第一七話 花嫁達がドエロい件について
クラウスが表面的な消失を見せた後、特別な問題などは発生することなく……
ゆえに、次のイベントへ至るまでの三日間は、まるで一瞬の出来事のようであった。
そんな日々を経て、現在。
王都の大聖堂、その準備室にて。
俺は、衣装替えを済ませた彼女達と、対面する。
「どうですか、兄様っ! ルミの花嫁姿は!」
真っ先にこちらへ声をかけてきたのは、妹のルミエールだった。
彼女のウエディング・ドレスは、髪色と同様の白金色を基調とした色味を持ち……
胸元が、思い切り、はだけている。
そうしたデザインであるがゆえに、ルミエールの小柄な体躯に不似合いな爆乳が今、強烈な毒となって、こちらの心を蝕んでいた。
「わ、わたしのドレス姿も、見てくれないか!」
エリーゼのそれは一見、なんの変哲もないデザインに感じられるが、しかし。
どうやらこのドレス、透け感の強い生地で出来ているらしく……
ゆえにうっすらと、彼女の素肌や扇情的な黒い下着が透けて見える。
表面は厳粛。しかし内面はピンク一色。
そんな彼女を表しているかのような衣装であった。
「わたくしは、ちょっと……冒険、してみたのですが……はしたない、かしら?」
クラリスが纏うそれは大胆なアレンジを加えたもので。
髪色と同じ薄い桃色を基調とした色合いの……
ドレスというよりかは、フリフリが付いたマイクロビキニといった装いであった。
「わたしの、も……すごい、でしょ……?」
セシリアに至っては、もはや紐である。
隠すべき部分がほとんど丸見えだ。
彼女はドレスという言葉を誤認しているのではなかろうか。
「ね、ねぇアルヴァート君。ボクの格好……変、かな?」
頬を赤らめながら、問い尋ねてきたセシル。
彼女は自らの性を偽る必要がなくなったため、今は花嫁としてこの場に参加している。
その身に纏うのは、完全完璧な、ウエディング・ドレス。
他の面々が改造ドレスだったりマイクロビキニだったり紐だったりと、異常極まりないため、セシルの装いがよっぽど清純なものに感じられる。
「ご主人様っ! わたしのドスケベ・ドレスは、いつでも種付けが出来るようにしてあるぞっ! ほら! こんなふうにっ!」
スカートをたくし上げて見せるエリー。
その身に纏うは、褐色肌に宿る扇情感を強く引き立たせる、純白の衣装……
だが、彼女に対してはあえて感想を投げ返すことなく、
『ミス・エリー。例のモノは?』
普段通りに、念話でこちらの思考を伝える。
と、エリーはたくし上げていたスカートを下ろしつつ、
「うむ。準備は万端だ。故障しているといったこともなかろう」
肯定の意を示した後、彼女はこちらを称賛した。
「それにしても。ご主人様の権謀術数には舌を巻くばかりだ。ここまで見事に先読みをされるとは」
『当方からしてみれば、大したことではありません。事前に想定しておいた数多のシナリオのうち、一つが引っ掛かったというだけのこと。特に、どうということでもない』
「ははっ! そういうところも実に素敵だな、ご主人様! ……いや、今日からは旦那様と呼ぶべきか?」
『……そこについては、ご随意に』
エリーとの会話が進む中。
クラリスがこちらへと一歩、近付いてきて。
「あ、あの、アルヴァート様」
「……なんでしょう?」
「えっと、その、ですね。まだ時間があるようですし……それを利用して、女王陛下の言いつけを遂行するというのも、一つの手かと」
そう述べてから。
クラリスは、先ほどエリーがしていたように。
足を大きく開いて、自らの股を強調してみせた。
「ご覧の通り、わたくしの衣装は……そ、そういうことが、しやすいものかと……」
小さく、そして淫らに、腰を振ってみせるクラリス。
そんな彼女に合わせて。
「兄様っ♥」
「わ、わたし達も……!」
「種付け交尾の、準備、は」
「出来てる、よ?」
……極めて、厄介なことに。
彼女等の誘惑は、クラウスの手によるものではない。
既に彼は全員の心を戻しており、それゆえに、現状は全てが真実である。
