第一〇話 だいたい分かった


 クラウスが覚醒した。

 理由はよくわからん。


 第二競技の総括としては、その二言で十分であろう。


 こちらが傍観に徹する中、どこかで見たことがあるような、主人公と悪役のやりとりが続き――


 その末に。

 第二競技が今、終了の時を迎えるに至った。


 第一競技に続いて、今回も我々が勝利を収めたわけだが。


「クソがぁあああああああああああああああッ!」


 フィールドに両膝を付いたザイルが、地面を殴る。

 そんな彼を見下ろしつつ……クラウスが呟いた。


「哀れな人だ、君は」


「あぁッ!? てめぇなんぞに何が分か――」


 会話の途中ではあるが、離席させてもらうことにした。

 彼等の問答に関してはなんの興味もないし、見物したところで時間の無駄である。


 そんなことよりも今は。

 彼女からの情報提供こそが、最優先事項だ。


 俺は一人、大運動場内部の通路を歩み、男子トイレへ。

 人払いの魔法が仕掛けられたこの空間は、密談を行うのに最適な場所であろう。


 どうやらエリーはこちらよりも先に来ていたようで。

 妙に興奮した様子を見せながら、口を開いた。


「こ、こんなところに呼び出すとはっ……! ようやっと、わたしのことを肉べ」


「仕事の成果について、早速、お聞かせ願います」


 性欲大魔神を黙らせ、諜報員としての彼女を呼び出す。

 そんなこちらの態度にエリーは唇を尖らせつつも、


「まずは共和国側の思惑について、だが」


 VIPルームで見聞きしたことを、つまびらかに語ってみせるエリー。


 ここで気になるのは、やはりザイルの言動と、そこに対する首脳陣の反応であろう。


「まるで操られているかのように、虚ろな目をしている首脳陣。それを相手に平時の粗暴な態度を貫く少年……表面だけを見れば、全ての凶事はザイルの手によるものであると、そのような結論になりますが」


「う~む。確かに、その通りではあるのだがなぁ……」


「ミス・エリーも当方と同様に、何かが引っ掛かっておられるのですね」


「あぁ。しかしそれはあくまでも勘働きによるもので、確証などは一つもない」


 それから。

 エリーは次の疑問を口にした。


「ところで……勇者の転生体という言葉については、どう思う?」


「あぁ、そのことでしたら、問題はありません」


 勇者の転生体。

 それは原作にも登場するワードであり……


 あるキャラクターを、指す言葉でもある。


 そして、その人物は。

 我々からすると、だ。


「む。問題ない、とは?」


「……そうですね。ミス・エリーには、明かしておきましょうか」


 詳細を口にする。

 と、彼女は目を見開き、


「ぬぅ。よもや、そのような背景を持っていようとは」


「えぇ。しかしながら……直ちに問題を生じさせるような存在ではありません。よって今のところは無視してもよいかと」


 ある人物に対する感慨を述べ合った後。

 俺はエリーに頼んでいたもう一つの仕事について、問い尋ねた。


「例の件、ですが……首尾は?」


「無論、滞りなく完了した……わけなのだが」


「どうされました? 何か不審な点でも?」


「う、うむ。なにぶん、初の経験だったものでな……」


「……この仕事そのものが、初という意味ではありませんよね?」


 首肯を返すエリー。

 彼女に依頼したもう一つの仕事というのは……


 セシルが治療室送りにした、原作ヒロインの一人。

 その記憶を、エリーが有する力で以て、調べ尽くすというものだ。


 ……しかし、どうやら。


「相手方の記憶には、貴女にとっての想定外が、発生していたのですね?」


「あぁ。具体的には……記憶の一部分がな、すっぱりと消え失せていたのだ」


 エリー曰く、そのようなことは絶対にありえないという。


「わたしの術理は魂に関与するものであって、脳の状態などは関係ない。ゆえに相手が記憶喪失であろうとも、これまで経験してきた全てが閲覧出来る……はずなのだが」


「今回はなぜだか、閲覧が出来ない状態であった、と」


「うむ。あれは、まるで、そう……」


 次の瞬間、エリーはなかなか興味深い言葉を口にした。



「記憶の一部を、かのような有様だったな……」



 奪い取られた、か。

 なるほど。


「ありがとうございます、ミス・エリー。貴女のおかげで、大きなヒントを得られました」


「む……しかし、ご主人様。犯人が何者であるのか、その確証については」


「えぇ。現状、ザイルこそが犯人であるという証拠はあれども、他に関しては何もない。しかしながら」


「わたしもご主人様も、その結論に対しては懐疑的である、と」


 さて、この状況、いかに打ち破るか。

 そのことについては、実のところ。


「当方に妙案がございます」


「ほう……具体的には、どのような?」


 その詳細を伝えたところ、エリーは感心したように手を叩いて、


「ふむ。さすがわたしのご主人様だ。なかなかの権謀術数であるな。……しかし」


「えぇ。これは賭けの要素が強い。ただ……勝算は、十分にある」


 我が妙案。


 それを一言で表すとしたなら……


 特定の人物に対する、といったところか。


「そこに嵌まったなら、その時点で」


 俺はある人物を思い浮かべながら、ボソリと呟いた。



「――彼が犯人であるということを、確信出来る」






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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