閑話 嗤う女


 都合の良い道具。


 彼女はそうした宿命のもとにあった。


 物心付く前から教育という名の洗脳は始まっていて。


 彼女は王室の……いや、のために身命を捧げることを、何よりの幸福であると、信じ込まされてきた。



 ――その日の夜。



 彼女は自室にて、机と向き合い、目前に在る水晶へと言葉を紡ぎ出す。


「ようやっと目処が立ちましたわ、マスター」


 彼女の無機質な声に対し、水晶から反応が返ってくる。


「はぁ。やっとですか。今回の仕事で、貴女の評価は大きく下がりましたよ。これまでの功績がなければ殺処分も視野に入れる程度には」


 女の声。


 どこか苛立った調子で紡がれたそれに、彼女は淡々と謝罪の言葉を返し、


「翌日の明朝には、セシル・イミテーションの死体が発見されるかと。そうなれば」


 あとは、だけだ。


 長きに渡った、この仕事を。


「では。吉報をお待ちくださいませ、マスター」


 交信終了。


 水晶からはもう、何者の声も送られてはこない。


「……やっと、か」


 これまでの人生を思い、彼女はある種の感慨を噛み締めながら、笑う。


「しっかりと働いてくださいませ、アルヴァート様」


 一人の少年を脳裏に浮かべ、口元に浮かんだ笑みを深くする。


 そんな彼女の姿は――



 






 ~~~~あとがき~~~~


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