「ご主人様。わたしは後でもかまわんぞ。ただし……誰よりも濃厚なやつを、たっぷりと注いでくれよ……♥」
耳元で囁いてくるエリー。
……正直、かなり危ういところ、だったのだが。
なんとか、瀬戸際で踏み止まりながら。
「場を弁えた方がいい。ここは大聖堂。主のお膝元だ」
皆の誘惑を、ギリギリの状態で、耐えきった。
……いやはや、まったく。
彼女等への情を自覚した途端に、これか。
当初は全員を拒絶していたというのに。
今や、ウエディング・ドレスを纏う彼女等を、心の底から愛おしく感じている。
……我ながら、度し難い。
と、そんなふうに思いつつ、時を過ごし、
「新郎新婦の皆様、ご入場を御願いいたします」
呼び出しを受けて、我々は準備室を出た。
そして。
真紅のバージンロードを、皆と共に歩む。
そんな我々に対し、参席者一同は、拍手で以て祝福し……
我が父母に至っては。
「や、夜王様ッ……!」
「なんと、ご立派なお姿ッ……!」
もうこの時点で、ボロ泣きであった。
「フッ。娘を奪われたというのに、実に清々しい気分だ」
エリーゼの父、ガイアスがボソリと呟き、
「我が国もしばらくは安泰、ですわね」
女王・レミエルが微笑する。
そんな中、我々は祭壇へと到着し……
「誓約と、祝福の御言葉を、主より賜ります」
この国における婚約の儀式は、神職者に主を憑依させ、彼に祝言を貰い、最後に主と婚約者に対して誓約を行う、といった内容である。
ちなみに、主の憑依というのはあくまでもフリであって、真実ではない。
そんな神父の小芝居に対して、俺は。
「芝居に芝居を重ねるのは、少々、ナンセンスに感じられるな」
主の降臨。
その芝居を遮ったこちらへ、皆が当惑の情を向けてくる。
が、それらを無視して。
俺は神父へと、次の言葉を投げた。
「以前にこちらが述べた内容。君はどこまで受け入れたのだろうな。――クラウス君」
刹那。
神父の顔が、醜く歪み――
「とことん、ムカつく野郎だな、てめぇはッ!」
全身から殺意が放たれる。
「ッ……!?」
「な、なんだ、あの神父は……!?」
騒然となる参列者達。
されど我が父母とガイアス、そして女王・レミエル、四名に関しては、平然とした態度のまま事態を静観している。
その一方で。
我が周囲を固める、花嫁達は。
「クラウスッ……!」
「よくも、ルミ達を……!」
「受けた借りは、返させていただきますわよ……!」
「ここいらで、決着と行こうか……!」
セシリアを除く全員が、一様に敵意を剥き出しにする中。
相手方……クラウスが、牙を剥くように笑う。
「オレをあそこで殺しとくべきだったなぁ、アルヴァート」
続いて、彼が口にした言葉は、
「本当はな、やりたくなかったんだよ。なんせリスクがゼロってわけじゃねぇしなぁ」
何もかもが、
「けど……てめぇをブチのめして! 目の前で女共をブチ犯すには! てめぇよりもチートな力を手に入れるしか! ねぇよなぁ!?」
こちらの想定と、要望の通りに、全てを進めていく。
だが、そうだからこそ。
俺は相手方に、呆れかえっていた。
「クラウス君。君という奴は――」
「ハッ! 今さら謝っても遅ぇんだよ、カスがッ! なんせ既にッ! 奪っちまったからなぁッ!」
こちらの心情など読み取ることもなく、彼は一方的に状況を進行していく。
果たして、クラウスが言う、既に奪ったものというのは。
「これでッ! オレの中には――――魔王の魂がッ! 揃ったぁッ!」
叫ぶと同時に。
彼の全身が、変異する。
それはかつて、交流戦の最中、ザイルが見せた現象と全く同じものであるが……
前回は虚偽であったのに対し、今回は、真実である。
ゆえにクラウスが変異した、その姿は。
「ふぅぅぅぅ…………最っ高の気分だぜぇ……!」
原作、最後の楽園にて。
世界を滅ぼした魔王の威容、そのものであった――
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