閑話 新たな情報
究極の隠密能力。
エリーが有する異能はまさにそれだった。
自らの存在を世界から切り離すことによって、その姿を認識不能とするだけでなく、あらゆるマイナス効果を受け付けなくなる。
そうした能力を用いて、今。
エリーは共和国側のVIPルームに潜入していた。
(この世界はどうにも、わたしが元居たそれとは根本から違うようだな)
(交流戦などという催しは、わたしの世界にはなかった)
声を出したところで認識されることはない。
しかし万が一のことを考え、エリーは内心にて呟く。
そうしながら……
彼女は共和国の首脳陣達を観察し続けた。
「敗れましたな」
「あぁ」
第一競技を終えての感想が、これだった。
皆、例外なく無関心。
勝ち負けなど興味の埒外といった様子に、エリーは違和感を覚えた。
(学生達の祭典に為政者達が興味を示さない……それ自体は不思議でもないが……)
(しかし、この場には国家元首が参席している)
(であれば、彼等はなんらかの目的を持って観戦している、はずだ)
(にもかかわらず、ここまで無関心というのは……)
不自然、極まりない。
よくよく観察してみると、全員が全員、虚ろな目をしているような気がする。
まるで誰かに操られているかのようだと、そのように感じ取った、次の瞬間。
「あぁッ! クソがッ!」
ドアが乱暴に開かれ、一人の少年が室内へと入ってくる。
ザイル・ソーサラス。
共和国の学生チームを率いる、リーダー的な存在。
アルヴァートから要注意人物と伝えられた男子。
今は競技を終えた後の休憩時間であるため、ザイルが舞台から離れていることについては違和感がない。
しかし……
自国の首脳が集う場へ、無遠慮に入り込んだ挙げ句、
「オレが負けたんじゃねぇッ! 他の奴等が足を引っ張ったからだッ!」
国家元首に対して、このような態度を取るというのは、あまりにも不自然。
そして、さらに。
「その通りでしょうな。さもなくばザイル様が敗れるはずがありません」
元首たるゴルテアが、下手に出る。
そんな状況を前にして、エリーは顎に手を当てながら、考え込んだ。
(これを額面通りに受け取るなら)
(ザイルが首脳陣を操っているという、確たる証拠だと……そのように捉えるべき、だが)
情報の重要度に対して、その入手難度があまりに低すぎる。
もっともそれはエリーの主観でしかないため、相手方が迂闊だったというオチだったとしても、なんらおかしくはないが。
「どうですかな? 現時点における、相手方の脅威度は?」
「ハッ! たいしたことねぇよ! どいつもこいつも雑魚だらけだ!」
「ほう。ではやはり……王国への侵攻は、確定ということで、よろしいか?」
ザイルは邪な笑みを浮かべながら、首肯を返した。
「こっちにゃ勇者の転生体だって居る。負けるような要素は、どこにもねぇ」
勇者の転生体。
どうにも気になるワードだが、ザイルはその詳細を語ることなく、
「王国は戦力的にゃあ大したことねぇが……女のレベルは高いんだよなぁ……」
笑みに歪んだ口から、彼の行動原理が紡ぎ出された。
「そそる奴等がゴロゴロ居やがる。相手チームに限定して見ても……エリーゼ、クラリス、ルミエール、だっけか? この大会が終わったら、どいつもこいつも手に入れて……オレ好みの性奴隷に調教してやるぜ……!」
肉欲。
ザイルの言葉を真に受けたなら、彼はそのために首脳陣を操り、戦争まで起こそうとしている……と、そんな話になるわけだが。
(愚かが過ぎる)
(確かに歴史を紐解けば、女のために戦を起こした愚王も居たが……)
(しかしどうにも、作為的な匂いがするな)
さりとて、これもまたエリーの主観的な推測でしかなく、確証はない。
いずれにせよ。
(この場にて収集すべき情報は、もはや十分に得られたとみるべき、か)
(であれば)
(次へ、向かうとしよう)
VIPルームを離れ、エリーは次なる目的地へと向かう。
――アルヴァートに頼まれた、もう一つの仕事を、こなすために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます