、交換留学という形でここへ訪れたわけだが、それを維持した場合、いずれは共和国へ戻ることになる。
セシリアはそれをよしとしなかったため、国籍を王国側へと変更。
それから色々と手を尽くした結果、彼女は正式に、貴人学園の生徒として在籍することになった。
続いて。
学園寮における、自室の改装。
これまではルミエールとエリー、二人のルームメイトを抱えていたわけだが……
他の面々と婚約する以上、彼女達だけを同居人とするわけにはいかない。
ルミエール、エリーゼ、セシル、クラリス、セシリア、そしてエリー。
六人の妻と同居出来るよう自室の改築が実施されたことで、室内は随分と広くなった。
無論、ベッドについてもキングサイズを遙かに超えた代物が用意されており、俺達は毎夜、全員で床に就いている。
そして――
本日より加わった変化によって。
朝。
ある種の強烈な感覚が全身に走った瞬間、俺は目を覚ました。
「…………」
ベッドに横たわった状態で、首を左右へと動かす。
セシルとクラリス、そしてエリーゼ。
三人は眠ったまま。
エリーについては……
「ふ~っ……♥ ふ~っ……♥」
起床してはいるが、事前に定めたルール通り、見物に徹していたようだ。
その最中にどういった行為に及んでいたかは……あえて追及すまい。
さて。
四人の状態が明らかになったことで、必然、本日の勝者が判然とする。
ルミエールとセシリア。
二人の姿を思い浮かべつつ、俺は視線を自らの下部へと向けた。
シーツがこんもりと盛り上がっている。
そうした様相を確認した後、我が身に被せてあったそれをめくり――
「んくっ……♥ あ、おはようございますっ♥ 兄様っ♥」
「んむっ……♥ さすが、だね、アルヴァート……♥ 見込み以上の、量と、濃さ……♥」
我が目に飛び込んできたのは、彼女達の艶めいた姿であった。
両者共に寝間着が乱れまくっており、豊かな乳房が大胆に露出している。
シーツの内側に篭もった熱によるものか、二人の素肌にはじんわりと汗が浮かび……
金糸のようなルミエールの美髪。
闇を裂くように煌めくセシリアの美髪。
それぞれには、今…………いや、ここもあえて追及はすまい。
シーツの内側に篭もる熱と臭気が、全てを物語っている。
「んぅ……」
そのとき、セシルが緩やかに目を覚まし……
現状を把握すると同時に、溜息を吐いた。
「はぁ。今日は負けちゃったみたいだね」
彼女が口にしたのは、本日より始まったそれのルールに、関係した内容であった。
現在、ルミエールとセシリアはまるで、朝の奉仕を終えたような状態であるが……
これは、まるで、でななく、事実である。
朝、そういった行いに及んで良いのは、先着二名のみ。
それ以上は我慢してもらう……というのが、朝のルールとなっていた。
「……まだまだ元気いっぱいって感じだね? アルヴァート君」
我が身は成人向けノベルゲームの主人公である。
ゆえに男としての機能は全てにおいて、現実離れしたモノとなっているが……
しかし、そうかといって。
「……気が済むまで行ったなら、確実に遅刻してしまうよ、セシル君」
先着二名のルールは、それを理由としたものだった。
「……二人は、満足出来たのか?」
「はいっ♥ 身も心も満たされてますっ♥」
「朝の一番搾り……ごちそう、さま、アルヴァート……♥」
俺個人の感情で言えば、こういった行いは極力、慎むべきだと考えている。
下半身を制御することなく、思うがままに振る舞うような男は、実にみっともないものだ。
……しかしながら。
こちらの都合で妻となった彼女等の欲求を、抑圧するというのはいかがなものかと、俺はそのように考えた。
肉欲と愛情はまったくの別物であるが……
そういった行いをしなくなった夫婦の関係性は、ネガティブな方向に進みやすいということもまた、厳然たる事実。
肉体と精神はある程度、密接な関係にあるということだ。
前者を無碍にしたなら、彼女等の心がこちらから離れていき……
クラウスのような寝取られモノの悪役に、今度こそ全てを奪われるかもしれない。
そうしたリスクを排除すべく、俺は子作り以外の行為を全て、許可したのだった。
「むっ……! 本日はわたしの負け、か……!」
起き上がると同時に、ストレートな悔恨を見せるエリーゼ。
「わ、わたくしは別に、気にしてなどおりませんわ。淑女として、はしたない行いは慎むべきだと……そう、考えておりますので」
口に出した内容とは裏腹に、クラリスの視線はこちらの下腹部に集中している。
「くそう……! 皆だけ、ずるいではないか……!」
涙を湛えながら、唇を噛むエリー、だったが。
