第二六話 クロス・オーバー


「――と、ここまでが、事の顛末となります」


 全てを終わらせた後。


 俺はセシルと共に学園へと帰還し……


 まずはクラリスを救助。


 依然として眠りこけている彼女を部屋へと送り届け、それから。


 俺達はある人物のもとへ向かった。


 果たして、その人物とは。


「ご理解いただけたでしょうか。――リンスレット先生」


 リンスレット・フレアナイン。


 彼女には全ての事情を話しておくべきだと判断したのだ。


「……うん。だいたいわかった」


 教師専用の宿舎。

 その一室にて。


 薄手のネグリジェを纏い、乳房と太股を大胆に露出させた彼女は、椅子に座り込んだままこちらを見据え、


「まぁ、そこらへんについては、あんた等の好きにすればいいんじゃないかしら」


 特に興味なし。


 それは予想通りの態度ではあったが、しかし、言質を取ったか否かというのはデカい。


「セシルの力を用いて、今回の一件をまるごとなかったことにする。……ま、学園生活を続けたいなら妥当な考えよね。そのことについて、あたしにわざわざ報告してきたのは……ふふっ、大正解ってところかしら」


 やはりな。


 彼女はどこかで、火種を求めている。

 こちらとやり合うための、火種を。


 もし無断で好き勝手なことをしていたなら。

 きっと彼女はそれを口実に、俺達と一戦交えていたのではなかろうか。


 セシルは無敵の存在であり、俺もまた遺憾ながらも最強であるが……

 それでも、当代最強と謳われる魔導士を相手に、事を構えたいとは思わない。


「というか……もしかして、なんですけど。ボクのこと、全部気付いてました?」


「ふふっ。そうねぇ……あと三日ってところだったわ。我慢が出来るのは」


 やはりこの人は底が知れないな。


 まぁとにもかくにも。


 これで本当に一件落着――


「ところでさ、アルヴァート」


 紅い髪を掻き上げると、彼女はこちらを誘惑するように、むっちりとした太股を組んで。

 乳房の谷間を見せ付けるかのように、前屈みとなりながら、言葉を紡いだ。


「年上の女をメチャクチャにしたい。そう思ってたりはしないかしら? もちろん、ベッドの上で、ね」


 これに対し俺は即座に返答した。


「そのような考えは微塵も抱いておりません。これにて失礼させていただきます」


 ただでさえややこしい状況なのだ。

 これ以上、抱え込んでたまるか。


 受け答えてからすぐに踵を返し、退室。

 後はもう入浴して就寝するだけ、だが。


「ねぇアルヴァート君。お風呂、一緒に入らない?」


「……恋仲でもない男女が混浴するのは、背徳が過ぎるんじゃないか?」


 道中。

 セシルが、絡みまくってきた。


「ところでさ、アルヴァート君。君の部屋にボクの荷物を運び込むの、手伝って――」


「その話だが。遠慮してはもらえないかな」


「――どうしてさ? もしかして、アルヴァート君はボクのこと、嫌いなの?」


「いいや。それは違う。ただ……君のように愛らしい同居人がいると、落ち着かないと思うんだ。特に夜中などは、一睡も出来なくなるだろう」


「えっ? あ、愛らしい? ……えへへ。そ、そっか。じゃあ、しょうがない、ね」


 我が自室には現在、ルミエールとエリーが入り浸っている。


 それだけでもキャパオーバーだというのに、セシルまでやってこられてはたまったもんじゃない。


「あっ。と、ところでさ、アルヴァート君」


「……今度は、なにかな?」


「ボクってさ、見ての通り、おっぱいは物足りないけど……お、お尻には! 自信があるんだよね! どうかな!?」


 死神でなくなった途端、グイグイ来るな……。


 俺は内心で溜息を吐きつつ、受け答えた。


「……人は見た目じゃない。それは君が一番理解してるんじゃないか? セシル君」


「っ……!」


「俺は君の外見がどうであろうと、君を愛するよ」


「あ、愛っ!?」


「無論、友として、だが」


「えへ、えへへへへ……愛……愛……愛……!」


 聞いちゃいなかった。


 今後、どうなることやら。


 そんな感情を抱きつつ、一夜を明かし――



 翌朝。



 本日の幕開けもまた、普段通りの内容となっていた。


「おはようございますっ♥ 兄様っ♥」


 目覚めと同時に、ルミエールが頬に「ちゅっ」とキスをしてくる。


 それから。


「うぅぅぅぅぅ、目の前に、愛おしいアレがあるというのにぃぃぃぃ。わたしはいつになったら、ご主人様の特濃一番搾りを――」


「次は淫語の使用を禁止いたしましょうか? ミス・エリー」


 褐色のドスケベ美女にツッコミを入れてから、登校の準備を済ませ、部屋を出る。


 と――


「おはよう、アルヴァートっ!」


 まだ真っ当だった頃のエリーゼ。


「おはよう、アルヴァート君」


 我が友にして配下となったセシル。


 それから。


「本日もご機嫌麗しゅうようで、何よりですわ、アルヴァート様」


 一部、記憶を操作されたクラリス。


