王国の闇を支配する最強最悪の貴族(陵辱系エロゲ主人公)に転生した俺、アブノーマルな展開は嫌いなので普通に穏やかな生活を……送ろうとしてたんだけど、気付いたら『ある意味』原作シナリオと同じ状態になってた
第一五話 「彼」は「彼」でなく、実際は「彼女」だった
第一五話 「彼」は「彼」でなく、実際は「彼女」だった
厚みが一ミリにすら満たないガラスが、目の前にあるとして。
それを壊せるかと問われたなら、ほとんどの人間は簡単に出来ると答えるだろう。
だが。
そのガラスの表面に精巧な模様を彫ってみろと言われたなら?
ほとんどの人間は、出来るはずがないと答えるのではなかろうか。
俺がやろうとしていることはまさに、それと同じことなのだ。
己が評価を最底辺まで落とすことは実に容易い。
やりようはいくらでもある。
されど、上辺となったそれを中間層に至るまで器用にコントロールすることは、限りなく不可能に近い。
よって現状はまさに八方塞がりの様相を呈している……わけだが、それを打開するための策が一つ、我が脳裏には浮かび上がっていた。
具体的には――
自分よりも遙かに目立つ存在を、創り上げるというものだ。
遺憾ながら、俺は現在、学園にてもっとも目立っている。
だが。
そんな我が身よりも遙かに眩い、太陽よりもなお輝かしい存在が現れたなら?
きっと皆そちらに注目し、俺のことなど捨て置くようになるのではないか。
何事もそうだが、ナンバー・ワンは目立つ一方で、ナンバー・ツーは地味な印象を受けるものだ。
ゆえに俺はナンバー・ワンの座を他者に譲ろうと考えた。
その対象こそが……
我が死神、セシル・イミテーションである。
「えっと……ボクなんかとペアで、本当にいいのかい?」
どこか困惑したような笑みを浮かべつつ、セシルが問い尋ねてくる。
ダンジョンを舞台とした授業にて、我々はペアを作れと指図された。
その相手になにゆえセシルを選んだのかと言えば。
「俺達は現状、ミス・エリーゼを挟む形でしかコミュニケーションを取れていないように思う。それは実に寂しいことじゃないか。せっかく縁が出来たのだから、もっと親睦を深めたいと、こちらはそのように考えている。もちろん、君さえよければの話だが」
このように言われて、無碍に出来るはずもなく。
「……うん、いいよ。ちょうどボクも、君とはもっと仲良くなりたいって思ってたから」
よし。
感触は悪くないな。
セシルもまた、こちらに興味を抱いているということは間違いがない。
「ではミス・エリーゼ。それからルミエール。我々もそろそろ、出発しましょう」
まず一本道を行く。
ここまでは同じ道程を進んだが、分かれ道に至った際、我々はあえて別のルートを選択した。
今回の探索はペアとなった相手と親睦を深めることが目的となっている。
であれば四人で固まって動くのではなく、あくまでもペアとして別々に動いた方が良い。
俺は石造りの空間を歩みながら、セシルに声をかけた。
「そういえば。俺は君の家柄であるとか、出身であるとか、何も知らないな。そこらへんの話を聞かせてはもらえないか?」
「ははっ。そうだなぁ……ボクの家は代々、エリーゼの生家に仕え続けてきた、いわゆる奴隷貴族ってやつでね。昔はまぁ、本当に酷い扱いを受けていたそうだけど」
「ふむ。今は違うのだろうな。君達の関係がそれを物語っている」
「うん。エリーゼ当人もそうだけど、彼女の両親が本当に良く出来た人達でね。きっと君のことも快く受け入れてくれると思うよ?」
……少々、話が脱線しそうだな。
ここで俺は別の話題を切り出した。
「話は変わるが……君の学内ランクを、教えてもらえないか?」
「学内ランク?」
「あぁ。無論、その格付けによって態度を変えるとか、そういった話じゃない。ただ、ほんの少しだけ、気になったというだけだよ」
セシルは特に疑問視したふうもなく、至極平然とした調子で受け答えた。
「ははっ。大して面白くもない数字だよ? 学年ランクが六二位で、学内は一九二位。まさに中の下って感じだよね」
自虐しつつ微笑する。
そんな彼の姿はまさに。
己が力を隠し、平凡なる学園生活を送らんとする陰の実力者、そのものであった。
我が理想を体現する彼に、嫉妬を禁じ得ない。
だがいずれ、その立ち位置はこちらのものとなろう。
そんな将来を形成するべく、今から布石を打つ。
無論、かなり踏み込んだ発言となるため、多少のリスクは生じるだろうが……
まぁ、そこまで大きな問題にはなるまい。
「なぁ、セシル君。一つ、聞いてもいいかな?」
「ん? なんだい?」
小首を傾げた彼に、俺は次の問いを放った。
「君は――――何か、隠し事をしているんじゃないか?」
ストレートな質問。
こうすることによって、否が応でも互いの距離は縮まろう。
俺は君のことを良く知っているぞ、と。
そんなアピールは最初の方こそ気持ち悪がられるかもしれない。
だが上手く距離感をコントールしていけば、俺の存在はいつしか、かけがえのない理解者として受け入れられるだろう。
俺が目指すところはまず、
セシルと友好関係を築きつつ、彼の力量を周囲へと吹聴。
然るべきタイミングで、彼に敗北。
そうした課程を踏めば、俺の評価は立派な二番手へと格下げされる、はずだ。
そうなる自信はあった。
前世での社会人経験が活きてくるだろうと、そんなふうに確信していた。
だが。
「ねぇ、アルヴァート君」
こちらの想定に、反して。
セシルは。
「君――――どこまで、知ってるのかなぁ?」
背筋が凍るような、冷たい雰囲気を放つ。
……なんだ、この反応は?
先刻の問いはあくまでも、「力を隠してるんだろう?」というニュアンスに過ぎなかった。
しかし、この反応はまるで……
虎の尾を、踏んだかのようではないか。
「答えてよ、アルヴァート君。君、ボクのことを、どこまで知ってるの?」
ヤバい。
なんか知らんが、とにかくヤバい。
あまりにも想定外過ぎて、どのように受け答えればいいのか、瞬時には判断出来なかった。
正直、とてつもなく動揺している。
……だが、それは。
どうやらセシルにしても、同じことだったらしい。
「っ……!?」
平時の彼ならば、次の瞬間に発生した事柄は、取るに足らぬ些事であったろう。
だが少なからず動揺していたがために。
横合いから、突如として現れた魔物の一撃に、対応が出来なかった。
「チッ……!」
狼人間……ベオ・ウルフの爪が、彼の上体を襲う。
だがセシルの身には傷一つ付くことはなかった。
きっと彼の魔力総量はルミエールと同格か、それ以上に高いのだろう。
よって無意識のうちに垂れ流している魔力が防膜となり、彼の肉体を守ったのだ。
しかし。
体は、完全に無傷、だったのだが。
特殊な効能を持たぬ制服については、そのようにもいかず。
咄嗟に身を守ろうと目前に上げた左腕から、上半身全体にかけて。
彼の制服はボロボロとなっていた。
「このッ……!」
怒りに身を任せた調子でベオ・ウルフを殴り付け、その一撃で絶命へと至らせる。
そんなセシルの姿を前に、俺は呆然となった。
……これもまた、想定外の極み。
まず目に付いたのは、破れた手袋。
普段、それによって隠されていた彼の手は……まさに、異形であった。
そして、さらに。
破けた制服の上着から。
女体特有の膨らみが、覗いている。
そう――
彼は彼でなく、実際は彼女だったのだ。
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