第一二話 掛かったな、アホが!


「フ、クク……! クハハハハハハハハハハハッ!」


 野太い哄笑を放つザイル。

 そんな彼へ、クラウスが目を見開きながら、


「こ、これは、いったい……!?」


 わかりやすい前振りに対して、ザイルはこう答えた。


「我は魔王・ベルギウス! 人の世を、滅ぼす者なり!」


「ま、魔王っ……!?」


 クラウスの反応に合わせる形で、場内が騒然となる。


「な、なんだよ、あれ……!?」


「お、おぞましい……!」


「魔王って……う、うそだろ……!?」


 一応、エリーゼ達の様子も確認してみたが……


 予想通り、セシル以外は全員、現状に畏怖を覚えているような顔をしていた。


 ……さて、こちらの先読みが正しければ、魔王が次に放つ言葉は。


「いやはや、このような形で復活出来ようとは! まさに嬉しい誤算というやつだ!」


「ど、どういうこと、ですか……!?」


「全てはそこな小僧によるものだ! 我が憑依先たるザイル・ソーサラスが、激しい憤怒を覚えたことで! その感情のエネルギーが、我を復活へと導いた!」


「くっ……! ま、まさか、アルヴァート君の行動が、そんな結果をもたらすだなんて……!」


 まるで、こちらを悪人に仕立てんとするような言動。

 これに対し、観客達は、


「なんてことだ……!」


「あいつの、せいで……!」


「ふざけんじゃねぇよ……!」


 とまぁ、非常にわかりやすい反応を見せてくる。


 続いてエリーゼ達の様子を確認してみたが……

 まぁ、こちらも予想通り。

 俺への悪意などは特に見せることなく、畏怖した様子のまま、突っ立っている。


 ……すまんな、セシル君。もうちょっとばかり、茶番に付き合ってくれ。 


「そこな小僧には感謝してもしきれぬわ! これで再び、人の世を乱すことが出来るのだからな!」


 と、こんな魔王の発言に対し、クラウスが一歩前に踏み込んで。


「そのようなことは……僕が! させはしない!」


 決然とした口調で、言い切る。

 そんなクラウスを魔王は嘲笑し、


「貴様ごときに何が出来るッ! この場にて嬲り殺してくれるわッ!」


「確かに……! 僕一人の力じゃ、お前には勝てない! けど、僕には頼もしい仲間が居るッ!」


 ここでエリーゼ達が反応を示した。


「お、おぉ! そうだ、クラウス!」


「わたくし達が力を合わせたなら!」


「こんな雑魚! 一瞬で終わっちゃいますよ!」


「……ははっ! 皆の言う通りだ! ボク達が負けるはずはない!」


 すまないセシル君。

 ほんっとうに、すまない。


 ちなみに。

 セシリアは沈黙を保ったままだが、こちらはあえて捨て置こう。


 ともあれ。


「行くぞ、虫ケラ共ッ!」


「来い、魔王ッ!」


 うん。

 もうそろそろ、この茶番も幕引きといこうか。



「――ファイア・ボール」



 いつものやつである。


 俺は寝そべったまま火球を放ち、魔王へと直撃させた。


 ……まずは一撃目。


「ぐぁああああああああッ!?」


 続いて、二撃目。


 我が異能、適応の力により、この時点で魔王は無力化されたわけだが。


 さてさて。

 ここからが、状況の本番。


 俺は起き上がると同時に――

 を、展開する。


「こういうことは、一気呵成にやるべき、か」


 皆があっけにとられる中。

 俺は、


「「「っ……!?」」」


 こちらの奇行を理解出来なかったようで、場に居合わせた者全員が、再び目を丸くする。


 そんな中。

 俺は魔王へと、踏み込んで。


 彼の腹部に、自らの左腕をねじ込んだ。


「ぎぃああああああああああああああッッ!?」


 切断面が相手方の体内へと入り込む。

 この瞬間……

 俺達はある意味で、になったと言えるだろう。


 結果。

 我が異能のルールが、魔王となったザイルにも、適用される。


 自身に向けられた有害な効果。

 その全てを無力化するという、適応の力。


 それによって、今。

 ザイルに掛けられた有害な効果の全てが、消失。


 途端、彼は魔王の姿から元のそれへと戻り――



「あ、れ? オレ、どう、して?」



 人格すらも、完全に元へ戻った、次の瞬間。


「はッッ!」


 裂帛の気迫。

 それを放ったのは……


 クラウス・カスケード。


 彼は魔法によって灼熱の剣を形成し、そして。

 ザイルの首を、両断した。


「ふぅ……」


 まるで一仕事を終えたような調子で息を吐くと。

 彼はこちらへと目をやって、次の言葉を紡ぐ。


「危ないところでしたね、アルヴァート君。もし放って置いたなら……奴は自爆の魔法で、君ごと消し飛んでいましたよ」


 こんな台詞に対して、俺は……


 心の底から、感謝した。


「ありがとう、クラウス君」


 口にするのは、ここまで。

 続きの言葉は、内心にて紡ぎ出す。

 


 いや、本当にありがとう、クラウス君。

 君の迂闊な行動のおかげで――



 ――まずはを、終わらせることが出来そうだ。

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