自分の運を自由自在にして都合のいいときだけめっちゃツイてるようにしたい、というのは、有史以来全ての人類が一度は考えたことがあると思いますが、これは本当にそんな人類の夢を叶えてしまった中学生の物語です。
彼は善行をおこなうことで、自分にしか見えないゲージを貯めて、好きなときにゲージを消費してラッキーになることができます。彼はこのためにボランティアなどを繰り返しており、「偽善は人の為の善」などとうそぶいています。
物語の中で、彼は運命のいたずらに巻き込まれ、幸運を全て投げうち自己満足的な自己犠牲による救済をおこないます。これが単なる偽善なら、世の中にほんとうの善などあるのでしょうか。そもそもわれわれは、彼のおこなうところの偽善を満足になすことができるのでしょうか。
電磁幽体先生は、まるで魔術師のように、作品の中で複雑に渦巻く人間の感情を表現し、読者を翻弄しますが、まっすぐに人を助ける、輝かしい精神を持つ者を描くと、他の追随を許しません。「妖精の物理学」や「星滅のリット」の主人公もそうですが、本当に単純な理由で人を守り、その意志を貫き通します。電磁幽体先生は、こうした人間を、照れもなく本当にカッコよく描ける稀有な創作者だと思います。この作品の主人公もまた、他人のために全てを張れる真の男です。この作品のラストは、彼が自らの善の積み重ねで手繰り寄せて得た、素晴らしい結末です。
(余談)読み終わったあとは、電磁幽体先生の別作品「レッドライン」を読むことをおすすめします。両者が合わさり、さらに忘れられない読書体験になると思います。