「し、しかし……! 寝取られているような、この感覚……! 悪くは、ない……!」
やはり彼女は生粋のドスケベであった。
「……さぁ、皆。朝の支度をしよう」
クラウスの一件を終えた後の、翌朝。
本日から俺の生活は、ある意味で激変することになるのだろう。
そんな予感を抱きつつ、ベッドから下りて……
「っ…………!?」
前触れなく、ズキリと頭が痛んだ。
「む? どうした、アルヴァート?」
「……いえ。朝特有の、頭の鈍痛が少々、悪化しただけです」
その程度の認識を維持したまま、俺は皆と共に支度を終えて。
いつものように登校し、普段通りに学園生活を送る。
そこに一点、変化があったとしたなら。
「セ、セシリアさん。その……昼あたりに、どうかな?」
サキュバスとしての本能に従い、行ってきたそれを、しかし、セシリアは、
「ごめん、ね? アルヴァートの味を、知っちゃったら……もう、他のじゃ、満足出来ないと思う、の」
「えっ……!?」
セシリアはこちらに抱きついて、自らの爆乳を上腕に押し付けながら、
「アルヴァートは……あなたの三倍ぐらい、すごい、よ?」
「~~~~ッッ!」
男としてのプライドをズタズタにされた彼が、涙目となってこちらを睨む。
……男子達の羨望と嫉妬、そして殺意。
これらは以前から注がれていたものだったが、今後はさらに強いものへと変わっていくだろう。
そこに面倒臭さを覚えつつも……改善するために、誰かを手放すといった考えはない。
皆と共に人生を歩み、全員を幸せにしてみせると、そのような意欲だけが胸中にはある。
……さて。
授業課程を終えた後、生徒会での活動を経て、寮の自室に帰る。
そうしてから食堂にて夕餉を摂り、大浴場での入浴を済ませ……
普段であれば、就寝ということになるのだが。
「ねぇ、アルヴァート」
薄手のネグリジェを纏ったセシリアが、ベッドに載りながら、次の言葉を口にした。
「交尾、しよ?」
いつか聞いた文言であるが、こちらの返答は、そのときも今も関係なく。
「ダメだ」
これ一択である。
「子を成すという行いにはあまりにも大きな責任が伴う。それを背負うにはまだ、我々の精神は未熟と言わざるをえない」
子育てというのは人生における重大事の一つである。
命を授かり、育むというのは、想像を絶するほどの苦労と責務を伴うものだ。
今や俺は彼女等への好意を自覚しているものの……
それでもなお、子供を求めるような心境にはなれない。
我が子が非行に走らぬよう、しっかりと教育するような自信など、微塵も――
「ねぇ、アルヴァート」
「……なにかな?」
「さっきの、言葉は、つまり……赤ちゃんが、出来なければ、交尾してもいいってこと、だよね……?」
「………………それは、まぁ、吝かではないと、いうか」
ここに至り、俺は自らの頭脳が二流であることを自覚した。
セシリアが妻となったことで、どのような未来が待ち受けているのか。
そんな、あまりにも簡単に想像出来るはずの内容が、今ようやっと、脳裏に浮かび上がってきた。
即ち――
「簡単、だよ? 赤ちゃん、出来なくするの」
本番行為に対する、忌避感の解決。
セシリアであれば、それをいとも容易く実現出来るのだ。
……俺が子を成す行為を禁じたのは、避妊が不可能であるという事情によるもの。
リングヴェイド王国には、そのための道具もなければ、魔法もない。
だからこそ、子を授かるような行いは絶対に避けるべきだと、そう考えていたのだが。
「ねぇ、アルヴァート」
こちらの昂ぶりを、見透かすかのように。
セシリアは、艶然と微笑みながら。
「種付けじゃ、なくて……ただ、気持ちいいだけの、交尾……しよ?」
言い終えた後、彼女は皆の顔を見回した。
「「「「「…………」」」」」
五人の妻達は一様に、頬を赤らめながら、こちらの判断を待っている。
その瞳には誰もが、強い期待感を宿していて。
吐息が秒を刻む毎に、艶めいていく。
……個人の欲求だけだったなら、あるいは抑えが利いたかもしれない。
だが、今。
美しい妻達の期待に、夫として応えるべきであるという、大義名分と。
忌避していた理由の排除とが、合わさった結果。
「……たとえ、どれほどの下手であったとしても……笑わないと、約束するなら」
折れた。
俺の自制心は、完全に、折れ潰れた。
――かくして。
こちらが受け答えると同時に。
「「「「「「…………♥」」」」」」
六人の妻達が。
心身共に、臨戦態勢へと、入るのだった――
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