第四話 メインヒロインとの初対面


 序盤において親族を無惨な末路へ導いた後、学園へと入学。


 以降はヒロインである女生徒やモブの美少女達を好き放題陵辱していく……


 というのが、復讐の仮面鬼と高貴なるスレイブにおけるシナリオ概要となっている。


 されど序盤の段階でシナリオは完全な破綻を見せており、今後はどのような展開を見せるのか、未知数な部分があった。


 ……そういえば以前、管理者がこんなことを言っていたな。


 シナリオを破壊した場合、それに応じて設定が変わる、と。


 当時は重く受け止めていなかったのだが。

 なるほど。

 俺は少々、世界の修正力とやらを侮っていたらしい。


 学園への入学が決まってから数日後のことだ。


 我が家に学園関係者を名乗る者が現れ……屋敷の中庭にて、様々なデータを計測された。


 なんでも学内ランクとやらを決めるための措置、だそうだが……


 そんな設定、俺は知らない。


 少なくとも原作にはそのような学園異能バトルモノめいた設定はなかったはずだ。


 ……この世界は陵辱展開を諦め、まったく別のジャンルへと舵を取り始めたらしい。


 だが俺には関係ない。


「では魔法力を測定させていただきます」


 自分が成すべきを成す。

 それだけのことだ。


「ルミエール様の魔法力……攻防共に、抜群でいらっしゃる」


「アルヴァート様は……やや防御寄り、というところでしょうか……」


 データ測定においては、完璧な凡庸を目指した。


 俺は優等生になるつもりはないが、劣等生になるつもりもない。


 そもそもにして、モブキャラとは即ち中間層である。


 成績上位、あるいは下位周辺などは論外。


 それゆえに。


「ルミエール様は剣術も達者でいらっしゃいますなぁ」


「アルヴァート様は…………いやぁ、なかなかのものですな」


 侮られることもなければ、讃えられることもない。

 そうした凡庸を目指したことで……


 後日、屋敷へと届いた通達には、次のような結果が記されていた。


 学年ランク、五〇位。

 学園ランク、一四八位。


 ものの見事に中間層である。


 俺にとっては喜ばしい報告であったが、しかし父母からすれば吉報とはいえまい。


 ゆえに嫌味の一つでも言ってくるのかと予想したのだが。


ぐんらば影となるべし。……まさに格言通りですな」


「さすがですわ」


 この二人、あれ以降ずっとこんな調子である。


 力を覚醒させたこちらに対し、よっぽどビビり倒しているのだろう。


 そんなに媚びを売らなくても、もう手出しをするつもりなどないのだが。


 ……しかし、父母に輪をかけて気持ちが悪いのは、妹のルミエールである。


「あっ。に、兄様にいさま。お、おはようござい、ます」


 もはや別人のようだった。


 俺が知る彼女の朝の挨拶といえば、「あれあれ兄様ぁ~? 今日は昨日よりもしみったれてますけど、どうかしたんですかぁ~?」だった。


 それから美貌をにんまりと意地悪く歪め、すれ違いざまに腹パンを叩き込んでくるのが常であったのだが。


 ……ちょっとこれは、いくらなんでも豹変しすぎだろう。


 上っ面だけを見れば改心しきった様子であるが、俺は騙されない。


 おそらく彼女は機をうかがい、こちらを刺すタイミングを待っているのだ。


 それは屋敷の中だけでなく……きっと、学内においても。


 ルミエールは双子の妹であるため、俺と年齢差はない。

 ゆえに彼女とは同級生として入学することとなる。


 学園での生活は少々、スリリングなものになるやもしれないな。


 ……さて。


 事前のランク測定も終わり、制服などの支給も完了。


 俺とルミエールは旅立ちの日を迎えた。


 件の学園は全寮制となっており、三年間の学修課程が完了するまでは、寮内で生活することになる。


 親元を離れることについては特にどうとも思うことはなかった。


 ただ。


「いってらっしゃいませ、神祖様」


「貴方様の御名が世に知れ渡る瞬間を、我々は心待ちにしております」