 皆と合流し、普段通りに登校する。


 左側にルミエール。

 右側にエリーゼ。


 それぞれが左右から腕を絡ませてきて、豊満な乳房を押し付けながら歩く。


 まさに爆乳のサンドイッチ状態。


 そこに加えて。


「はぁ……♥ はぁ……♥ アルヴァート様の、たくましいお背中……♥」


 クラリスが背面に覆い被さり、作中一の巨乳を擦り付けてくる。


「ははっ! やっぱりアルヴァート君はモテモテだねぇ! とても羨ましいよ!」


 いつものように嘘を吐くセシル。


 その内心にはちょっとした変化があるように感じられたが……あえて無視しよう。


 俺はルミエールとエリーゼに挟まれ、クラリスの柔らかさと体温を感じつつ、セシルの痛々しい視線を浴びながら、歩く。


 ……もはや不安要素はない。


 一連の事件が解決したことで、日常の只中に潜む闇は消え失せた。


 セシルは今や友にして配下。


 我が身を滅ぼす全ての要素が、消えてなくなったのだ。


 ある種、俺はハッピーエンドを迎えたということではなかろうか。


 ……まぁ、理想的な人生を送っているというわけではないので、厳密には違うのだが。


 ともあれ。

 俺の学園生活はしばらく、落ち着きのあるものになるだろう。




 ――と、そんなふうに考えてから、一時間も経たぬうちに。


 ――新たな大問題が、なんの脈絡もなく、訪れた。




 教室に入り、しばらくして、リンスレットが入室。


 普段ならこのままホームルームに移るところだ。


 しかし、今回は。


「え~、突然ではあるんだけどね。ハルゲニア共和国から二人、留学生がウチに入ることになったから」


 ハルゲニア共和国。


 その名称を耳にした瞬間、俺は強烈な悪寒を覚えた。


 ……いや、そんな、まさか。


 しかし……時系列的には、不自然ではない。


 重要なのは、


 そこに尽きるわけだが。


「じゃあ、入って」


 リンスレットに促され、入室したのは、一組の少年少女。


 両者共、祖国にて属していた学園の制服を身に纏っている。


「とりあえず、自己紹介してもらおうかしら」


 目を向けられた少女が、小さく頷いて。


「……ん。セシリア・ウォルコット」


 長く美しい銀髪。


 大人びた美貌。


 眠たげに細められた真紅の瞳。


 露出度が高い制服から覗く、豊かな乳房とムッチムチな太股。


 そんな彼女は、最後に。


「特技は……色仕掛け?」


 短いスカートをまくし上げて、扇情的な黒い紐パンツを見せ付けてくる。


 沸き立つ男子達。


 ドン引きする女子達。


 そんな中。


「え~、じゃあ次、あんた、自己紹介よろしく」


 水を向けられた男子が、爽やかな笑顔を浮かべながら、口を開く。


「クラウス・カスケードと申します。半年ほどの留学となりますが、皆さん、よろしくお願いいたします」


 礼儀正しい言葉使い、だが。


 その外見は極めて粗野なものだった。


 逆立った金髪。


 浅黒い肌。


 背丈はかなり高く、筋骨隆々としている。


「じゃあ、ちょうど席が空いてることだし……セシリアはアルヴァートの隣ね」


 瞬間、男子達の強い視線が襲ってくる。


 そのことごとくを黙殺しつつ……俺は、こちらへとやってくる銀髪の少女を見た。


「……これからよろしく、ね?」


 席に着きながら、小さく微笑み、そして。


 初対面だというのに、いきなり、こちらの太股を摩ってくる。


「……半年間、わたしと楽しいこと、しよ?」


 すりすりと、こちらの腿にハートマークを描く。


 そんなセシリアは――


 ある作品に登場する、だ。


 そして。


「じゃあクラウスの方は……エリーゼの隣ね」


 それは同時に、ルミエールの隣席になるということでもある。


 そうした現状に、俺は。


 強い不快感を、催した。


「半年間、お世話になります」


「うむ! わからぬことがあったら、なんでも聞いてくれ!」


「ルミは面倒なんでパスさせてもらいまぁ~す」


 あの少年は。


 クラウス・カスケードは。


 見方を変えれば主人公となるが、しかし、扱いとしては間違いなく……


 である。


 此度、我が前に現れた二人の転入生。


 彼等は同一の作品に登場するキャラクター達だ。


 その作品名は、最後の楽園 ――Love Destruction――。


 復讐の仮面鬼と高貴なるスレイブとは、世界観と時系列を同じとする作品。


 そして。


 その、ジャンルは。




 ――NTR。




 即ち――


 である。






 ~~~~あとがき~~~~


 これにて第一部完結となります!


 これを記念に、フォローしてくださっている方は☆を、

 まだフォローしておられない方はフォローを、


 どうかどうか、よろしくお願い致します!


 第二部の執筆に対する強いモチベーションとなりますので、

 なにとぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る