第三話 メスガキ(妹)をわからせる


「「「――――ッ!?」」」


 父、母、妹。

 三者全員が吃驚を見せる中、俺は僅かに焦げた衣服を叩き、


「事前に言っておく。君の攻撃はもはや、全てが無意味だ」


 これはハッタリでもなんでもない。

 厳然たる事実である。


 俺が得た二つの異能。

 その一つは……


 あらゆる力に適応し、これを無力化する。


 その異能を発動している間、目視確認を行うか、あるいはこの身に受けた攻撃は。

 二度と、通用しなくなる。


 その証拠に。


「エ、エンシェント・フレアッ!」


 今度は一切の防御手段を用いることなく浴びてみたが、まったく問題はなかった。


 そして魔法の効果時間が終了し、紅蓮の柱が消滅した後。


「ファイア・ボール」


 未だ油断が残っていたのだろう。

 この一撃をルミエールは先刻と同様に、片手で弾こうとしたのだが。


「ぅあっ……!?」


 結論から言えば。

 火球はルミエールの手によって、消え失せた。


 しかしながら、そのせいで――


 彼女は、苦痛を味わうことになる。


「う、うう、腕がっ……!?」


 当たり前の話だが。


 かなりの速度で向かってくる超高熱の塊に対して、生身の腕を振るったなら。


 たとえ対象を掻き消せたとしても、相当のダメージを負うことになるだろう。


 今、ルミエールの腕は、黒焦げになっていた。


「あ、が、ぎぃっ……!」


 あまりの痛みに涙を流す妹。


 その有様もまた、適応の力によるものだ。


 我が身に宿る、適応の効果は何も、防御のみに徹したものではない。


 こちらの攻撃が直撃したなら。

 一撃目の段階で、相手方の防御魔法が、著しく弱体化する。


 ゆえに二撃目を手で払ったルミエールは、大火傷を負ったというわけだ。


 さりとて。

 適応の効力は


 もし、こちらの二撃目を浴びたなら。


 ありとあらゆる魔法が、こちらの認可を得ぬ限り、使用不可能となる。


「ファイア・ボール」


 さしものルミエールも、危機察知能力が働いたのだろう。


 避けなくてはマズい。


 だが、そうはいっても。


 彼女はもはや、こちらの認可なしでは魔法を発動出来ない。


 だから、肉体を強化して反射的に躱すことも出来ないし、攻撃魔法で相殺することだって出来ない。


「――――っ!?」


 ファイア・ボールは下級魔法である。


 けれども、球体状に圧縮された数百度の超高熱が、およそ時速一五〇キロ程度のスピードで飛来したとして。


 なんの防御策もなしに、それを浴びたなら。


 下級であろうがなんだろうが関係なく、肉体には甚大なダメージが刻まれるだろう。


「あっ……ぎゃあああああああああああああああああっ!」


 まずルミエールは衝撃によって吹き飛び、それから全身に引火。


 瞬く間に火だるまとなった彼女は、もうまともに叫び声をあげることすら叶わない。


「ぇあっ……ぎっ……ぃいっ……」


 小さな苦悶。

 されど彼女が味わう苦痛は、あまりにも絶大なものであろう。


 平時であれば魔法を用いることによって消火が可能なのだが、今、彼女はその全てが禁じられている。


 よってもはや、ルミエールは地面を転がりながら、悶え苦しむことしか出来ない。


 ……原作において、アルヴァートはその様を前に哄笑し、妹へあらん限りの罵声を浴びせかけていた。


 そうしてルミエールは見るも無惨な焼死体へと変貌、したわけだが。


「スプラッシュ」


 俺は水の魔法を浴びせかけ、妹の全身を灼き尽くさんとする灼熱を、鎮火する。


 俺はアルヴァートの人生を辿るつもりはない。


 これまでの鬱憤は十分に晴らした。


 であれば、命を奪うようなことはすまい。


 きっとルミエールもこれに懲りて、ちょっかいを出すような真似はしなくなるだろうし……万一繰り返すようなら、何度でもわからせてやるだけだ。


「母上」


「ひっ……!?」


「ルミエールの手当を。貴女は治癒魔法がお得意でしょう」


「は、はい。ただいま……」


 よほどこちらを恐れたのか、まるで使用人のような態度であった。


 そうして母が妹を治癒する最中。


 父がこちらへと、やって来て。


「…………これまでのご無礼を、どうかお許しください」


 なぜだか、気持ち悪いぐらい丁寧な言葉遣いで謝罪した、だけでなく。


 今までゴミ屑扱いしてきたこちらに対し、跪いてきた。


 ……きっと、俺の力に勘付いているのだろう。


 ゆえにご機嫌取りをしようと考えたのだ。


 事実、原作でも彼は同じ事をした。


 それに対しアルヴァートは、ある願いを口にする。


 俺もそれに倣うこととしよう。


「真に反省しているというのなら、一つ、お願いがあります」


「……なんなりと」


 原作において、アルヴァートがこの場面で吐いた台詞は、「地獄へ落ちろ」であった。


 それから彼はを用いて、父を人格的に殺害。

 哀れなゼスフィリア家当主は、未来永劫、地獄の苦しみを味わい続ける……


 といった内容だが、無論、俺はそんなことを願うつもりはない。


「約束の履行。忘れたとは言わせませんよ」


「……学園への編入、ですな?」


「はい」


「……お任せください。早急に対応させていただきます」


 もう完全にビビり散らかしている。

 これならば「やっぱや~めた!」とか言い出すことはないだろう。


「用件はここまで。本日は床に就かせていただきます。おやすみなさいませ、父上」


 一方的に言い置いてから、さっさと歩き出す。


 とりあえずは一件落着といったところか。


 ヒキニート生活の再来は、どうにか防ぐことが出来た。


 別に学園になど興味はないのだが、しかし、少年期に学び舎へ通うこともなく屋敷に引き籠もるというのは、望んでいる凡庸な生活とは程遠いものだろう。


「これで……俺は一般的な少年期を、送れるというわけだ……」


 自室に戻る道すがら、今後について思いを馳せる。


「……身を焦がすような失望など味わいたくない。だが、狂おしいほどの幸福もまた、俺には必要ない。欲しいのは、そう……穏やかな日常だ」


 やろうと思えば学園を席巻することも可能であろう。

 しかし、断じて、そのようなシナリオを演ずるつもりはない。


 俺は主人公であることを捨て、モブキャラへと身をやつすのだ。


 ヒロインとは極力関わらず。

 とも関わらず。

 持ちうる力の全てを、乞い願う平穏のために使う。


 

 かくして。

 アルヴァート・ゼスフィリア陵辱系主人公の人生は終焉を迎え――


 我が凡庸なる人生が、本格的な始まりを、迎えたのだった。






 ~~~~~~あとがき~~~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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