 別れ際の挨拶が、どうにも引っ掛かった。


 ……いや、まぁ、きっと気のせい、だろう。


 あの二人は最後の最後まで媚びを売り続けた。それだけのことに違いない。


 今はそんなことよりも。


「じぃ~~~~~…………」


 妹の視線が痛すぎる。


「じぃ~~~~~…………」


 目的地である王都までは馬車で向かうわけだが、車内には俺とルミエール、二人きりの状態となっている。


「じぃ~~~~~…………」


 旅路が始まってからずっとコレだ。

 対面の座席に腰を落ち着けながら、こちらを常に凝視している。


 しかも、瞬きナシで。


 一瞬の隙すら見逃さないぞと、そういうつもりか。

 気にしていることを悟られるのも妙に癪なので、俺は妹の視線をガン無視し続けた。


 そうして居心地の悪い旅路を続け、ついに。

 王立貴人学園へ到着。


 この学び舎は名称通り、主に貴族の子息・令嬢が籍を置く場であるため、平民の生徒は存在しない。


 ただ例外として、平民の中でも国家に影響を及ぼすほどの財を成した者……豪族の子息・令嬢に限ってのみ、入学を許可されているという。


 ……正直にいえば、このような大仰が過ぎる学び舎など願い下げではある。


 そこらへんの庶民が通うような場所が最良であったのだが、侯爵家の嫡男がそのような学び舎に通ったなら、まず確実に目立ちまくるだろう。


 出自を詐称したとしても、なんのかんので身バレし、元の木阿弥となるに違いない。


 我が身の敵は世界の修正力である。

 これと戦うことを思えば、貴人学園への入学を受け入れるしかなかった。


 おそらくここが、もっともマシな生活を送れる場所なのではないかと、俺は睨んでいる。


「……世界とはかくも、思い通りにならんものだな」


 ボソリと呟きながら、ルミエールと共に校門を潜る。


 さすがに貴人達の学び舎なだけあって、門前の段階で豪奢極まりないものだった。


 内部についてもちょっとした展覧会じみた景観が造られており……どうにもブルジョア趣味が行き過ぎているように感じられる。


 本日からここが主な生活の拠点地となるのか。


 どうにも気分が重い。


 ここには、も居るわけだし、な。


 まぁとはいえ、積極的に絡むような愚行を犯さぬ限り、何も問題は――


「そこの君っ! ちょっと止まりたまえっ!」


 ――問題はないと、そう思った矢先にコレか。


 俺は言われた通りに立ち止まり、そして。


 背後を見た。


 そこに立つは、一組の少年少女。


 こちらを呼び止めたのは左側に立つ黒髪の乙女であろう。


 清楚かつ美麗な武士っ娘。

 そんな印象を受ける彼女は、豊満な胸を張ってこちらを睨み、


「君はゼスフィリア家嫡男、アルヴァート・ゼスフィリアだなっ!?」


 ……凜然とした声で、無駄に暑苦しく叫ぶものだから。


 早速、要らぬ注目を浴びるハメになった。


「えっ。ゼ、ゼスフィリア?」


「いやでも……《魔物憑き》って噂じゃなかったか……?」


 自らの醜い面貌に関してなんの手も打たぬほど、俺は愚かではない。


 偽装の魔法を用いることで、異形化した部分を正確に認識出来なくしている。


 それもこれも、目立たぬための努力、だったのだが。


「闇の一族……!」


「見た目はずいぶんと普通だけど……」


「公爵家の御令嬢に睨まれても、小揺るぎもしないだなんて……」


 しまった。

 ノーリアクションが過ぎたか。


 しかし今さら畏れを見せても時既に遅し。

 仕方がないので、このままの態度を貫きつつ……


 に、対処させてもらおう。


「これはこれはミス・エリーゼ。ご機嫌麗しいようで何より」


「君には、今のわたしが上機嫌に見えるのか!?」


 ずかずかとこちらにやって来る、黒髪の乙女。


 その名をエリーゼ・ルシフォルという。


 彼女は公爵家の御令嬢様であり……


 復讐の仮面鬼と高貴なるスレイブにおける、である。


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