王国の闇を支配する最強最悪の貴族(陵辱系エロゲ主人公)に転生した俺、アブノーマルな展開は嫌いなので普通に穏やかな生活を……送ろうとしてたんだけど、気付いたら『ある意味』原作シナリオと同じ状態になってた
第一八話 一番の強敵は死神ではなく性女だったのかもしれない
第一八話 一番の強敵は死神ではなく性女だったのかもしれない
我が身に宿る二つの異能。
そのうちの一つである適応は、あらゆる魔法と有害な概念の全てを無力化する効能を持つ。
だが……
どうやら室内に漂うそれは、適応の効果範囲から外れているようだった。
「……催淫香を、焚かれていますね」
クラリスの自室に充満する甘やかな匂い。
これは彼女自身が放つものに、特殊なアロマが混ざり合うことで形成されたものだろう。
……まずい。
催淫効果のせいで、クラリスの姿が余計に魅惑的なものとして映る。
風呂から上がったばかりなのか、桃色の美髪はしっとりと湿り気を含んでおり、実に艶っぽい。
普段、制服によって覆い隠されている作中一の巨乳は今、大胆に露出しており、否が応でも目が釘付けになってしまう。
薄手のネグリジェから覗くむっちりとした太股も、極めて扇情的だ。
「はしたない女と、見下げられてもかまいません。わたくしは貴方様に愛していただきたいのです。……たとえ、今宵限りであろうとも」
あどけない美貌に宿る強烈な熱情が、彼女の色気を何倍にも高めているように思えた。
……衝動が赴くままに、彼女の魅惑的な体を貪りたい。
そうした欲望を必死に抑え込みつつ、俺は思考を巡らせた。
この状況において、万が一、この身が性的な暴走を見せたとしても。
今、室内には不可視の第三者が存在する。
そう、異能によって姿を消失させたエリーが、こちらの背後にて待機しているのだ。
彼女はこういった状況になってしまった場合の保険である。
もしもこちらがクラリスと行為に及ぼうとした場合、あらゆる手段を用いて、我が身を止めてほしい。
エリーにはそのように頼んでいるのだが……
「はぁ……♥ はぁ……♥」
催淫香の効果に思いっきり引っ掛かっている。
……なんだか不安になってきた。
ともあれ、ここは早急な対応が必要となろう。
俺は欲を抑えつつ、口を開いた。
「クラリス様には、お相手がおられるのでは?」
性欲の発散は別の誰かとやってくれ。
先刻の言葉は、そういった意図によるものだったが、しかし。
「っ……! さ、さすがですわ、夜王様。まだ外部には漏れていないはず、ですのに」
クラリスの反応は、想定外なものだった。
「えぇ、確かにその通り。わたくしはつい先日、母上……即ち、女王陛下の命により……婚約することと、なりました」
いや、そんなこと言われても、反応に困る。
というかそもそも、だからなんだというのか。
よもや婚約者に抱かれる前に、自分の初めてをもらってほしいとでも?
クラリスが性女でなければ納得するところだが、実際は――
「同じ王族というだけで決められた、誰とも知らぬ殿方。そのようなお人に純潔を奪われたくはございません。わたくしのそれは……貴方様に、捧げたいのです」
…………えっ。
「……クラリス様。一つ、問うてもよろしいでしょうか?」
「はい。なんなりと」
「……貴女様は今し方、純潔とおっしゃいましたね?」
「えぇ。わたくしの体にはまだ、誰も手を付けておりませんわ」
「……それは、まことですか?」
「う、疑われておられるのなら……い、今すぐ、確かめてくださいましっ!」
股を開き、純白の下着を見せ付けてくる。
そんなクラリスを前にして。
俺は、脳が沸騰するような感覚を味わった。
……なにゆえ彼女に食指が動かなかったか。
それは、クラリスが稀代のビッチであるという設定を、鵜呑みにしていたからだ。
しかし今。
その前提が崩れてしまった。
好意を抱く相手を即座に食ってしまうはずの彼女が、なぜ今まで、こちらにアプローチをかけてこなかったのか。
なぜ今宵に限って、熱烈に誘ってきたのか。
……俺がシナリオを破壊したことで、クラリスの設定に変化が生じたからだ。
つまり。
彼女はこちらに純粋な好意を抱く、完全無欠の聖女ということに、なる。
……だが。
「夜王様! わたくしは貴方様をお慕い申しておりますっ! ですからどうか、わたくしにお情けを――」
「申し訳ございません。そのお望みだけは、叶えて差し上げることが出来ません」
最後の一線を越えさせないものが、クラリスにはある。
それは。
「クラリス様。貴女様にとって、当方は何者でしょうか?」
「えっ。そ、それは無論、夜王様の……」
この返答に対し、俺は溜息交じりに言葉を紡いだ。
「貴女様も、当方を肩書きでしか見てはおられないのですね」
前世にて、俺は努力を重ねた結果、社会人としてのトップクラスに登り詰めた。
それゆえにこちらを誘惑してくる異性も複数、存在したわけだが。
彼女等は俺のことなど、見てはいなかった。
肩書きと年収。
それしか、見てはいなかった。
無論、クラリスはそういった女達と比較すべき存在ではない。
ただ、そのように理解していても、やはり。
「当方はアルヴァート・ゼスフィリア。夜王の転生体では、ない」
純粋にこちらを見ないというのであれば、関係を持ちたいとも、思わない。
催淫香の効果を精神力でねじ伏せつつ、俺はさらに言葉を放った。
「そもそもにして、当方には既に婚約を誓った相手がおります。それを差し置いての不義理など、出来ません」
