王国の闇を支配する最強最悪の貴族(陵辱系エロゲ主人公)に転生した俺、アブノーマルな展開は嫌いなので普通に穏やかな生活を……送ろうとしてたんだけど、気付いたら『ある意味』原作シナリオと同じ状態になってた
閑話 王国の危機を無自覚に防いだ……ってまたかよ!
閑話 王国の危機を無自覚に防いだ……ってまたかよ!
セオドアにとって、それは当初、茶番でしかなかった。
しかし、今ならわかる。
なにゆえ、クラリスがこのような一芝居を打たせたのか。
「……お気に召しましたか、会長殿」
「あぁ、えっと、そのぉ……き、機嫌を直してくださいませ、セオドア様」
適当に校庭内を散策している、といった風を装いながら、言葉を交わす。
無論、高度な秘匿の魔法を施しているため、この会話が外部に漏れることはない。
「皆の前で三下めいた芝居を打ち、彼の力量を引き出す。……本来であればそのような道化めいたことは断固拒否するところですが、大恩あるクラリス様にお頼みされたなら致し方なし、と。そのように納得はしておりました。えぇ。納得はしておりましたとも」
アルヴァートの内側に宿る彼がそうだったように、このセオドアに関してもまた、仮面を被った状態でことに臨んでいた。
全てはクラリスの指図によるもの。
アルヴァート・ゼスフィリアが夜王の転生体であるか否かを確認すべく、その実力を推し量りたい。
そのような依頼はセオドアからしてみれば、実に幻想的で馬鹿馬鹿しい内容だった。
アルヴァートがランク不相応の実力を有していることは、ある一件によって、セオドアも事前に認知してはいたのだが……
それにしたって、夜王の転生体というのは大仰が過ぎる。
だからこそセオドアは高をくくりながら決闘に臨み、そして。
「道化の芝居を見せ付け評判を落とすまでは、許容の範疇。なれど……この騙し討ちは少々、むごい仕打ちではございませんか? クラリス様」
そう。
きっとクラリスは、全てを知っていたのだろう。
アルヴァートが夜王の転生体であるか否かを調査したい。
それ自体がそもそも、方便。
クラリスが今回、主目的としていたのは――
「僕に対する、教育だったのでしょう?」
当人は困ったように笑うだけで、何も答えなかった。
それこそが何よりの回答であると、自覚しているのか否か。
いずれにしても。
セオドアは今回の決闘で、大きな心変わりを果たすこととなった。
「……生まれて初めて、でしたよ。あれほどの畏怖を味わうのは」
思い返しただけで震えが走る。
あれはもう、人の域など遙かに超越したバケモノだ。
夜王という御伽噺が現実化した存在であると言われても、納得が出来る。
そんな相手と対峙したからこそ、今、セオドアの心はバラバラになりつつあった。
「……フッ。愚弟の心が折れるわけだ」
セオドアがなにゆえ、前もってアルヴァートの力量を把握出来ていたのか。
それは弟が先んじて彼へ挑戦し、その一部始終を当人から聞かされていたからだ。
図書館にて接触し、指一本触れることが出来なかった、と。
そんな弟の名は……ラグザ・ヴィンドール。
セオドアは彼の、兄であった。
「……ラグザ様のご容態は?」
「もはや手の施しようもありませんね。愚弟は貴族として完全に終わっています」
弟の現状に対し、セオドアはなんの感慨も抱いてはいない。
貴族は力こそが全て。
敗北し、心挫け、逃げ去るような者など、歯牙にかける価値もない。
セオドアは良くも悪くも、この国の貴族そのものであった。
しかしそうだからこそ、彼はアルヴァートを次のように評している。
「アルヴァート・ゼスフィリア。彼の存在は、ある者にとっては死神であり……またある者にとっては、救世主となる。そんな彼と同じ時代に生まれたのは、僕にとって……実に、幸福でしたよ」
心は半壊状態にある。
プライドは根こそぎ奪われた。
傲慢であった性根も、バッキリと折られたように感じる。
だが、それでも。
セオドアの中に諦観の二文字は浮かんでこなかった。
「……僕は今、自らを恥じております。たいした才もないくせに、何を図に乗っていたのか、と」
それと比べてアルヴァートはどうであろう。
あれほどの力を持ちながらも中間層に甘んじ、力量の一切を見せようとはしなかった。
魔導士としても、貴族としても、そして人としても。
清々しいほどの、完敗である。
「クラリス様。ご存じでしょうか。人を成長させる最大の起爆剤。その名を」
「ふふ。えぇ、よく存じておりますわ」
敗北が自分を強くする。
そう信じているからこそ、セオドアは心の中で彼に感謝した。
ありがとう、アルヴァート。
君のおかげで、僕はもう一段階強くなれるだろう。
「貴女様にも感謝申し上げる。そして……これまで以上の忠誠を、お誓いいたします」
この一件は当事者達からしても大きなものだったが……
国家にとってはさらに、大いなる意味を持つ出来事であった。
……アルヴァートの内側に宿る彼には、知る由もない。
セオドア・ヴィンドールが自らの傲慢さを正さなかった場合、王国に未曾有の凶事がもたらされていたことなど。
彼の弟、ラグザ・ヴィンドールはクランク・アップが手がけた、とある作品の主人公である。
当然ながら、彼の兄であるセオドアもまた、その作品には登場しているわけだが……
傲慢な人格が行き着くところまで進んだ結果、彼は邪悪な弟に喜んで手を貸すような外道へと落ちてしまった。
力こそ全て。
力なき者の不利益は、総じて自業自得。
そんな思想に基づいた行動の果てに――
セオドアはラグザと敵対し、内戦を引き起こす。
自分こそがこの国の覇者たる王に相応しいのだと、真っ黒な欲望を燃やしながら。
最初は主人公の味方。
しかしてその実態は裏切り者のラスボス。
それこそが、セオドア・ヴィンドールというキャラクターの宿命であった。
弟にして将来の主人公たるラグザは今や心折れ、モブキャラも同然の存在へと身をやつしてはいるが……
たとえラグザの物語が消滅しようとも、セオドアは定められた宿命の通りに動いていただろう。
己が傲慢を暴走させ、国家に凶事をもたらす。
そんなシナリオは、しかし。
アルヴァートの内側に宿る彼によって挫折を味わい、傲慢を打ち砕かれたことで。
まったく別の内容へと、書き換わっていた。
――後に。
史書へ記されるほどの偉人として、国家の繁栄に尽力したセオドア・ヴィンドールは、今際の際にて次のように語ったという。
「私の実力など、終生、取るに足らぬものであった」
「そんな私が大業を成し得たのは、かの御方の存在あってこそ」
「我が末期の言葉、確と書き記せ」
「セオドア・ヴィンドールの功績は、総じて――」
「夜王様の、功績である」
~~~~あとがき~~~~
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