第一三話 戦争を未然に防いだ結果、皆と婚約することになった


 原作主人公、ザイル・ソーサラスの死去。

 これによって、全てが解決へと向かった。


 共和国側の首脳陣はその時点で正気を取り戻し、すぐさま王国側のVIPルームへ直行。

 国家元首・ゴルテアを始め、首脳陣全員が最上級の謝罪を行った後……


 政治的な誠意を見せたことで、この一件は決着へと至った。


 全てはザイルの内側に在った魔王の仕業であると、皆はそのように納得し、そこになんの疑いも抱いてはいない。


 現状を疑問視しているのは、真実を知る者のみであろう。


 俺とセシル、エリー、そしてセシリア。

 この四名だけが状況を正しく理解している。


 今回のシナリオは、誰が悪役であったのか。

 何を目的として、此度の一件を起こしたのか。


 


 全てを把握して、なお……

 いや、むしろ。

 全てを把握しているがゆえに。


 俺は、相手方の掌の上で、踊り続けることを選択した。



 そうだからこそ、今。

 戦争を未然に防いだ功労者として、宮殿の只中を歩いている。



 傍を固めるのは、麗しい少女達。

 ルミエール、エリーゼ、セシル、クラリス、セシリア。

 ここに姿を消失させたエリーを加え、計:六名

 宮殿に呼び出されたのは、それだけだった。


 クラウス・カスケードの姿は、この場にはない。


 そこにいかなる思惑があるのかは……いくつかの推測が立てられるものの、いずれも問題にはならないので、興味の埒外とする。


 さて。

 我々は粛然と移動を続け、目的の場である謁見の間へと到着した。


 そこには我が父・リチャードを始めとした上位貴族達と……

 玉座に着く女王が、待ち受けていて。


「跪く必要はありませんよ、皆さん。今回は我々こそが、下手に出るべき立場、なのですから」


 玉座を立つと、女王・レミエルは深々と頭を下げた。

 それに合わせる形で、上位貴族達もまた同じように黙礼する。


「アルヴァート様。貴方のおかげで、問題は解決へと至りました。そのことについて、我々一同、深く感謝申し上げますわ」


 再びの一礼。

 それから彼女は玉座へと腰を下ろし、


「アルヴァート様。貴方に特殊称号……神威カムイを授与いたします」


 この称号を受けた者は、特別な立場を得ることにもなる。


 即ち……完全なる自由人。


 神威の称号を持つ者は、国内における全ての不遜・狼藉・非道徳を認められ、その権限は女王よりもさらに上。


 この称号を有しているのは、現在、リンスレットのみ。


 というか。

 神威の称号はそもそも、彼女のために用意されたものだ。


 ……平時であれば、そんなもの、絶対に受け取ることはないのだが。



「謹んで、お受けいたします」



 この場における発言など、

 ゆえに俺は、全てを受け入れることにした。


「続きまして……アルヴァート様、貴方に我が娘、クラリスを嫁がせたいと考えておりますの。無論、貴方さえよければの話、ですが」


「謹んでお受けします」


 この言葉にクラリスは頬を赤らめ、


「ア、アルヴァート様っ……!」


 横合いから抱きつき、こちらの頬にキスをした後、自らの爆乳を擦りつけてくる。

 そんな我々の様子を、女王は微笑と共に見守りつつ、


「さらにアルヴァート様。貴方は神威の称号を有することによって、全ての自由が認められ……多重婚も、可能となります。そこで」


 視線を上位貴族の一人へと向ける女王。

 果たして、その人物とは。


「お初にお目にかかる。私はガイアス・ルシフォル。エリーゼの父だ」


 厳めしい顔立ちに、筋骨隆々とした肉体。

 なるほど、イメージ通りの父親だな。


「貴殿に我が娘、エリーゼを贈りたいのだが……受け取ってはもらえまいか?」


「謹んでお受けします」


 もう完全に、謹んでお受けしますBotになっている。

 そんな俺に対して、エリーゼは、


「やったな、アルヴァート! これで名実共に、我々は夫婦だ!」


 クラリスとは逆側の腕に飛び付き、彼女もまたこちらの頬にキスをした後、豊かな乳房を擦りつけてくる。


 ……その後の展開についても、また。

 想定の範疇を、逸脱するようなものでは、なかった。


「兄様っ! ルミもお嫁さんにしてくださいっ!」


「謹んでお受けします」


 妹がこちらに跪いて、左足に乳房を擦りつけてくる。


「わたし、も……アルヴァートの、赤ちゃん……ほしい、な……♥」


「謹んでお受けします」


 セシリアもまた跪き、右足に乳房を擦りつけてくる。


「…………アルヴァート君」


 どこか不満げな顔のセシル。


 彼女はある事情により、此度の一件が終わるまでは男子として、こちらに接する必要がある。

 ゆえに、皆のような態度を取ることは出来なかった。


 が、それはあくまでも表面における話で。


『ボクのことも、お嫁さんにしてくれるんだよね?』


 念話を用いれば、真意を交わすことは可能である。

 そして彼女に対しては……

 こちらも、Botではいられない。


『……君さえよければ、な』


 セシルはもう、死神ではない。

 我が友にして、切り札でもあり……

 好意を抱き合っている異性の、一人でもあった。


『ふふっ。言質は取ったぜ? アルヴァート君』


 表面にこそ出してはいないが、今、セシルは内心にて頬を緩ませていることだろう。


 ……それから。


『ご主人様っ! わ、わたしは、そのぉ…………や、やっぱり、肉べ』


『貴女さえよければ、こちらの時代の貴女と同様、夫婦になりたいと考えているのですが。いかがでしょうか?』


『~~~~っ! う、うむ、それもまた、良いかも、しれん、な……!』


 原作のアルヴァートによってグチャグチャにされた人格と、感性。

 ゆえに彼女は、こちらの言葉に当惑を見せた。

 が、その中には確実に、強い喜悦の情が篭もっている。


「ではアルヴァート様。挙式に関しての日取りですが――」


 婚約の儀に関する取り決め。

 これもまた、どうせなかったことになるため、適当な返事をし続けた。

 そして。


「婚約後は……しっかりと、皆さんに種付けをしてあげてくださいましね?」


「謹んでお受けします」


「特に、我が娘には念入りに。一晩で孕むほどの、濃厚な種を注いでくださいませ」


「謹んでお受けします」


 これもまた、なかったことになるため、適当に肯定を返しておいた。


「な、なぁアルヴァートよ。クラリス様、だけでなく」


「わたし、達も……」


「孕ませてください、ねっ♥」


 彼女達に対しても、淡々と肯定の意を返しておく。


「では……これにて解散といたしましょう。皆さん、ご足労いただき、まことにありがとうございました」


 ようやっと終い、か。


 俺は皆と共に踵を返し、帰路へと就く。


 そんな道中。


「あっ。そういえば、アルヴァート様」


「なんでしょう?」


「数日後にランク・マッチが控えておりますが……希望される対戦相手など、おられるでしょうか?」


 あぁ、なるほど。

 そういうふうに繋げていくのか。


 こちらとしては、好都合だ。

 もうさすがに、飽きてきたからな。


 彼が仕組んだ茶番にして……


 を、続けるのは。


 ゆえに俺は。

 次の要望を、口にした。



「――――クラウス・カスケード君との対戦を、希望いたします」

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