背後にて、エリーが「わ、わたしのことだなっ♥」などと口にしたが、ツッコむことはせず、話を続けていく。
「貴女様が当方に肩書きを求めている限り、我が身は貴女様の臣にございます。よって御身に触れることは未来永劫、ありえません」
完璧だ。
我ながら、完璧に筋道が通っている。
クラリスは聡明な少女だが、これを論破することなど、決して――
「うっ、うぅ…………ふぇええええええええええええええん!」
――えっ。
「ク、クラリス、様?」
「やぁだぁあああああああああ! もうやだぁあああああああああああ! アルヴァート様に嫌われたぁああああああああああああ!」
「いや、ちょっと」
「もう死にますわぁああああああああああああああっ!」
瞬間、彼女は大きく口を開いて――
「お、お待ちくださいッ!」
舌を噛み切ろうとする彼女へ声を送り、接近する。
罠、とかではなかった。
すぐ傍に寄ってもなお、彼女は幼子のように涙を流すだけで、こちらに何かを仕掛けるような様子はない。
「ク、クラリス様! お気を確かに!」
「無理ですわぁあああああああああああああっ! アルヴァート様に嫌われちゃったんだものぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「いや、嫌ってません! そのようなことは、断じて!」
「…………ほんとう、ですの?」
「はい。天地神明に誓って」
「…………じゃあ愛してくださいませ」
やりづらい……!
泣き落としは、反則だろう……!
「い、いや、それは」
「だったら死にますわぁあああああああああああああっ!」
また泣き始めた。
あぁ、くそ……!
なんなんだ、これは……!
原作と違いすぎる……!
とにかく、考えろ。
この場を切り抜ける方法を。
一時凌ぎでもいい。
なんとか、丸く収める方法を。
「…………クラリス様」
思索の末に、俺は答えを導き出した。
正直、最善策ではないが、致し方あるまい。
「此度の一件、全ては女王陛下による婚約の命令に端を発したものと、そのように解釈してもよろしいですね?」
ポロポロと涙を零しながら、コクリと頷くクラリス。
そんな彼女へ、俺はこう言った。
「であれば――婚約が破棄されたのなら、貴女様の心を追い詰める全てが、解決するということですね?」
この問いかけに、クラリスは「ぽかん」と口を開けて、
「じょ、女王陛下に、意を曲げていただく、と……?」
「今すぐとは言えませんが……近い将来、必ず」
わかっている。
俺は今、自分の首を絞めているのだ。
けれども。
そうしなければクラリスが、命を絶ってしまう。
……本当に、どうしてこうなった?
「当方は貴女様と関係を持つことこそ出来ませんが、そのお心を癒して差し上げることは可能かと存じます」
「し、しかし、女王陛下の御意志は……」
「貴女様の中で、夜王というのは、その程度のことも出来ぬ存在、なのですか?」
「……っ!」
「先刻申し上げた通り、当方は夜王の転生体などではございません。しかしながら……貴女様がお望みであれば、今回に限り、そのように動きましょう」
「ア、アルヴァート様っ……!」
彼女の頬を伝う涙が、悲哀ではなく感動のそれへと変じた。
とりあえず、これで一件落着といったところか。
不愉快な約束を取り付けてしまったが……
もう、先のことを考えるのはよそう。
今はただ、波風立たぬ学園生活を……
「ではアルヴァート様。かなり、お話が変わってしまうのですが」
落ち着きを取り戻したクラリスが、普段通りの口調で語り始めた。
こちらにとっての、特大過ぎる、想定外を。
「――此度のランク・マッチ、対戦をご希望される相手など、おられますでしょうか?」
何を言われたのか、理解が出来なかった。
「クラリス、様」
「はい?」
「当方は、出場願いなど、出してはおりませんが」
「えっ? そ、そうなのですか?」
寝耳に水という顔のクラリスだが、それはこっちも同じことだった。
今し方述べた通り、出場願いなど出してない。
ならば周囲の何者かを疑うべきだが……まずルミエールは除外される。
エリーゼについても、そのような勝手を働くとは思えない。
セシルもそうだ。彼女がそんなことをする理由がないからな。
となれば、後はただ一人。
「あれ~? ご主人様がこっちを見てるなぁ~? わたしには身に覚えがないんだけどなぁ~?」
や り や が っ た な。
あぁ、クソ。
失念していた。
こいつにとって、我が意に反することはむしろ、積極的にすべき行為なのだ。
そうすることで仕置きしてもらえれば最高。
無視を決め込まれても、勝手にプレイと勘違いして悦に浸る。
……獅子身中の虫とは、このことか。
「あ、あの、アルヴァート様?」
「クラリス様。後生です。参加登録の取り消しを」
「い、いえ、それが、ですね。わたくしには権限がないと、いいますか」
「であれば。権限を有する方の名をお教えください」
「え~っと……リンスレット様、なのですが」
終わった。
もう、ダメだ。
あの人がこちらの言うことを聞くわけがない。
俺は失意のドン底に突き落とされつつ、無意識のうちに呟いた。
どうしてこうなったのか、と――
~~~~あとがき~~~~
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